51,脱出劇 (Gilseld)
ギルセルドはクリスタたちから、セシルの結婚を聞かされた時はとっさに裏切られたと思った。
本当に心変わりをして結婚するなら、それを見届けるつもりで。
だが、驚くほどたくさんの騎士たちがここぞとばかりにギルセルドに協力的で、仕事をきちんとこなしている風だが、例えば交替の時にわざと持ち場を離れたり、ルートをさりげなく会話に挟んだり、王宮を脱走するのが上手く行きすぎる事に違和感を覚えたのだ。無事に王宮から出ると、あらかじめ用意していた紺色の隊服に着替えて街へ溶け込む。
「……ザックの、配下だと言っていたな……」
結婚する相手は師団長のイオン・マーキュリー。
まだ若くそれでいて有能な彼の事はギルセルドも知っていた。
剣試合で対戦したことがあり、ギルセルドが勝ったがやりにくい相手だった。
「言ってましたね」
ライナスもいつもの近衛の服から、騎士の隊服に着替えている。
ザックは強面であるが愛情溢れた男で、非情にはなりきれない所も持ち合わせている。もちろん、その時に必要な判断をする時には心を鬼にしているから任務には問題ない。
そして、彼はギルセルドとセシルの様子を側で見すぎていた。
味方をしてくれていても、おかしくはない。ましてや彼は叩き上げでのしあがった男で労働者階級にあるセシルへの偏見も無いだろう。
「まさか……ザックの後押しか?」
「かも、知れません」
「だとすれば、セシルを言いくるめて祭壇の前に立たせるくらいするだろうな」
「彼にとって第一は仕える王族の方々ですから、彼女には少々きついことを言ったかも知れませんね」
「あの顔で脅されでもすれば」
「簡単でしょうね」
ギルセルドが来れないという可能性もあったはず。
優秀な将来有望なイオンと無理矢理でも結婚させることでセシルの身を守ろうとした、か。
「脅した内容が気になりますが」
「……想像は……ついた」
「私もです」
「セシルがザックの目に排除すべきと映っていたなら、迷わず塔に今頃は」
「それが一番容易いでしょうから」
「あいつ……やばい」
「それでこそ、団長というものです」
「そういえば、お前の叔父が近衛騎士団長だったな」
叔父のアレクシスが団長で父親のジェイクは長年シュヴァルド付きだった。
「そうですね」
ライナスの親族には近衛騎士が多く、そしてだからこそ、王宮に詳しくそして人脈もたくさんの所から繋がっていっている。
ホーリーツリー聖堂に来ると、明日の式を告示してありそこにはしっかりとイオン・マーキュリーとセシル・ハミルトンとかかれていて、白い花やリボンで飾りつけがされていてマリアンナの情報を裏付けた。
「早速……行きますか」
「どこへ?」
「セシル嬢をです、迎えにいかないのですか?」
「忘れてないか?俺は最後……扉を開けてもらえなかったんだ」
「へぇ?それは知りませんでした。お気の毒に」
「だから……確実な方を選択する」
「どうするんです?ここで出てくるのを待ちますか?」
「俺の……勘違いでなければセシルは俺を想ってるはずだ。その男にセシルは恥をかかせないだろう」
「とんだ俺様策士ですね」
「だから……時間が告知されている式に参列する。この騎士服なら違和感なく入り込めるはずだ、そうだろ?ライナス」
「そこまで巻き込みますか」
「乗りかかった船からは降りられない。最後までつき合え」
「……減俸は免れないなら、そうしますか」
その日はライナスの家でゆっくりと眠り翌朝には再びホーリーツリー聖堂の近くで潜んでいた。
「来た……セシルだ」
「彼女がそうですか……なかなか愛らしい方ですね」
セシルは白のレースの上半身に、スカート部分は淡いピンクで清楚な雰囲気で初々しく愛らしかった。
「でも、少し痩せたみたいだ……」
その痩せた分、大人びて見えて数ヵ月の会えなかった時間を感じた。
列席の人々も続々と入っていき、その中にはマリアンナとシエラの姿もあった。二人はさすがにこの場では控えめな装いをしているらしく、うまく溶け込んでいた。
ギルセルドとライナスもその人波に紛れて最後尾に座って、始まりを待ったのだった。
そして……。
いよいよ、出番はやって来たのだ――――。




