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転生! 竹中半兵衛 マイナー武将に転生した仲間たちと戦国乱世を生き抜く  作者: 青山 有
第二部

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第129話 京見物(1)

 大工仕事の音が響く中、屋敷の庭に植えられた紅葉に視線を向ける。

 本格的な紅葉はまだだが、気の早い葉が大分色づいていた。


 三条家から借りたこの屋敷も到着したときは荒れ果てていたのを思いだす。

 別宅とは名ばかりの廃墟。


 到着して真先に手掛けたのは室内の大掃除と植栽を含めた庭木の手入れ。

 そしていまは屋敷を立て直している真最中だ。


 滞在中を快適に過ごしたい、というのもあった。

 だが竹中重治たけなかしげはるが借りた屋敷は建て直されて返される、との噂を流すという腹積もりもある。


 要はどんな些細なことでも竹中重治に協力すれば何倍にもなって返ってくる。

 そう評判を立てるのが狙いだ。


 ちなみに、三条家が掃除と手入れをして引き渡した、と俺が知ったのは改装を始めて数日後のことだった。


「今日は随分と暖かいですね」


 時間は間もなく昼。

 女中の運んできた昼食のお膳を並べている恒殿に庭の紅葉を眺めながら語りかけた。


「この様子なら明後日の即位の礼も天候に恵まれそうですね」


「悪天候での警備は大変なのでそう願いたいです」


「重治様、昼食の用意が整いました」


 そう告げる恒殿の表情は不安を隠せていない。

 黙って微笑み返すと、幾分か顔を強ばらせてきいてきた。


「ところで、京と大坂の警護は順調なのですか?」


 昨夜の出撃を知っている顔だ。


「ええ、大きな問題はありません。今日の未明ですが、一条いちじょう家と伊東いとう家からの増援部隊が到着しました。あとは即位の礼を待つばかりです」


 京と大坂の警護が万全であることを笑顔で告げる。


「そう、ですか。それをうかがって安心いたしました」


「実は昨夜ちょっとした事件がありました」


 笑顔で俺の向かい側に座る恒殿に、なんでもないことのように軽い口調で切りだす。


「一条家と伊東家を筆頭する四国と九州からの船団を瀬戸内まで迎えにでたところ、正体不明の一団と戦闘になりました」


「正体不明の一団……」


 恒殿の表情が強ばった。

 傍らに控えていた小春とお膳を運んできた女中たちの動きが止まる。


「安心してください。明智光秀あけちみつひで百地丹波ももちたんばの働きで撃退をしました。京と大坂から遠く離れた場所です。即位の礼に影響するほどのことではありません」


「重治様にお怪我は?」


「大丈夫です、かすり傷一つ負っていません」


 恒殿は一瞬だけ安堵の表情を浮かべると、すぐに沈痛な面持ちをする。

 

「戦死した者と手傷を負った者たちの家族を教えてください。私の方からも手紙とわずかばかりの見舞金を添えさせて頂きます」


 戦闘があって兵士たちに損害がでていないと考えない辺り、安藤守就の二の姫だけのことはある。


「分かりました。その件は善左衛門を交えて後で話をしましょう」


 そう言って昼食を摂ろうとうながした。

 俺と恒殿がお膳の前に座ると、美濃から連れてきた料理長がメニューの説明を始めた。


「主菜は天ぷらと刺身でございます――――」


 車エビ、クマエビ、牡蠣、マイタケの天ぷらが美濃和紙で作った器に盛られている。

 その隣には美濃で作らせた美しい磁器の皿。盛り付けられているのは、石鯛、クエ、ハマチの刺身。


 副菜は根菜類の煮物。

 付け合わせにウルカとコノワタ。汁物はアサリの味噌汁だった。


「京にきてからは豪勢なお料理が続きますね」


 料理長の説明が終わると恒殿が待ちきれないとばかりに、牡蠣の天ぷらに箸を伸ばす。

 恒殿の満足げな笑みを嬉しそうに見る料理長に言う。


「帝にお出しする料理は一通り試し終わったのか?」


「はい。料理の方は万全でございます。後は食材が無事に届くことを願うばかりです」


 緊張してはいるが、自信に満ちた答えが返ってきた。


「食材の手配は光秀に仕切らせている。まず間違いはないだろう」


 即位の礼の翌日、帝を招待しての食事会を計画している。

 そこにだすメニューを練習がてら、連日少しずつ食卓に上らせていた。


 出席メンバーは帝とその側近やらお付きの人たち十名余。こちら側からは一条さん、伊東さんを筆頭に、長曾我部元親ちょうそかべもとちか殿。

 さらに、相良さがら家、大友おおとも家、肝付きもつき家、北条ほうじょう家、今川いまがわ家、武田たけだ家、浅井あざい家、朝倉あさくら家、北畠きたばたけ家、畠山はたけやま家、姉小路あねがこうじ家の名代。最後に俺と今回の取り仕切りをした光秀を同席させるつもりでいる。


