剣晶石
「着きましたよ、ここが入り口です。通称ダンジョンです」
整備された門をくぐった奥に、大きな暗闇へと続く穴は、まさにダンジョンといった感じだ。
「ダンジョン内にはファクトと呼ばれるモンスターがいるんです。で、その時登場するのがこの剣です」
アリシアは腰に下げた小さな剣を触る。
「ファクトは剣晶石を食べるので、ファクトを倒すことによっても剣晶石が手に入るんですけど、私は戦闘が苦手なので、ファクトの剣晶石はあまり見ないですね。でも、強力なファクトから取れた剣晶石は高値で売れるので、一部ではそれを狙ってる人もいるみたいです」
町で見かけた装備をつけている人達はきっと、ファクトとの戦闘に備えてのことなんだろう。
俺は昨日買った上着を羽織っただけなので、出来るだけ戦闘は避けたいところだ。だが、オネイロスが口にした重力の話がどれくらい戦闘に関係があるのかは、やってみないとわからない。
『少しだけ入ってみるか』
そう言ってダンジョンに入っていく。
歩くにつれて少しずつ薄暗くなっていく。足元には小さな暗い青色の石が転がっている。
「これが剣晶石です。このサイズだとほとんどお金にはならないですけどね」
青い石を拾い上げながらそう言い苦笑いをこぼすアリシア。
少し歩くと、道がいくつも分かれている。
「こっちに行きましょう!」
『どこからその自信は来るんだ?』
そう言い笑ながら、アリシアの後を追っていく。
すると途中で立ち止まり、壁を指差した。そこには小さな窪みがある。
「これはファクトのつけた傷なんです。こういうところにあったりするんですよ」
そう言って、壁を削ると小さな石が見え始める。
掘り出してみると、片手で握れるほどの小さな剣晶石が出てきた。
こちらを振り向いて嬉しそうに笑う。
その後、二人でひたすら壁を掘る作業を続けた。
『こんなもんだろう』
「そうですね。そろそろ出ましょうか」
町まで戻ると、剣晶石を換金するために町の通りの端にある役所まで向かうと言う。
数分歩いた後に、大きな建物が見えてきた。ヴェルティナ中央役所と書かれている。
建物内に入り、奥にある小さな窓口へ向かった。
「お願いします」
そう言ってアリシアが、集めた剣晶石の入った袋を窓口の女性に手渡した。
「38Gになります」
窓口の女性がお金を差し出している。
アリシアはお礼を言って受け取る。
「分けましょうか」
いくつもコインの入った袋をもって近くに置かれたベンチに座った。
すると、アリシアが急に真面目な顔をしている。
「レンさん、今日はありがとうございました。明日から私一人で行きますね。だから今日でお別れです」
急にそんなことを言われて戸惑っていると、アリシアが追い打ちをかける。
「あの、実は剣晶石集めはファクト狩りをするのが一般的なんです。でも私、戦闘ができないから勝手に付き合わせてしまって、ごめんなさい」
そう言いながら頭を下げているアリシアに対して言葉が詰まる。
『別に気にしてない。だから...そんなに謝らなくていいから。俺も戦闘はやったことなかったし』
もはや自分でも何が言いたいのかわからないが、自分なりにフォローをしたつもりだ。
「本当にありがとうございました」
換金したコインを多めにアリシアに渡して別れを言った。
『なんかあったら多分この町に居るから声かけてな』
「はい」と笑うアリシアを見て、安心して手を振った。
外にでると既に空は赤くなっていた。
昨日も泊まった宿に戻ると、早々と布団に入った。