59,正された道
イングレスの王宮は、新年を迎えて昨年よりの祝福のムードが漂っていた。
リリアナ王女と名付けられたエリアルドの第一子は健やかに育っていたし、勘当されていたギルセルド王子は王宮へと戻ることが許され、婚約も発表されていたからだ。
その日は新しい社交シーズンの幕開けを伝える王宮の舞踏会。
ギルセルドの婚約者として注目を浴びることはわかっていたセシルだけれど、エスコート役をしてくれているセスに、大丈夫だから堂々と、と言われて、笑顔でそこに立っていた。
憶測なのか故意的に流された噂なのか、セシルはシエラの縁者であり、これまでは病弱な父故に社交界にデビューする余裕がなかった。たまたま知り合った王子と恋仲になったが、身分が違うと身を引いて、騎士と結婚するところを王子が拐ったと、そういう話になっていた。
どうやら噂というものはあてにならない物らしい。
ブレンダの根回しか、それともアンブローズ侯爵夫妻の人柄か、いきなり社交界に現れ婚約者として納まったセシルだが、領地の社交界でも、この日も嫌がらせのような事を感じることなく過ごせていた。
やがて、大扉から王家の人々が人垣の真ん中を通って、登場する。
フェリシア妃の腕には新しい王女の姿があり、愛らしい様を見せていた。
そして、本来なら一曲目は王族でのダンスが披露されるのだが……。
ギルセルドはセシルを迎えに来て、
「踊ってください」
と声をかけてきたのだ。
目をぱちくりさせて驚きつつもまさか断ることは出来ない。
「はい喜んで」
そして曲は始まりセシルはギルセルドのエスコートで踊る。
「踊るのは2度目だ」
ギルセルドは小さな声で囁いた。
「そうね」
1度目はセシルのあの小さな部屋で……。
知らず笑みが浮かぶ。
「でも……すごくじょうずになったでしょう?」
「とても」
あのときは、誰も見ていない場所でギルセルドの足の上に乗せて、ただ動かされただけだった。しかし今は、衆目の中で堂々と二人で踊ることが出来る。
そして……続けて、もう一曲踊る。
それは、セシルがギルセルドの婚約者として周りに知らしめるのに十分すぎる効果があった。
「ここまで、来ることが出来たのは……、たくさんの人のおかげ」
まさか自分がこんな風に王宮の大広間で、この国の王子とダンスを踊るなんていったい誰が予測しただろうか?
けれどこれは紛れもない事実だった。
「まだ……大事な事が待ってる」
「大事な事……」
「セシルは私と、祭壇の前で永遠を誓うんだ」
ギルセルドの言葉に、セシルは微笑んだ。
その日が現実になる日はもうさほど遠くはない。
「ギルが必ず帰ってくるのなら、私はこれからは………ちゃんと見送れる」
帰ってくる場所はセシルのいる場所。
それなら、帰ってくる事をきっと楽しみに待てる。
「見送る事を楽しみにさせてやるよ。それに……独りにしたりしない」
これまでの経験からギルセルドは約束は必ず守る事を知っている。だからセシルは離れる事を不安に感じることはないのだ。
出会いから過ちだったはずの恋は………。
一つ一つ解きほぐされて、正しい道を作り出して今二人は、憚ることなく手を取り合い立っている。
それが実現するためにはたくさんの人の手の温もりが必要だった。その手があったことが、二人を支えて成長させた。
この先もその事をずっとその事忘れない。
セシルはきっとそれを、お伽話のように子供たちに語るだろう。
そして物語の締めくくりは必ず、
―――そして王子さまと結婚していつまでも幸せに暮らしました。
めでたしめでたし
と………。
―――fin―――
最後までお読みくださりありがとうございました♪
書きはじめた時のエンディングとは変わってしまい、どんなシーンでのエンディングにしようか迷い、明るい未来を思わせるようすで終わりとさせて頂きました!
何も持っていない、孤独感をまとうセシルと、何でも持っているギルセルド。対照的な二人だったと思います。
けれど、一生懸命に生きてきた二人だからこそ、助けてくれる人たちがいた、という事を作中から感じ取って下さればと思います。
今回、イオンというキャラが登場して私はとても彼が好きなのですけど、こんな役回りで申し訳ない……。あと、ザックも……。嫌な事をしたと落ち込んでエスターに慰められてる様子が浮かびます。
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ありがとうございました!




