グロアリスの思惑
薄暗く、年季の入った道具が並ぶ中で、ゆっくりと腰をかける。
「本当ですか?ケルベロスを一人でなんて」
驚きを隠しきれない表情は、まるで天変地異が起こったかのような、驚愕の表情だった。
「本当じゃ。わしが行ったときにはもう石しか残っておらんかったがな」
大きな机に置かれた剣晶石を撫でながら、あの少年を思い浮かべる。
「でもなぜオーバルトさんがヴェルティナに?」
「たまたま依頼の品を持って行ってたんじゃよ」
ケルベロスを一人で討伐など耳にしたのは何年ぶりだろうか。
「その者の実力は確かなのか、確かめる必要がありますね」
「では、一度ここに招待すればいいじゃろ」
武者震いのような興奮を目に浮かべながら、無言で頷いた。
*
俺は昨日の傷を癒すようにぐっすりとベットに入った。
癒えきらない傷を気にしながらも、剣を肩にかけた。
ダンジョンに向かうかを迷いながらも、宿を出た。
そう思い、役所へと足を向ける。
朝早いからか中には人気がなく、カウンターの女性が数名立っている。
「あのー、昨日怪我をしてここに来てた方ですよね?」
不意に後ろからかけられた言葉に体が飛び上がる。
「あ、昨日の手当てしてくれた?」
俺が座っていた椅子の後ろから回り込み、視界に頭を出したのは、昨日ケルベロスとの戦いのあと、ここで手当てをしてくれた女性だった。
「確かに僕は昨日ここに来ましたけど、どうかしたんですか」
僕の横に座ったその女性は、俺よりも年上のような落ち着いた雰囲気だった。
「昨日私が手当てをしたとき、ケルベロスを一人で倒したって聞いて」
真面目な顔でそう問いかけられる。
「確かにそうですけど。結構無茶しちゃって、迷惑かけましたよね」
昨日は体の傷を見たこの女性が無償で手当てをしてくれた。その時は疲れからボーッとしていたわけで、意識が薄かったのである。
「いや、結構怪我してたみたいですし、私の事は良いんです。それより、ケルベロス討伐時にオーバルトさんにあったんですか」
オーバルトという名前を一瞬忘れかけていたが、すぐに老人の顔を思い出す。
「会いましたけど」
「実は、ケルベロス討伐の件で話がしたいと、グロアリス本城への招待状が届いてるんです」
あのオーバルトという鍛冶師がグロアリスという言葉を口にしていた。
「グロアリスって?」
「グロアリスって言ったら有名な先進国ですよ。このグラムで一番大きい都市ですし」
そんなに偉い方々が俺に一体なんの用があるというのだろうか。
「そしてこれが今朝届いていたお手紙です」
右手に封のきられた手紙が握られている。
「でも差出人はオーバルトさんではないようですが」
パッとしない声色を響かせる。
「えっ!・・・アリシア女王ですって!?」