カレンの休日
「お待たせしました」
白髪の女の子が白い服を着ると目がチカチカする。
縁の広い帽子をかぶった女の子を俺は知らない。そんなことはない。
「まさかカレンのそんな女の子らしい格好を見る事が出来るなんて、俺はもう死ねるぞ」
「なに馬鹿なこと言ってるんですか。私だってこのような服もきます」
少しだけくすりと笑った顔を脳内に保存した後、俺たちはカレンの案内で歩き始めた。
程よく涼しい風になびく白髪には、控えめな青色のリボンが添えられている。
「そういえば、カレンは剣とか持たないのか?アリシアによると呪いがなんだとかって言ったけど」
「あぁそのことですか。アリシア様がおっしゃられたのは言い伝えといいますか、伝説のようなものですね。でも現在ではファクトへの有効な攻撃手段は精剣のみですから、御信用として持ち歩く人も多いのですよ」
異世界らしい話を信じきっていた。
「マジかよ、完全に信じきってた」
「だから私が朝お部屋に起こしに行くと、大事そうに剣と一緒に寝ていたのですね」
「やめてくれ、恥ずかしくて死にそうだよ。でもカレンは剣とか使わないのか?」
カレンが剣を持っているところは見たことがない。だが、なんでも完璧に仕事をこなすカレンなら、なかなか強い剣士になれたはずだと思った。
「昔の話ですが、少しだけ嗜んでいました。メイドとしてお仕事をする中でも、最低限の技術だけは持ち合わせているつもりですよ」
「へー、そうだったのか。もう剣は握らないのか」
「もう使うことはないかもしれませんね。それに、私の剣はもうこれだけですから」
カレンの左手には、小さな白い石が埋め込まれた指輪がつけられている。
「昔使っていた剣の一部とかか?まぁ、誰も剣を振るとこのない世界が一番なんだろうけどよ」
そんな会話をしているうちに、市街地へとやってきた。
カレンの細かい案内によって無事買い物を終えると、比較的田舎に位置する寮まで帰ることにした。そして、なぜだかカレンもついてきた。今日は仕事を休みにしてもらったらしい。
グロアリス城近くは都市として発展しているが、 寮までの道のりはかなり単調でなにもない。人通りもほぼない。
「今日はありがとな、助かったよ。服も買っちゃったしな。でも、わざわざついてきてもらわなくても良かったのに」
「いいじゃないですか。せっかく休みいただいたので、最後まで付き合わせてください」
カレンは不意に、綺麗に笑う。そんな顔をされると断れない。
他愛もない話に花を咲かせながら、ゆっくりと足を動かす。
そうしていると、一人、俺たちとすれ違う男がいた。
「あなた、どこかでお会いしました?どこから来たのですか」
カレンがその男に話しかけた。急のことで驚いたが、知り合いなのだろうか。
「そうでしたっけ。僕はヴェルティナ出身ですが、どうかしましたか」
男は目を細くして笑った。
「そうですか。お引き留めして申し訳ありません。ただ、グロアリスを訪れる際はそれ相応の覚悟を」
カレンは、一瞬だけ男を睨み、笑顔で歩き始めた。
俺は、その会話を不思議そうにただ見つめることができなかった。
男は俺たちの背を見つめ、剣を抜いた。