「恒殿、食事が終わったら京見物に行きましょうか」


「まあ、素敵ですわ」


 突然のサプライズに、恒殿が車エビを抹茶塩の中に落としたのも気にせずに笑顔を見せた。

 その後ろで小春が目をむいている。


「ですが、警備の邪魔になりませんか?」


「邪魔も何も、警備の視察も兼ねての京見物です。私と恒殿が護衛も付けずに京の町を歩き回る訳ですから、護衛に対する信頼の高さが伝わって彼らのやる気にも繋がります」


「それでしたら気兼ねなく見物できますね」


「それだけじゃありません。帝や京の住民たちにも竹中家が警護する京の町が、如何に安全か伝わるでしょう」


「し、失礼いたします!」


 小春はそう叫んで立ち上がると、そのまま部屋をでていった。続いて廊下を走る音が響き、それが次第に遠のいていく。


「小春ったら、どうしたのかしら?」


「さあ、何か慌てていたようですね」


 ◇


「重治様、空がとっても高いですよ」


 小春日和の空をまぶしそうに見上げる恒殿に視線を向けると、その向こうに無表情な顔で短刀を握りしめている小春。

 さらのその向こうには護衛の武将たち。


 恒殿と二人きりでデートするつもりだったのだが、要らぬ心配をした小春の一言で二十名以上の護衛を引き連れてのデートとなってしまった。


「もう少し離れて歩いてくれないか?」


「殿、この者は護衛です。離れていては役目が果たせません」


 護衛の一人に言うと、背後から異を唱える声が上がった。

 善左衛門ぜんざえもんだ。


 善左衛門にささやきで応戦する。


「私が本当に恒殿を危険にさらす訳がないだろ。ちゃんと気付かれないように百地丹波の配下を護衛に付けているから大丈夫だって」


「万が一があってはなりません」


「ちゃんと刀もいている。善左衛門も私の剣術の腕前は知っているだろ?」


 自慢じゃないが、竹中重治は弓馬にも長けている。

 剣の腕も相当なものだ。


「腕前は信用しておりますが、実戦は信用しておりません」


 さらっと言ったな。


「無謀と思える突撃も戦国の世ならあって当然だろう?」


「生き残ることが最優先です」


 取り付く島もない。


 今川さんから聞いた限りでは、俺以上に無謀な突撃をした北条さんを、彼の家臣たちは崇拝するような目で見ているそうだ。

 こういうところで武に重きを置く家臣と、そうでない家臣との違いがでるんだろうな。


「分かった。護衛の件をこれ以上は言わない。だがこの先の商家に全員が付いてくるようなことはしないでくれよ」


「半数は周囲の警戒に当たらせましょう」


 半数は付いてくる気かよ……


「重治様、今日はどちらへ連れて行ってくださるのですか?」


「先ずはとある商家へ向かいます。そこの用事が済んだらゆっくりと京の町を見物して回りましょう」


 期待に満ちた目を向ける恒殿にそう告げると、満面の笑みで素直な答えが返ってきた。


「はい」


 善左衛門、お前も少しは見習えよ。


 ◇


「こちらですか?」


 恒殿が然程さほど大きくはない商家を見上げて言った。


「京の町を見物する前にここで人と落ち合う約束をしているんですよ。ついでに、贈り物用の反物もいくつか受け取ることになっています」


「反物?」


「もちろん、恒殿への贈り物も用意してありますよ」


「いえ、別にそんなつもりでは……」


「反物を贈る相手は公家の姫たちです。久作の嫁探しのためにですよ」


「あ、いえ――」


 何か言おうとする恒殿の言葉を遮って耳元でささやく。


「安心してください。側室なんて迎えるつもりはありませんから」


 すると恒殿は耳まで真赤にしてうつむいたまま、何かゴニョゴニョと聞き取れない言葉を繰り返している。

 可愛らしい反応に思わず抱きしめたくなる衝動を抑えて腰に手を回した。


「さあ、待ち人はもうきているはずです。我々も入りましょうか」


 俺と恒殿がのれんをくぐると、小春と善左衛門を含めた半数ほどの護衛が続いた。


「これは竹中様! お待ちしておりました」


 のれんをくぐってすぐに、稲葉山城に出入りしている商人が出迎えてくれた。

 この店の主人だ。


 続いて入ってきた小春が『キャッ』と小さな悲鳴を上げ、善左衛門と護衛たちが息を飲んだ。

 たちまち殺気立つ護衛たち。


 主人とともに出迎えたのは武装した十数人の武将たち。瞬く間に俺と武将たちとの間に護衛の壁ができあがった。


「殿! ここは我らにお任せください!」


 善左衛門が俺を背後にかばいつつ、視線で外へ出るように合図した。

 護衛たちも全員抜刀している。


 そんな緊張みなぎる善左衛門の脇から顔をのぞかせた主人が気に留める様子もなく言う。


「一条様と伊東様が、お二階でお待ちになっておられます」


「ということだ。二階に上がってくる護衛は最小限に留めてくれ」


 放心している善左衛門にそう告げて、俺は恒殿を伴って二階へ続く階段へと向かった。

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