11話 絶望
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【グラムス聖国】。
エンドラ山脈の麓にあり、はるか昔魔族の侵入を阻むために聖教徒が集まったのが始まりとされており、世界に広がる宗教〈聖教〉の総本山である。
〈聖教〉は歴史が古い。様々な説があるが、少なくとも500年前からあるとされている。
【100年戦争】以降、アステナ神が主流になったが、一部の地域や人々の間では鍛冶神や武神などの〈聖教〉が信仰されている。
【グラムス聖国】では、アステナ神の〈聖教〉を国教としている。
【グラムス聖国】が有名なのは〈聖教〉の総本山ということだけではない。
武力国家としても有名である。
聖騎士。
【グラハム聖国】を治める教皇に認められた者だけがなれる騎士の中の騎士である。
聖騎士になれる可能性があるとされた騎士は、調査が行われる。
実力、性格、周りからの信用。
この3点から評価され、その評価基準をクリアした者が聖騎士になれるのだ。
このように調査が行われ、選ばれた者だけが聖騎士になれるため、他の国々からの聖騎士に対する信用は高い。
聖伐。
それは聖教以外の危険思想を持った宗教集団を討伐することだ。
危険思想を持った宗教集団。
それに分類されるのは2つ。
邪神教と魔神教である。
邪神と魔神は共に世界を滅ぼそうとする存在。
邪神教と魔神教はそれらを復活させようとしているのだ。
邪神教と魔神教は互いに不可侵を暗黙の了解としている。
故に、行動が予測できないのだ。
それに加え、拠点も特定できていない。
【グラハム聖国】は邪神教、或いは魔神教を信仰している村を滅ぼし、そこから情報を集めるしかない。
この状況に【グラハム聖国】は焦っていたが、村を襲ってもなにも情報がないため良い解決策がでないでいる。
数日後に、また1つの村が聖伐される。
◇◇ ◇
太陽の日差しが眩しいけど、穏やかな風が流れる私の村は今日も平和そのものです。
今の時期は農閑期だからあまり忙しくない。畑仕事はたまに雑草を抜く程度だから簡単。でも、私には家のお手伝いがある。積極的にします、だって、私はお姉ちゃんだから。
私の5歳年下の妹のアーシャは今年で10歳。アーシャにすごいところをみせなきゃ。
「ただいまー」
畑の雑草抜きが終わり、家に帰るとお母さんが出迎えてくれる。
「あら、おかえり。ミーシャ。お疲れ様。……髪が少し汚れてるわね。折角綺麗な赤髪なんだから、きれいにしてらっしゃい」
お母さんは私の髪をとても気に入っているようで、少しでも汚れていると今回のように
きれいにするよう言ってくる。
私も気に入ってるけど、お母さんの方がきれいだと思うけどなぁ。
髪をきれいにした後、私はアーシャの部屋に向かう。
この時間は絵本で文字の練習をしているはずだ。
「お姉ちゃん!」
私が部屋に入ると、アーシャは読んでいた絵本をその場に置き、私に駆け寄り抱き着いてくる。
アーシャは言葉は大体話せるのだが、文字がまだだ。だから、簡単な絵本で文字の練習を行っている。
「ただいま、アーシャ。お父さんは?」
「えっとね。お店屋さんのところ」
アーシャが言うお店屋さんとは行商さんのことだ。
月に数回このサンタ村にやってくる。
食べ物だけでなく、日常に必要なものまで売ってくれてこの村にはなくてはならない人
です。
お父さんはこの村の村長で、村のみんなから尊敬されています。
もちろん。私も尊敬していて、将来はお父さんみたいな村長になるのが私の夢です。
この夢をお父さんもお母さんももちろんアーシャも応援してくれています。
家族の思いに応えなきゃ。
これからもっと勉強を頑張ろう。
しかし、そんなミーシャの夢は翌日、絶対に叶えることができなくなった。
◇◇ ◇
翌日、起きてから畑の様子を見に行こうと家を出ると、村がいつもより騒がしい様子でした。
「お父さん、どうしたの?」
家の前にいたお父さんに聞くと、村に向かって馬に乗った人がたくさん来ているそうです。
行商さんは昨日来たばっかりで来ないはずです。
では、一体誰なのでしょう。
畑の様子を見に行こうとすると、お父さんに止められたのでお父さんの横で立っていると、お父さんは当然お母さんを呼びました。
そして、お父さんは険しい顔をして、武器を持って走っていってしまいました。
「ミーシャ。これから村の秘密を話すからよくお聞き」
お母さんに呼ばれ家に戻ると、お母さんから村の秘密を教えられました。
