剣の戦い
俺は状況を飲み込めないままあたりを見回した。
周りには岩肌がむき出しの険しい山に囲まれ、砂が引かれた道の真ん中に立っていた。
「やあ、僕はオネイロス。ここは僕の創った世界、グラムだ。この世界にはルールがある」
やや幼い声で語るオネイロスなる少年を俺はただ見つめていた。
「オネイロスって言ったよな。あんたが創ったってどういうことだ?」
『僕はこの世界の神様ってことだよ。普通は僕の姿は見えないんだけどね』
神様など微塵も信じたことのない俺からすれば馬鹿げた話だ。
『そして、この世界のルールだけど、それは剣がこの世界の全て、ということ。ここで起こる全ての争いは剣での戦いで勝敗を決定する。君の背中にも剣があるだろう?』
思わず背中に手を当てると、ずしりとした感触がある。
柄らしき部分を握り引き抜くと、黒い刀身がまっすぐ伸びた50cmほどの、カッコいいとは言えないような地味な剣が姿を現した。
「この剣で戦えってか?そんな運動神経ないっての」
『君にとっては戦いやすいはずだよ。この世界では君の筋力もちゃんと働くようにちょっと細工をしておいたからね。その剣も振れると思うよ』
言われたように剣を控えめに振ると、風を切る音が響いた。
『なかなか様になってるよ。そして、その〈精剣〉によって決められた勝敗は誰にも覆すことはできない。この世界では剣術を極めたりする人は多いけど、戦争したり争ったりする人はあんまりいないけどね。どうだい?少しはわかってきただろう」
生意気な口をきく少年に腹を立てつつも、この世界に少し興味が湧いた。
オネイロスによると、近くに集落があるとのことだったので歩き始めた。
すると、向かい側からジャラジャラと金属音を立てながら、いかにも悪そうな身なりの男が数人こちらに歩いてくるのがわかった。
「あの、おっさん。俺と戦わないか?金がないんだ、俺が負けたらなんでもいうこと聞いてやる」
『あぁん?なに舐めた口聞いてやがるガキが』
勝手に口が動いた。なんで動いたかはわからないけど、勝手に口が動いた。
横で笑うオネイロスを睨むと手を合わせているのを見ると、彼のしわざであることを悟る。
『上等だよ。やってやろうじゃねぇか』
怖い顔をした男が背中に背負った剣を握るとかすかに剣が光を発した。
君も剣を握るんだ。と横で言うオネイロスに従い、剣を握るとオネイロスが契約成立だ、と言うのと同時に男が走り出した。
こんな剣で勝てるわけがないだろうというと思いながら、男が握っている刀身が銀色に輝くいかにも剣、という剣を見つめながら考えていた。
剣術など全く知らない俺は、2年前の感覚をたどった。
ぎこちない動きで間合いギリギリのところでかわす。男が繰り出す素早い攻撃をギリギリのところでかわし続けるが、少しだけ間に合わなかった。
反射的に右手に握った剣で防ごうと腕を上げた。
男の剣と、俺の剣があったった衝撃が体に伝わるが、徐々に消えていった。
男は怯まず剣を振ろうとするが、状況が把握できず、口を開けていた。
折れたのだ。正確には切った。
俺の剣が男の剣を切った。銀色に光っているなめらかな断面が光を反射している。
剣で剣を切るなど聞いたことがない。それに、ただあたっただけなのだ。
この状況には俺も呆然としていた。
そんな俺たちを横目に、戦闘続行は不可能で勝負あったね、とオネイロスがご丁寧に解説をいれている。
俺が背中に剣をしまうと、男の剣も背中に戻り、折れた剣先も消えていた。
男は不満そうな顔で持ってけ、と金の入った袋をおいて走っていった。
「剣で剣を切るなんてことがあり得るのか?」
今起こったことをオネイロスにそのまま投げかける。
『君の目の前で今起こったじゃない。僕もこんなことが起こったところを見たのは初めてだけどね。君の剣は僕の予想よりはるかに性能が高い』
柄から刀身が伸び、鍔もない貧相な剣だと思っていた。が、オネイロスは僕の見た剣の中では最強の剣だと言う。
信じがたい現実に喜びながら、町へと向かった。