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メリーさんとアッチッチ鮭雑炊

作者: GIM52A

「私メリーさん」

一本の電話が入った。声からしてまだ成人してないくらいの女の子だろうか。まぁ、今は仕込みの時間だ。そんなこと気にしている暇はない。ただのイタズラ電話だろう。

「今駅に降りたの。あと一時間くらいであなたの所へ行けるわ」

しばらくしてメリーさんから二回目の電話があった。

合わせ出汁もいい感じに出来上がったしこれで営業までの仕込みは完了だ。

「私メリーさん、今店の前にいるの」

電話がすぐ切れかたと思うと、背中にヒンヤリとした気配を感じた。

「へぇ、本当に後ろに現れるんだね」

「えっ、驚かないの⁉︎」

背後の少女は電話での声色と打って変わって素っ頓狂な声でたじろいだ。

「これくらいで驚いてちゃ客商売できないからね。いらっしゃい、居酒屋『森のクマさん』に」

振り返ると白いワンピースの女の子が立っていた。電話の声で予想した通り大体中学生くらいの年齢だろうか。目鼻立ちがくっきりしており、金色の髪が服装と相まって西洋人形を彷彿とさせる娘だ。

「外寒かったでしょ?小雨も降ってるし。あ、メリーさんはあんまりそういうの関係無いんだっけ?」

そう言いつつも休憩室からタオルを取ってメリーさんに渡してやる。

「あ、ありがと。ぶっちゃけ雨が降ったら濡れるしもちろん寒い。...じゃなくて、どうしてあなたは平気なの⁉︎」

「そんなん言われてもねぇ、平気なものは平気だしなぁ。それより今日はいい出汁が出来たんだ。食べていくだろう?」

厨房からメリーさんを半ば強制的に追い出してカウンターに座らせた。

「料理人は並大抵のことにはビビらないのさ」


今日の出汁は昆布と鰹節の一番出汁。薄口醤油とちょっぴりの味醂で甘めに味付けしておいた。

「嫌いなものとかある?」

「いえ、基本的にはないわ。...って何でナチュラルに食べることになってるのよ⁉︎私はあなたを...」

「おっと野暮な事は言うもんじゃないよ。料理店に来たらメシを食べる、単純でいいじゃないか。それとも腹ペコの状態でこの雨の中帰るのかい?」

白菜は葉の部分と芯の部分を分けてカット、人参と大根はあらかじめ出汁で煮込んである。

「ここに来た以上は誰であろうが客だ。それはこの店があり続ける限り変わらん」

ちょうど昨日のお冷やご飯があったからそれを水で洗いほぐしてさらに煮込む。出汁が米に染み込んだら仕上げて完了だ。

「さ、出来上がるぞ。メインの具は何がいい?...と言っても鮭か明太子か梅干しくらいしか無いけど」

「うーん、鮭で」

「あいよ」


アッチッチ鮭雑炊

野菜は人参白菜大根のシンプルな組み合わせ

出汁をメインに食べて欲しいから具は必要最低限しか入れてない

仕上げは中途半端に溶いた卵を半熟になるように入れて、刻み海苔・青ネギ・鮭フレークをトッピング


「わぁ、すごい!」

目を輝かせる姿はやはり歳相応といった感じだ。この反応を見るためにこの仕事をしてると言っても過言ではない。

「熱いから気をつけろよ」

遅かった。ちょっと欲張って頬張ったのか涙目になっている。

「ほら」

水を差し出すと同時に奪い取り一気に流し込んだ。

「あつ〜い!」

「そりゃそうさ。雑炊だもん」

今度は慎重に息を吹きかけて食べている。幼い容姿が一生懸命冷ましている姿はなんとなく頬が緩んでしまう。

「ところでどうしてここにたどり着いたんだい?」

何気なく尋ねたところにわかにメリーさんの顔が曇った。

「た、たまたまよ!リストの上にここの番号が載っていたからよ!」

「リスト?」

「そうよ!電話を掛けるのも仕事の内なんだから」

知らなかった。ただのイタズラじゃなかったのか。

「それで最終的に背後から驚かせて『気』を貰うの。でも...」

「へ、へぇ...でも?」

「今月あまり稼げてないの。だから気ポイントがカツカツでノルマまで厳しいの」

いわゆるサラリーマンの営業みたいなものであった。サラリーマンの世界は世知辛いと言うが、メリーさんもかなり苦労しているみたいである。

「だってこれ見てよ今月これだけノルマあるのよ!」

メリーさんはスマホを取り出しこちらにポイントと思われる数字を見せつけて来た。なるほど、あと110ポイントでノルマ達成のようである。画面にデカデカと数字が映し出されている。

「まぁ、キツイだろうけど腹が減ったらメシくらい食わしてやる。この店は頑張るヤツらの味方だからよ。だから...キツイときやうまくいかない時はウチでメシ食って元気出していけ。...怖がらせるってヤツにこう言うのもヘンだけどよ」

ちょうどメリーさんも雑炊を完食したようだ。店に入って来た時より幾分か顔色が良くなっている。それはそれで怖がられないかもしれないからちょっと悪い事したかも知れないと反省した。

「ふぅ、ご馳走さま。あんたの演説聞いてたらもうちょっと頑張ろうって気になってきたわ。それじゃ次の営業先に行ってくるわね!」

「営業って、まぁ、そうなるわな。よし、思いっきり驚かしてこい」

メリーさんはスマホで番号を打ち始めた。

「私、メリーさん。今からあなたの所に驚かしに行ってやるんだから!」


初投稿です。

ちょいちょい思いついたら投稿していきます。

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