「この村はね憤怒を司る邪神サタン様を信仰しているの」
それは聞いたことがあります。
「だけどね、邪神様は他の村や国では嫌われているの」
それは知りませんでした。
「でもね、この村は何も疚しいことなんてない。邪神サタン様はね、この村がたくさんの魔物に襲われそうになった時この村を守ってくれたと言われているの。それから、この村では邪神サタン様を信仰していくようになったの」
「そのサタン様はこの村の守り神なんだ」
「ええ、そう。守り神なの。でもね、他の人にとってはね、邪神を信仰することはいけないことなの」
外で戦う音がします。気になります。でも、お母さんが私の顔を放してくれません。
「でも、そんなことは知らない。だって、この村を助けてくれたのは邪神様であって他の人ではないのだから」
それはそうです。私は頷きます。
すると、お母さんは安心したように微笑みました。
私にはそれがひどく怖く感じました。
まるで、どこかに行ってしまいそうな、そんな感じがしました。
「理解してくれて嬉しいわ。これであなたに安心して託せる」
お母さんは、そう言って私は絶対に開けてはいけないと聞かされていたテーブルの下の隠し扉を開きました。
「これは隠し通路。この先には邪神サタン様に託された【邪神武具】と一度しか使えない転移陣がある。あなたはそこから【邪神武具】を持って逃げなさい。そして、その先にいる者に助けを求めなさい」
え、でも、それじゃあ
「お母さんはどうするの?」
「私はアーシャと逃げるわ。安心して、私は死ぬ気はないから」
またお母さんが微笑みます。
だめです。その顔はだめです。
お母さんがどこかに行ってしまう。その前に止めなくちゃ。
「おかあ――」
「お前たち、早く逃げろ! 聖騎士がこの村を滅ぼしに来た!」
お父さんが玄関を蹴破るように入ってきた。
え? 聖騎士? それって正義の味方なんじゃ……。
「ついに来たのね。ミーシャ。聖騎士は多くの人にとっては正義の味方だけど、私たちにとっては違う。だって、私たちはこの村を救ってくれた邪神様を信仰しているだけだもの」
「ミーシャ、生きろよ」
「ミーシャ、元気でね」
お母さんがアーシャを抱えてくる。
アーシャは何が起きているかわからないという顔をしていたが、お母さんに抱えられて嬉しそうだ。
「お姉ちゃん。バイバイ」
アーシャはいつも通りの挨拶をする。
だけど、私にはそれが別れの挨拶に聞こえて。
「やっぱり、私も――」
次の瞬間、私はお父さんに突き飛ばされ、隠し通路に落ちていた。
「――え!?」
「じゃあな、ミーシャ。愛してる」
その言葉を最後に隠し通路の扉は閉められた。
「お父さん!? ねえ、開けて!」
私は扉をドンドンと叩くが、反応はない。
扉も開く様子はないので、なにか上に置いてあるのかもしれない。
しばらく扉を叩いていたが、その時ふと思い出した。
「そうだ【邪神武具】」
お母さんが言っていた【邪神武具】。それならもしかしたら。
私が狭い隠し通路を這って進むと、私が立てる程の広い空間に出た。
目の前には黒い刀身に赤い筋が走っている美しい剣が祭壇らしきものに刺さっており、その向こう側に魔法陣があった。
あれが転移陣。
そして、これが
「【邪神武具】」
私が手を伸ばし、それを掴むと感じた。
手に馴染む。どんな風にも振れそうな気がする。
私が剣を抜こうとると、剣は抵抗なくするっと抜けた。
握っていると、力が湧いてくる。
これなら!
私はすぐさま戻り、扉に剣を突き刺した。
すると、扉は上に弾け飛ぶように砕けた。
待ってて! すぐに追いつくから。
私は急いで、家を出た。
しかし、そこで私は言葉を失った。
「な、に……これ……」
目の前はまさに地獄でした。
村のいたるところに村のみんなの遺体が散乱していた。
血の海に沈んでいて、死んでいることが一目でわかった。
そして、私が視線を横に向けると、そこにはお父さん、お母さん。そして、アーシャの見るも無残な遺体があった。
なんで、こんなに。ひどい……。
涙が溢れてくる。とめどなく、もう戻らない日常を無情にも突き付けられて。
溢れてくる。涙と共に。
とめどない、憤怒が。
「何が、聖騎士……だ。正義なんかじゃなかった……。お前たちが正義を語るなら、私はその正義を否定する!!」
私は虚空を睨んで叫んだ。
ミーシャの髪は赤色から黒に変わっていった。
遅くなりました
すみません
構成に時間がかかってしまいました