17話 罪と涙
PVが1万を超えていました。
本当にありがとうございます!
これからもっと面白いと思える作品にしていきたいと思いますので、これからも宜しくお願いします。
ミーシャは怒りを抱きながらも意識はしっかりとしていた。それは憤怒之剣がミーシャの怒りを吸収しているためだった。
今のミーシャを表すにはマグマが相応しいだろう。
静かに、しかし確かにマグマの如き怒りは湧き上がる。
「黙れ、偽善者が」
「偽善者? 何を証拠に言っているのかな?」
「偽善者だろう。私に気付けなかった時点で」
「はて、君とは初対面のはずだが」
ミーシャは今抜刀していた剣を納刀し、憤怒之剣に手を掛ける。
(私に目の前の男を斬る力を貸して)
ミーシャは確かに憤怒之剣から力が流れ込んでくることが感じ取れた。
そして、抜刀する。
邪神の力の一端が解き放たれる。
――ぞくっ
グードラスは急いで抜刀する。そうしていなければ心が折れそうだった。
(これが邪神の力、これでもその一端とは……。やはり封印せねばならぬものだな)
ミーシャは床が砕ける程に踏み込み、グードラスへと黒き閃光となって迫る。
グードラスは直感でそれが危険なものと悟ると右に飛んで回避する。
ドンッ! という衝撃音と共にグードラスがさっきまでいた床は蜘蛛の巣状の罅が走っており、中央は粉々に砕けていた。
回避は正しい選択だったようだ。
砕かれた床を見て、グードラスは冷や汗が流れた。
グードラスは本気で行かねばすぐにやられると判断し、切り札を切る。
「どうやら本気で行かねば私がやられてしまいそうなのでな、悪いが切り札を切らせてもらう」
グードラスの切り札。それは竜殺しの力。いや、竜殺しを成した力だ。
「〈聖衣解放〉」
呟いたと同時にグードラスの魔力が跳ね上がる。
そして、グードラスが纏っていた鎧が剥がれていき、中から荘厳な光を放つ新たな鎧が現れる。
その姿はまさに聖なる騎士。
神より与えられた鎧の力を解放する秘術で、これで戦闘力は爆発的に跳ね上がる。
「サンタ村」
「っ!」
グードラスは聖衣解放した時は常勝していた。今回も勝てるだろう、と自信に満ちていたのだが、ミーシャから放たれた言葉に驚愕した。
サンタ村。それはグードラスの指揮で聖伐した村の名前だった。
「まさか……君は……。……っ!」
グードラスは更に驚愕することになる。
ミーシャが〈黒炎鎧装〉を発動したからだ。
ミーシャの足下から黒炎が現れ、それがミーシャの最強の鎧となっていく。今回は憤怒之剣から力を得ているため、普段よりも力は増していた。
片や神の鎧を纏いし聖国騎士。片や地獄の黒炎の鎧を纏いし暗黒騎士。
先に仕掛けたのはミーシャだった。
転移のような速さでグードラスの後ろに現れたミーシャは、袈裟懸けに斬り付ける。
グードラスはそれを後方に跳び回避しながら問う。
「君はあの村の生き残りなのか?」
「だとしたら?」
グードラスを追いかけ、斬り付けながら答える。
「すまない。謝って済むことではないことはわかっているが」
剣で防ぎ、跳ね上げるようにして軌道を逸らす。
その言葉を聞いてミーシャはその場で立ち止まった。その隙にグードラスは射程外へと移動する。
「謝って済むことではないことはわかっている? ふざけるな! お前たちはどれだけの営みを奪った? お前たちはどれだけの命を奪った? 命で償ってもまだ足りないほどの罪を重ねたんだ、お前たちは!」
これまでにないスピードで迫ったミーシャは神速の剣を振るう。グードラスは剣を盾代わりにして防ぐが、意味はなく後方の壁に激突する。その衝撃で壁は蜘蛛の巣状の罅が走る。
「かはっ……!」
あまりの衝撃に気絶しそうになるが、聖国騎士団総団長の誇りにかけて何とか持ちこたえる。
