57,新たなる道
王宮へ行った翌日からセシルはアンブローズ邸に滞在し、ギルセルドは変わらすオルグレン邸に滞在していた。
アンブローズ邸の歴史の重みを感じさせるその屋敷は、重厚な雰囲気に飲み込まれてしまいそうだ。例えば静かにしないといけない書斎のような……、そんな敬虔な気持ちにさせる。
滞在中に、国王の許可が下りて正式に養女となりセシルは名前がセシル・アンブローズとなったのだ。
「本当に……良かったのでしょうか?」
「いいの!そんな風に遠慮しないで、堂々としていらっしゃい。セシルはうちの娘になって、ギルセルド殿下とゆくゆくは結婚をする。なにもおかしな事は一つもないのだから。そうそう、あなたのドレスはやっぱりéclatで頼みましょうね。それとあなたのお友だちにもね、靴はFeather……ね?」
「あんな……最後で……会うのが少し怖いです」
聖堂には3人とももちろん居たのだ。その目の前でセシルはギルセルドの手を取り、これまでの世界を捨てると告げたに等しくて……。
「もしも……それで変わってしまったのなら、それは全てギルセルド殿下のせい。ね?」
シエラの微笑みにセシルはえっ?と戸惑ってしまった。
「それくらい受け止められる男性じゃなくては、うちの娘は渡せないわ」
「侯爵夫人……」
「違うわ、お母様でしょう?セシル」
「はい、お母様」
その言葉にシエラはにっこりと微笑むと、優しくも厳しい母は、セシルに令嬢としてのマナーを叩き込むのだった。
兄となったショーンとセスは、兄弟らしくよく似た面差しをしていてショーンはシエラに似た紫の瞳をしていて、セスはユージンと同じブルーグレイという違いがあるが、髪は同じダークブロンドで、見目麗しくて穏やかな雰囲気はそっくりだった。
セシルを歓迎するべく晩餐を共にしたのだが、
「迎えた養女が、ギルセルド殿下の婚約者になるだなんてアンブローズもなかなか野心があると評されそうですね」
ショーンがにこっと笑ってセシルを見た。
「どうかな?父上はそういう時もどうせ亡くした娘が忘れられなくてとか言ってきっちりと同情を集めそうだ」
こんな話題をシエラの前で……と躊躇いつつユージンとシエラを見ると、
「ユージンが子供を前の奥さまと一緒に亡くしたのは、もう30年も昔なの、だからもう遠い過去なのよ」
そうやんわりと説明をしてくれたのだった。
「そうなのですね」
「せっかくの妹なのに、すぐに結婚してしまうなんてとても残念だ。まぁ……ギルセルド殿下は私とは幼馴染みで今も友人としてお付き合いして頂いているからね」
セスがにこっと笑みを向ける。
「アンブローズの将来としては、まぁいい選択をされたかと」
「まぁ、ショーンったら。私は純粋に産まれた頃から知っているギルセルド殿下とそれから友人の王妃さまを助けたくて。それに、セシルは可愛いでしょう?ずっと女の子がいればと思っていたの」
「母上はずっと言ってましたね」
「ショーンとセスの事はもちろん愛してるけれど、女の子がいればもっと楽しいと想像してたもの。実現して嬉しいわ、だからたくさんドレスを作って楽しみましょうね」
楽しみにしてくれているのを見ると、セシルもつられて楽しみになってくる。
そして翌日。
アンブローズ邸にはセシルの親代わりだったマダム エメとケイ。友人のミリアがそろって招かれたのだった。
……変わってしまった立場にセシルは緊張してしまう。
けれど……。
「セシルおめでとう」
ミリアがまずは笑顔でそう言ってくれたのだった。
「私、感動しちゃった。あんな風に迎えに来てくれたの見たら……応援せずにはいられないよね。でもまさか、セシルの恋人が王子さまだなんて本当にびっくりしちゃったけど」
「ミリア、ありがとう。ミリアがいつも味方になってくれたから私は心強くいられた」
ミリアと抱き合うと、続いてマダム エメと変わって抱き合った。
「本当に良かった。セシル……本当にもう……頑張るのよ」
「はい」
それを見ていたケイは優しく微笑んで頷いていた。
「さぁ、仕事をしようか。セシルをとびきり綺麗に見せるものを作らなくてはね」
「あ……聞きたいことが」
「なぁに?」
「イオン……、サー・マーキュリーはあのあと……」
ギルセルドには聞きづらくて、とても気にかかっていた事だ。
「あのあと、騎士の人達が英雄みたいな扱いして……、ギルセルド王子と女性を争ったとして有名になってしまって、あちこちから縁談は舞い込むし、今までよりモテて大変みたい。元気に過ごしていらっしゃるわ」
セシルはそれを聞いて、やはりケイに頼もうと決意した。
「ケイおじさん……サー・マーキュリーに渡してほしいものがあるの」
それはイオンから貰ったままの指輪だった。
「こんなことを頼んでごめんなさい」
「父代わりとして、引き受けた」
ケイはそう言って、指輪のケースとそれから手紙を引き受けてくれたのだった。




