12話 希望
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私は今、隠し通路を這っている。
正直言えば、今すぐにでもあいつらを殺しに行きたいがお母さんやお父さんの行動を無駄にはできない。
しばらくすると、あの広い空間に出た。
目の前には転移陣。もう迷いはない。
これがどこにつながっているかわからないけど、行けば私の運命が変わる気がする。
意を決して、私は転移陣に踏み込んだ。
すると、眩い程の光が部屋を包んだ。
気が付くと、私は平野にいた。
どこかわからないけど、とにかく移動しなくちゃ。
そう思い、一歩踏み出したけど、私はその場に倒れこんだ。
「えっ……!?」
体が思うように動かせない。
あれっ!? 息も苦しい……。
なんで? 私、ここで死んじゃうの? お母さん、ごめんなさい。
そうして、ミーシャは意識を失った。
◇ ◇ ◇
時は村が聖騎士に滅ぼされた頃に戻る。
俺は今再びフェリグリスと戦っていた。
この前には四天王とも戦っている。
なんでも、鍛えてもほしいそうだ。
だが、俺には人に何かを教えることなどやったことがないし、なにより苦手である。
だから、取り合えず叩き潰すことにした。
フェリグリスたちは強い。それは本人たちもわかっているだろう。
その自信を叩き潰す。上には上がいると実感させ、貪欲に知識を得てもらうためだ。
俺は今、〈憤怒〉などの大罪スキルを使っていない。
使っているのは、〈強欲〉で作成した〈闘神〉、〈武神〉、〈魔導〉だ。
〈闘神〉は、闘術や体の動かし方など戦いに関するもの全てが神級になるスキル。
〈武神〉は、武具に関するもの全てが神級になるスキル。
〈魔導〉は、イメージしたあらゆる魔術を具現化できるスキルだ。
三つともそこそこ(レイ基準)魔力を込めて作成した。
いわゆるチートスキルである。
先日、勇者が召喚されたと聞き、それに対抗して創った。
異世界召喚された勇者はチートと相場が決まっているからな。
そんなことを考えていると、フェリグリスの拳が迫ってきた。
俺はそれを半身になって躱すと、右手に魔力を込める。
〈闘神〉の中にある身体強化だ。
魔力を込めるだけ強化されるらしいが、今回はフェリグリスが気を失わない程度に魔力を込める。
それを腰の回転も加えてフェリグリスの鳩尾に繰り出す。
「ぐほぁっ!」
奇妙な声を上げてフェリグリスが吹き飛んでいき、壁に激突して止まる。
まだまだだな。
「……?」
そこで、俺は奇妙なものを感じ取った。
何か、人であろうものが突然ここから離れた平野に現れたのだ。
俺は気になったので見に行くことにした。
フェリグリスのことなど知らん。
「俺は平野に現れた何かのところに行って来る」
「は、はい。いってらっしゃいませ」
うん。フェリグリスも平気そうだ。
ということで、俺は気兼ねなく平野に向けて、出発した。
◇ ◇ ◇
平野に着くと、そこには倒れこんだ黒髪の少女がいた。
「まあ、俺には関係ないか」
魔族ではなさそうだし、見捨てようとしたが、俺の目には気になるものが写った。
「これは……」
鑑定すると(これもレイが創った。この世のあらゆるものを鑑定することができる)、【邪神武具】憤怒之剣と出た。
憤怒。俺の大罪スキルの憤怒と何か関係があるのだろうか。
俺は気になったので、この少女を連れていくことにした。
◇ ◇ ◇
目が覚めると、私は石造りの部屋のベッドの上で寝かされていました。
「起きたか」
声のした方に視線を向けると、白髪紅眼の男性、いや青年がいました。
私、白髪紅眼の人なんて初めて見ました。本当に実在したのですね。
「あの、あなたは……?」
「俺はレイ。【魔神】レイだ。今は、魔族の王をやっている」
【魔神】。それに魔族の王。つまり、この人は人間の敵?
でも、悪い感じはまったくないけど……。
そこで、私はあれがないことに気が付きました。
「そうだ! 私の剣は!?」
すると、えっと、レイさんが私の上、つまり枕の上を指差しました。
起き上がって、見てみるとそこにはお母さんに託されたあの剣がありました。
「よかった……」
……あれ? でも、なんかさっきよりも赤い筋が太くなっているような……。
私が首を傾げていると、レイさんが話しだしました。
「この【邪神武具】は憤怒之剣という」
「……憤怒之剣」
名前があるなんて知りませんでした。
でも、そうですよね。剣とか武器なら名前ぐらいありますよね。
「憤怒之剣はその名の通り持ち主の憤怒を吸収し、力を増す」
この剣にそのような力が……。
「お前、憤怒を抱くようなことがあったのか?」
レイさんが淡々と聞いてきます。
憤怒を抱くようなこと。
それはあれしかありません。
私は、レイさんに私たちの村のことを話しました。
話している内にまた怒りが込み上げてきて、でもそれ以上に悲しみが押し寄せてきて。
私はまた涙を流していました。
すると、レイさんは私の頭の上に優しく手を乗せてくれました。
「よくわかった。……よく、一人で頑張ったな」
レイさんの声は相変わらず淡々としていました。
でも、私にはこの気持ちを理解してくれただけで……。
この気持ちを理解してくれる人なんていないと思っていたから。
私の気持ちは決壊し、レイさんの胸の中で号泣しました。
レイさんは私が落ち着くまで待ってくれました。
思い出すと、少し、いやかなり恥ずかしいです。
私の顔は赤くなっているでしょう。
「なら、こっちに来るか?」
レイさんは唐突にそう聞いてきました。
こっち、とは魔族側のことでしょうか。
「こっちに来るなら人族とかは裏切ってもらうことになるが」
この言葉は私が待ち焦がれていた言葉なのかもしれません。
人族や連合軍を裏切ることに抵抗などありません。
しかし、私には聞かねばならないことがあります。
受諾の意も込めて、私は尋ねました。
「私は強く、なれますか?」
鼓動が早くなるのを感じます。
早く答えを聞きたいし、聞きたくない矛盾する気持ちが私の胸を駆け巡ります。
「それはお前次第だ」
そう、ですよね。
「だが、お前が何よりも強く、そう願っているのなら、その覚悟があるのなら、俺がお前を強くしてやる」
その言葉を聞いた時、私は泣きそうになりました。
「はい! よろしくお願いします!」
「これからお前は今まで経験したことのないことに挑戦し、乗り越えてもらう。覚悟はしておけよ」
「はい!」
そうして、私は絶望を塗り替えられるかもしれない希望を手に入れました。
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