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過ちの恋  作者: 桜 詩
56/60

56,追放

 セシルとギルセルドは、瞬く間に迎えた緊張の時を迎え撃つ為に、オルグレン侯爵とそれからアンブローズ侯爵の付き添いで、王宮へと向かった。


はじめて対面したアンブローズ侯爵 ユージン・アンブローズは、穏やかな紳士そのもので口調もどこまでも穏やかで優しげだった。

「私は昔、子供を亡くしていて、身代わりと言っては失礼だけれどそう思わせてもらってもいいかな?」

「そんな風におっしゃって下さって……ありがとうございます」


「君もご両親はすでに亡くされたと聞いたよ。私たちの事を父母と思ってもらえたなら嬉しい」

「私こそ、そんな風に思って下さるなんて……本当に光栄です」

そんな風に穏やかに対面を果たし、謁見の間に向かったのだった。



 王宮は国の顔。

だから、さすがにその威容はこれまで見た中でも、これ以上はないであろうくらい贅沢で、そこかしこに、芸術的な品々がさりげなく飾られ、壁や天井に至るまでその美しい装飾に目を奪われる。


この日は、ミリアの作ってくれた婚礼でのドレスを着ていて、幼い頃から馴染んだ彼女の気配を感じられるのか、高まる緊張の中で心強く感じれた。


シンとした、広間に壇上には綺羅綺羅しい装飾を施された椅子にギルセルドに似た立派な……シュヴァルド王の姿がありその隣にはクリスタ王妃と、そしてエリアルド王子が立っていた。


ギルセルドの姿を見るシュヴァルドの顔は厳しくて、眼差しは鋭く口許はきつく結ばれていた。


「よくもやってくれたものだな、ギルセルド!」

怒りの声は、空気を震わせてセシルの耳にも到達して、思わずその威力に体がびくんとしてしまう。

隣に立っていたギルセルドが気づいたのかそっと肩を抱いてくれた。


「申し訳ありません、父上。お怒りはごもっともですが」

「言い訳など聞かぬ!」


ギルセルドの言葉を遮ったシュヴァルドは、椅子から立ち上がり

「王子の身でありながら立場わきまえない行動の数々。お前は身分をなんと考えている!そのような事に思いも至らぬとは、ほとほと情けない。今回の事では到底許せるはずがない。……身分を剥奪した上、国外追放を申しつける」


それはギルセルドの言っていた通りの絶縁の言い渡しだった。

「お待ち下さい、何卒それは考え直してください」

そう叫んだのはクリスタで、

「父上、それはあまりにも……!ギルセルドはこの国にとっても、私にとっても大切な人物です」

エリアルドも同調して叫ぶ。


「陛下、お待ち下さい。セシルは我が家の養女になります。これで殿下との身分もつりあいます」

ユージンが静かにだが、しっかりと届く声で言い、静かだった広間は、喧騒に包まれる。

「国外はあまりにも短慮です。万が一の事があればどうします」

カルロスも援護をするべく口を開いた。


「アンブローズ侯。騒がせた事はそれでも打ち消せない、よりにもよって花嫁を拐うなど!オルグレン侯、王子だからこそ騒ぎを起こした罪は大きい。この罰は秩序を守るためにも必要な事だ」


「必要な事は理解してますが、何卒罰をもう少し穏便な方へ」

ユージンが語りかけ、カルロスもまた同調してはなす。


シュヴァルドはそれに頷いて、静かにギルセルドの方へと近づいてきた。

尚も、追放を止めるように言う声の上がるなか


「ギルセルド、お前には王宮の追放を命じる。そしてサヴォイの領地で1年過ごして来い。その期間があればセシルも必要な教養を身につけられるだろう。教師としては、シエラ・アンブローズが責任をもってしてくれる。その間に、戻ってきやすい様に根回しをしておいてやる。これが私のしてやれる親としては精一杯の事だ。悪く思うな………戻って来る時には……全て上手くいっているはずだ」

そう小さく囁くとまた壇上に上がり


「わかった。お前たちに免じて王宮追放にとどめる!とっとと出ていけ!」

「「「陛下!」」」

抗議の声を、面々が上げた。


「ギルセルド、皆に感謝するんだな」

「父上、それではおいとまを申し上げます」


「ギルセルド!待ちなさい」

クリスタが叫んで、降りてきてギルセルドを抱き締めた。


「しばらく会えないけれど元気で。頑張って宥め役をするわ」

ひそひそとそう囁く。

「母上、苦労をかけてすみません」

「子供の独り立ちを苦労だなんて思わないわ。セシルを幸せにするのよ」


お辞儀をして、外へ出ると慌てて姿勢を整える近衛騎士の姿があった。どうやら外にまで中の騒ぎは聞こえていたようだ。



帰りの馬車で、カルロスは笑った。

「下手な芝居だった」

芝居、と聞いてセシルは目をカルロスの方へと向けた。

「すみません、慣れてないので」

ギルセルドが笑った。

「まぁ……お許しは出たという事で」


「え、やはりあれは…………お許しが出たということでいいのですか?」


「……分かりにくいけど、そういうこと。立場上すぐには良いとは言えない、罰がなし、という訳にもいかない。だから、怒ってみせて、それを宥める役として母上や兄上がしてたわけ」

即興の芝居ということかと、セシルは密やかに伝えてきたシュヴァルドの言葉を反芻した。


「じゃあ……私たち」

「いずれ結婚の許可が下りるはずだ」


「王妃や側近に宥められて、王は息子を許すことになる」

ギルセルドが手を握ってきた。


「いきなりで、びっくりしただろう?」

「……はじめて、かもしれない。あんな……怒鳴り声とか」

セシルは肩を竦めた。

「本当に……これで良かったの?」

「表面上は勘当されてるけれど、1年後には和解する予定。だから……気に病むことはない」



――――翌日の新聞には、ギルセルド王子が身分違いの恋人がいること、それから勘当された事が一面に乗り、そこには二人への同情を誘うような文句が並べられていた。


王子がいかに素晴らしい人物かを並べ立て、階級にこだわるなんてナンセンスだと。


「これも誰の仕業かな……。不気味なくらい褒めてるな」

と苦笑していた。


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