20話 邪神召喚
〈魔国ビンセルン〉に住む魔人全てが闘技場へと集められた。
魔人たちは重要な発表があるとしか知らされておらず、皆不安を抱えながらも集まっていた。
レイがシロに指示してから数時間程度しか経っていないが、シロが他の戦闘メイドと共に作業にあたったためこの時間で集めることに成功している。
シロは先ほどレイにお褒めの言葉を頂き胸が一杯だが、そのことは全く表には出さない。
全ての魔人が席に着いたことを確認してからシロは合図を送る。
「フェリグリス様、四天王の方々」
フェリグリスたちはシロに頷いてから魔人たちの前に姿を現す。
普通ならばここで魔人たちは歓声を上げるのだが、今回は上げなかった。
それはフェリグリスたちの雰囲気が以前とは全く異なっていることと、フェリグリスたちの顔が真剣そのものでそのような雰囲気ではないからである。
闘技場の中央で客席に座る魔人たちを見渡してから、フェリグリスは切り出す。
「これより魔神レイ様より発表がある。心して聞くように」
言い終わると、フェリグリスの隣にレイが突然現れる。
「これより新たに魔王となる邪神を召喚する」
魔神たちがざわつく。彼らにとって魔王はフェリグリスだけだろう。
「異論は認めない。フェリグリスも容認した。これは魔神軍を強化するために行う、決定事項だ」
魔神軍を強化というところで納得したようだ。魔人たちは一様に戦力が足りないことを理解していたようだ。
もし、人類に打って出るならば戦力が決定的に足りていない。だが、そこに邪神が加わればどうなるか。更に今は魔神であるレイもいる。魔人たちが落ち着くのに時間は要しなかった。
レイはアイテムボックスから取り出した【邪神武具】とミーシャに預けておいた憤怒之剣を空間魔法を利用し、空中に固定する。
それらから邪神の封印場所を探知。そこから邪神の一部を呼び出す。封印は神の力が施されており、現地に行かねば解けないようにされている。
それぞれの【邪神武具】の後方に黒く不安定な穴が出現した。そこから姿を現したのは7人の三対の漆黒の翼を持った邪神だった。
邪神たちは各々の【邪神武具】を手にすると、そのまま降下し、レイへと頭を垂れる。
レイの目の前に降り立ったのは憤怒の邪神サタン。長い黒髪と漆黒の瞳を持っており、どこか勝ち気な印象を受ける。スタイルも自己主張している。
レイはサタンから右に向かって視線を送っていく。
強欲の邪神マモン。燕尾服をきちっと着こなしており、いかにも老執事といった悪魔だ。少し老いているが黒髪には艶があり、その髪をオールバックにしている。
傲慢の邪神ルシファー。筋骨隆々で軍人のような印象を受ける。黒髪は短髪にしている。筋骨隆々だが穏やかな表情をたたえている。
暴食の邪神ベルゼブブ。まさに子供で無邪気さがにじみ出ている。同じく黒い髪をしている精霊のようなぬいぐるみを抱えている。
嫉妬の邪神レヴィアタン。黒髪はボブにしている。無表情で個性がないように見える。
色欲の邪神アスモデウス。腰まで黒髪が伸びており、サタンよりもスタイルは良い。隙あれば色欲をまき散らしそうである。
怠惰の邪神ベルフェゴール。子供の印象は受けないが、姿は幼い。所謂ロリである。浮いている黒いマントのようなものの上で眠っている。
見守る魔人たちの中にはサタンたちを見て、震えている者もいる。邪神と魔人では存在の階位が違うので当然だが、サタンたちはこれでも半分程度の力しか有していない。封印状態で半分も力を引き出せたのはレイだからなのだが。
「お呼びくださりありがとうございます。魔神様」
代表してサタンが礼を述べる。
「封印状態であるのにも関わらず半分も力を引き出して頂き、感謝に堪えません」
魔人たちの中には本能的に恐怖を覚えた者もいたが、今ではこれほどの力を持った者が魔王となり頼もしいというのが総意だ。
「よろしければこれから仕える魔神様のお名前をお教えいただけないでしょうか?」
「俺はレイ。魔神レイだ。これから宜しく頼む」
この後、影人族を紹介し、影人族の指導にルシファーを任命し、新たな軍『混合魔獣軍』の指揮にベルフェゴールを任命した。
他の邪神たちは魔神軍全体の魔王として籍を置く形となった。
「これが最後だ。〈魔国ビンセルン〉に住む魔人は皆が兵士だ。兵士の質向上はそのまま魔神軍の向上に繋がる。よって、皆には日常的に鍛えてもらうこととする」
言って、レイは〈魔国ビンセルン〉全域に及ぶ結界魔法を発動させた。
「この結界内にいる者は日常的に重力と魔法抵抗を受けることになる。これは一定期間おきに重くなっていく。この状況下の中〈魔国ビンセルン〉で生活すれば知らず知らずの内に強くなれるだろう。以上だ。これからも〈魔国ビンセルン〉のために働き、研鑽してくれることを期待している」
去って行くレイや魔王たちを忠誠の礼で魔人たちは見送った。
=========
これは【カルゲン】で勇者召喚が行われる1年前の物語である。
次話より新章です。
ずっと書きたかった構想が書けるので作者自身楽しみです。
読者皆様に楽しんでいただけるように頑張りますので、応援宜しくお願いします。