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過ちの恋  作者: 桜 詩
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7,新しいドレスと未亡人

 セシルはantique roseの隣の、éclatを訪ねた。

éclatは、心地よいふんわりとしたフローラルな香りとそして、新しい生地の匂いがして、女の子が夢見るようなレースとそして白と金の調度類が置かれていて、うっとりする空間になっている。

店の奥には、貴婦人を接客するスペースになっていて、二階は縫い子たちが仕事をしている。地下には、生地が所狭しと並べられているのだという。


「こんにちは」

「あらセシル」


店にいたのは、お仕着せの可愛いドレスを着たミリアだった。

「ミリア、今日はあなたが店番なの?」

ちょうど、マリアンナがミリアにドレスを注文したのか気になって来たからちょうど良かった。


「マダム エメは、私にたくさんドレスを作るチャンスを与えたいとおっしゃって……こうして接客して相手の為のドレスを考えるのが一番良いと言ってくださるの」

「素敵ね。私もまたつくってほしい」

「本当?」

「この前も私の着てるドレスをみて、誰が作ったの?って聞いて来られたわ。ミリアを訪ねて来られたでしょう?」

「ええ、そうなの。舞踏会用のドレスなんてドキドキしてるの」

「おめでとう、良かった!」

「ありがとう、セシルが綺麗に着こなしてくれているからね!」

「マダム エメのドレスも、あなたのも私はとても素敵だと思うもの。だからいつだって着てしまうのよ」


それに、この間ギルが褒めてくれたのはマダム エメが急に注文取り消しになったけれど残りを縫い子の練習として作ったドレスを譲ってくれた物だったのだ。


「セシル、なんだか……雰囲気が違うわ。上手く言えないけど、綺麗になったみたい。この前来た、ご令嬢よりもとても綺麗」

他の客人がいないからか、そんなことをミリアは言っている。

「やだ、ミリアったら」

くすくすと笑ってしまう。


確かに、若い令嬢の中には目立とうとするあまりか、飾りが過多になりすぎている人もいて、お世辞にもお似合いですと言いづらい時もあった。


「でも、本当にそう思うの」

「今日はね、ミリアに注文が来たのかどうか、聞きたかったの」

「ありがとう、セシル」

ミリアは今、全身から輝くようなとても明るい雰囲気がただよってくる。


「お客様はセシルだったのね」

奥から顔を出してきたのは、マダム エメだった。

「お邪魔してごめんなさい、マダム エメ」

「邪魔じゃないわ。それよりもうちの縫い子ちゃんが、生地の裁つサイズを間違えたの。セシルなら着られるかも、少し待ってて」

マダム エメは慌てて上に向かい、見頃を持ってきた。


合わせて見ればそれは、セシルにちょうど合いそうなサイズだった。


「イーディ、このサイズで最後まで仕上げて見なさい。その代わり、お給料はちょっと減るわよ。貴方ったら生地を裁ってしまってから気づいても遅いのをいい加減わからないといけないわ」

「すみません、マダム エメ」

「幸い、このパーツ一つで済んで良かったけれど……!これをどう使うか、考えてみて。着るのはセシルだから、その事も考えるのよ」

マダム エメは、そうやって失敗してもどうすれば無駄にならないかも教えているのだろう。こうしてセシルのドレスがまた1つの手に入りそうだった。

「仕上がりを楽しみにしてるわ、イーディ」

イーディは焦った顔をしつつも、しっかりと頷いた。


「実は元々、練習用の安い生地なの」

こそっとマダム エメは2階へと上がっていくイーディに聞こえないようにセシルに言った。


「あら……」

「本物の商品を扱ってる気にならないと、上達はしないものね」

くすっとマダム エメは微笑んだ。


「それよりも……セシル、いつの間に恋人が出来たの?なかなか身なりの良さそうな……ひとだったわね?」

その言葉に、二人でいる所を見られたのだとそうわかった。

「恋人、という訳じゃ……」

「どこの誰なの?」

「秘密です」

ギルの事は……、説明しづらい。

名前しか知らないのだから。貴族階級なのか、それとも裕福な上流階級なのか、それすら聞いていない。


「あらあら、勿体つけちゃって。邪魔はしないわ、だって……恋する乙女の顔してる。あなたのママに代わって、上手くいくのを見守ってるつもりよ」

マダム エメは頬にキスをした。

「ありがとう、でもマダム エメには私以外にもたくさんの娘がいるもの、私の事は大丈夫よ」

「気になるわよ、あなたは結婚前の若い娘なのよ。悪い男には気を付けないと」

そういうと、ふっと真顔のマダム エメは真っ直ぐに瞳を見つめて来た。

「本当に、大丈夫。悪い人じゃないわ」


ただ……きっと、身分が違うということが、大きくて、直視したくない問題なだけで。

それに目を向けるのは……出来るだけ遠い未来が望ましかった。


その時、お店の扉が開いて、ケイ・フェザーが女性を伴って入ってきた。始めてみるその女性は、茶色の髪に煌めく青い瞳が印象的で、しかもとても美人だった。


「ああ、やはりここにいたね、セシル」

「ケイおじさま」

「セシルに、頼みがあってね。店番として、彼女を頼めないかと思ってね」

「私の店に?」

「彼女は私の知人の娘さんなんだが、近頃ご主人を亡くされてね。うちは男所帯だし、セシルの所は……ちょうど店番を探していただろう?」

「ええ」


確かにちょうどニコルがいた頃から手伝ってくれていた、女性が結婚を機に辞めてしまい、探そうとしていた所だった。


「じゃあ、早速今日からでもいいのかしら?」

「はい、お願いします」

女性は20代後半くらいだろうか、賢そうな6歳くらいの少年を連れている。

「私は、antique roseの店主の妹でセシル・ハミルトンです、あなたは?」

「エスター・アンドリュースです。この子は息子のグウィンです」


グウィンはどうやら、ケイの店で細々とした手伝いをさせるようでケイがそのまま連れていった。

エスターを連れて、セシルは店に行き店を案内することにした。


人を雇うのも、セシルは相談できる兄がいれば……と思わぬ事もない。

ケイのいうように、確かに一人では何かと障りがあることも事実なのだ。

「ミセス・アンドリュースどうですか?」

働くのに問題がないか、尋ねたのだった。

「是非、雇ってください」

「店主の兄は、しばらく帰ってこないのですが、代わってお願いします」


エスターは几帳面な性格らしくて、こまめな掃除や刺繍も得意そうだった。


けれど……ここでギルと会いにくくなってしまったな、とセシルは苦笑してしまった。

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