10話 勇者の役目
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「この神話の通り、勇者は神の命を代償にして創り出された魔王と魔王軍に対する最後の希望なのです。しかし、我々が思うよりも魔王は強大でした。これまで何度も11人の勇者が魔王に挑みましたが、全て敗北し殺されています」
その言葉にこの場にいる勇者たちは黙るしかなかった。
勇者になってからかつての勇者の歴史を聞かされてきたからだ。
心の中に不安はあった。自分たちもかつての勇者たちのように魔王に敗れ殺されるのではないか。
しかし、その不安を外に出すことはできなかった。
ミカエルの言ったように勇者は人々の希望であると教えられ、自らもそのことを体感してきたからである。
「そのため、我々七つの祝福は【カルゲン】の11人の勇者を過去と同じようにならないように強くすることを決定しました。それぞれの特性にあった修行をそれぞれの女神が行う予定でした」
ミカエルの話しに夢中になり皆、食べ物へ向かう手は止まっていた。
「予定だった? 何かあったのですか?」
スイがミカエルに尋ねる。
ミカエルは神妙な表情で頷いた。
「数日前、神託がありました」
『【カルゲン】にラプラスとは異なる魔神がいる可能性が極めて高い。至急、異世界からの勇者召喚を行います。アステカに【カルゲン】の勇者を集め、召喚の補助を行いなさい』
ミカエルはこれを数日前に受け取っているが、実はこれは未来のアステナから送られたものである。
神託を受け取ったミカエルは他の女神に連絡し、至急【カルゲン】の勇者をアステカ王国に召集した。
そのことを礼音たちに伝えると、食堂は重い空気に包まれた。
当然である。魔神がどれほど恐ろしい存在が先ほどの神話で理解したのだから。
「ならば、私たちに魔神と戦えっていうの?」
セイリュウがミカエルに尋ねる。
ミカエルはそう捉えられても仕方がないと思った。
だが、そうではない。
「いいえ、違います。魔神は文字通り規格外の化け物。恐らく、神に兵器としての側面も持って創られた我々女神族にしか対抗できないでしょう。勇者には魔王と魔王軍を相手にしてもらいます。魔神のことは知らせておいた方がいい、という神の意向です。もし、魔神が【カルゲン】に実在した場合、ほぼ確実に魔王と手を組んでいます。そのことだけは忘れないでください」
言い終わると、ミカエルは食堂を出ていった。
その後、各々色々考えることがあるだろう、とのアルバスタの言葉でその場はお開きとなった。
礼音たちはフィリナに連れられて、王城を歩いていた。
「皆さんはご自身の髪の色が変わったことを気付いていらっしゃいますか?」
それには召喚されてからすぐに気付いた。だが、何故変わっているのかはわからなかった。
「【カルゲン】ではその者の最も適性のある魔法属性の色が髪に表れます。炎ならば赤。水ならば青。風ならば緑。岩ならば茶。雷ならば金。聖ならば金がかった白。闇ならば黒。属性がないユニーク魔法の者も黒です。そして、魔法の適性が一定値よりも高く、その上全ての魔法に適性があり、その適正値がほぼ同じだった場合のみ白髪紅眼になります。エン様が言っていた『化ける』というのは、適正値が高い程髪の色は透き通ります。礼音様たちはとても髪が透き通っていますので、鍛えればとても強くなれるということです」
フィリナの為になる話を聞いていると、フィリナが突然歩みを止めた。
気になって前を見てみると、6つの扉が並んでおり、各扉に1人ずつメイドが立っていた。
「ここが礼音様たちのお部屋になります」
すでに部屋割りは決まっていた。
手前から、礼音、アリス、咲良、穂乃花、光、神威だった。
礼音が部屋に入ると、その広さにびっくりした。
地球の部屋よりも2倍以上大きい。
右奥には大きな天蓋つきのベッド。その手前に丁度いい大きさのテーブルと椅子が置いてある。反対側にはクローゼットがあり、そこにはすでに服が数着入っていた。そのどれもが高級そうである。
更に何か要望があれば専属メイドに言えば、出来る範囲で叶えてもらえるらしい。
後で普通の服を用意してもらおうと礼音は頭の中のメモに書き込む。
「ふう」
溜め息をつきながら礼音はベッドに倒れこむ。
明日は城の中を案内してもらえるらしい。
地球ではそんな体験はできないので、楽しみである。
そんなことを考えていると眠気が襲って来る。
そういえばお風呂に入っていないが、朝に入ればいい、と思い礼音は目を閉じる。
何気に疲れていたのか礼音はすぐに夢へと旅立った。
こうして、新たに勇者が誕生した。
これで序章は終わりです。
次話からは1章に入ります。
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