ダンジョンの力
俺は今日もダンジョンに足を運んだ。
みたところアリシアの姿は見えない。
今日からアリシアのいった通りファクトを狩るのだが、ファクトはダンジョンの奥に入っていかないと生息していない。
だが、奥に行けば行くほどファクトは強くなってゆく。ダンジョン内は縦にも長く、深いところには純度の高い剣晶石が眠っているために、そこに生息するファクトも強くなるという。
俺はファクトとの戦闘はおろか、俺はこの世界に来てから行った戦闘は男との一回のみだ。そんな俺にとってはお試し程度の戦闘を望んでいた。
俺は少し入ったところでファクトを探した。すると、昆虫型の小さなファクトが現れた。俺がファクトを見たのは初めてだ。
昨日アリシアが見せてくれた写真にも写っていた。
昆虫といっても現実の世界ではありえないような大きさで、膝のしたくらいの大きさの昆虫がこちらに向かって来ようとしていた。
ギリギリをかわすと、右手に握った剣を振る。すると、「ギギギーー」という蝉のような鳴き声をあげて転がるファクトにもう一撃をくらわせる。
動きを失ったファクトは小さな光に包まれ、一つの剣晶石が転がった。
昆虫型のファクトの心臓ほどの剣晶石は、深く青に輝いていた。
その後も俺は戦闘を繰り返した。
ネズミのようなファクトや、犬のような素早いファクトとの戦闘も多く、少しづつ腕を上げていった。
持っていた袋がいっぱいになり、一度ダンジョンを出ようと出口へ向かった。
外へ出ると、門の近くに用意された小さな休憩所に入ろうと辺りを見回した。
休憩所を視界にとらえた瞬間に、門の内部に大きな警告音が響く。
突然のことに戸惑い、入り口付近をウロウロしていると、放送が入る。
「ただいま、ダンジョン深部に生息するファクト、ケルベロスが入り口に向かっているとのことです。危険ですので避難してください」
そんな放送が耳に入った時にはもう遅かったようで、背後に荒い息を感じた。
奥からは悲鳴が響き、背中に衝撃が走った。
ケルベロスが大きく振った腕が、背中にかけた剣に当たった。
前のめりに吹き飛ばされ、顔を押さえながら振り返ると、そこには三つの頭で声を上げるケルベロスの姿があった。
周りの人々は門へと次々に走っていく。
そんななか、俺は擦りむいた顔を拭き、剣を抜いた。