「どれだけの血が、涙が流されたと思う! そしてお前たちはそれを考えたことがあるか? 答えろ、聖国騎士!」
剣を杖代わりにしながら立ち上がったグードラスは、ミーシャの目をまっすぐ見据え、答えた。
「私は聖国騎士団総団長グードラス・フィル・ドラゴンキラー。総団長であるが故に私は部下の騎士たちを一番に考えている。だが、殺めてきた者たちのことも忘れたことは一度もない。私たちが犯してきた罪は決して償えないものだ。君の言うとおり命でさえも。しかし、君には悪いが私に後悔はない。恨んでもらっても構わない。私はそれに全力で応えよう」
「そうか。それだけでも聞けて良かった。だが、私はお前たちを許せない」
いつしか、ミーシャの瞳には涙が溜まっていた。その涙が黒炎の光を反射してきらきらと輝く。
ミーシャの感情が解放されていく。さながら、マグマが流れ出るように。それに従って力が増大していく。
グードラスは警戒を高めていくが、不謹慎とわかっているが美しいと感じてしまう。
瞬間、ミーシャはグードラスの後ろにいた。
「なっ……!?」
自身へと振り下ろされる剣と体の間に何とか剣をねじ込み、ミーシャの剣戟を受け流す。
直ぐさま後ろへ跳び、距離を取る。
ミーシャも直ぐさま追撃に入る。
「母さんは! 父さんは! アーシャは! 村のみんなは! 何故死ななければならなかった! 何故、何で、何でよ……。返してよ……。返して! みんなを返して!」
一言ごとに剣戟は重くなっていく。
――ああ。
グードラスは思い至った。自分が犯した罪を。どれだけ重い罪か。どこか他人事のように感じていた。だが、それは一番してはならなかったことだった。
自らを正当化し、どこか罪を軽くみていた聖国騎士団が今のミーシャを生み出してしまったのだ。
――目の前の少女はどれほどの努力を経て、これほどの力を得たのだろう。
想像もできない。
想像もできないからこそ、悟った。
自分は目の前の少女には決して敵わない、と。
黒い刀身である憤怒之剣の剣筋とグードラスの白い剣の剣筋が幾重も描かれる。
グードラスが魔法を放っても、黒炎で燃やし尽くされたり、剣で切り裂かれたりし、防がれる。
グードラスの体はすでに限界を迎えていたが、見ればミーシャは息切れすらもしていない。
始めから勝敗は付いていたのだ。
「はあああああ!」
グードラスの最後の力を振り絞り、聖国騎士団総団長の誇りも乗せて放たれた振り下ろしもミーシャは紙一重で躱し、憤怒之剣を両手で強く握る。
憤怒之剣に多くの魔力を注ぎ、強化した憤怒之剣をグードラスの胴体に横一文字に打ち込む。
「あああああ!」
打ち込まれた瞬間、グードラスは「見事」と口を動かした。
弾丸のように吹き飛び、後方の壁に前回以上の衝撃で激突したグードラスはそのまま受け身を取れず、倒れ込む。
なけなしの力を振り絞り仰向けになったグードラスは横に立ったミーシャの目を見つめる。
「ふっ……。……私の、惨敗、だな。……最後に、君の名前、を」
「暗黒騎士団団長ミーシャ」
「……ミーシャ。あり、がとう。君、の、お陰で間違い、に気付、けた。……君たちの、生活を奪っ、てしまって、ほん、とうに、すまなかった。おこがましい、お願い、だが、最後は、君の、手で、終わ、ら、せてくれ、ない、か……?」
その言葉に満足そうに微笑むと目を閉じる。覚悟を決めたのだろう。
「わかった」
ミーシャの一刀によってグードラスの首は落とされた。
「母さん、父さん、アーシャ、村のみんな。みんなの敵は討ったよ。……だから、安心してね」
ミーシャは復讐を果たした。しかし、流れ出る涙を止めることはできなかった。
この章が終われば、より大きく、面白く展開していく予定なので、これからも宜しくお願いします。
筆者もそれが皆さんに伝わるように文章力を上げていきたいと思います。