幸せの定理
人間は常に幸せを求めて自分のために生きている、もちろん裕福になるため勉学や労働に励む、優越感を得るため人を助けたり見下したりする、不安をなくすため周りと関係を作る、悲しまないようにするため最善を尽くしたり逆に諦めたりする、俺もそうしてきた、出来る限り努力してきた、しかし、手に残ったものは少しだった…きっと俺は、これを見た中務類という男は後悔しているのだろう。
思えば平凡以下の人生だった、まだ幼いとき、夢があったがもちろん覚えていない、思い切って告白したが初恋は実らなかった。思えばここからだろうか自分に自信を無くしたのは、いつの間にか青春が過ぎて、ありきたりな人間関係に挟まれ日々を過ごし、いつの間にか当たり前のように会社に出勤して、友達の紹介で気が合った女性と結婚、可愛かった赤ん坊もだいぶ前に成人して出ていき、いつの間にか衰え足腰も立たず、だんだん生きている意味を忘れる、いつの間にか妻と息子に両手を握られて病院のベットにいた、二人とも悲しそうにこちらを見ている。
ふと気が付いた…俺は死ぬのだと。
潤う目を深く閉じる、今までの人生が頭の中で行き来する、これが走馬灯というものなんだろうか、そう考えているうちに、だんだん身体の感覚が無くなる。
そのとき、いきなり身体に衝撃が走った、主に腕が痛い、目を開けると左右にレンガの壁と老爺が見下ろしていた、耳鳴りがする、ここは天国なのか?妙に軽い身体を立たせると慣れはじめた耳が老爺が怒鳴っているのを理解する。
「……ここはわしの場所だ、邪魔だどけ!」
老爺が怒っている文句はあるがひとまず場を譲る、そこでようやく少なくとも天国では無いことに脳が気が付く、じゃあここはどこだ?
一度の出来事に混乱しつつも、レンガの壁に挟まれているのを見てひとまずここが路地だと理解した。そして、俺は未だに怒鳴ってくる老爺のことを置いて路地を飛び出した。
未だにここがどこだか分からない、場所を調べようにもベットに置いてあったはずのスマホも無い。
混乱しつつも周りを見渡す、何だか昔の建物のようだ、隙間を泥で固められた武骨なレンガとひびの入ったガラス、そしてそれに反射して映る若者・・・。
「ん?」
俺は思わず声を出してしまった。そこには昔よく見たことあるような馴染み深い顔が写っていた、いや、でもあり得ない、そいつは今しわくちゃの老人のはず、理解できない脳が確認するように両手を見るだがシワ一つない、そしてガラスをもう一度見て確信する、老人そのものだった自身の体が、よぼよぼで歩くことも出来ないはずの身体が、若々しい18歳ほどの頃にもどっていたことに。
なにがおきてる?曇天の天気が脳をさらに震わせる、混乱した俺は殆どが廃墟となっている街を駆ける、ひたすらに、視界の端に映る焦点の合っていない人々、建物の間々に映る高いビルらしきもの。しかし、俺はそんなものに目もくれず走った。この不可解な現象を忘れたいがために、一心に。
……どれくらい走っただろう?いつの間にか俺は荒廃した街から少し離れた丘で息を荒げてうずくまっていた、思考を止めて息を整える、目を閉じる。きっと振り向くと天国の様な世界になっていると信じて。
そして、振り向く、目をゆっくり開ける。一瞬目が眩む、そしてそこには俺の期待を裏切る様に天変地異の狂った世界が広がっていた。そして、ファンタジーな世界の面影を残す村々や自然を否定するかのように、雲を突き抜ける鉄塔が無数に、そして、威厳を突き立てるようにそびえ立っていた…。
拙い文章ですが最後まで読んでいただきありがとうございます。このストーリーは試しに書いたものなのですぐ別の話を出すかもしれません、評価によっては続編を出していくので、なにとぞよろしくお願いします。