初日の壁
「ここがレンくんのお部屋ですか。殺風景なところですね」
「しょうがないだろ。置く家具もまともにないんだからよ」
俺たちは今、俺の新居にいる。
俺は、ノア副団長との決闘に敗れた後、グロアリス軍が日々訓練を積んでいる修練場の敷地内にある、寮と呼ぶべき場所に引っ越すことになり、俺のお城生活は早々と終わりを告げた。
「では、今度家具を揃えに行きましょう。服も揃ってないようですし」
「よろしく頼むよ。俺、一文無しなんでね」
「全く、しょうがないですね。レンくんは」
そんな会話をしていると、玄関の外から声が聞こえてくる。
「レン、集合の時間だ。ま、あんたはまず走り込みからだけどね」
扉の隙間から顔をだすノアに返事をしながら玄関を出る。
「悪いな、カレン。俺もう行かないといけないから、また今度な」
寮をでて横のグラウンドにいくと、同じ制服を着た人達が集まっている。
多くは男性だが、ごくわずかに女性も混ざっている。どこの世界に行っても女性は強いのだろう、そう思って苦笑いを浮かべる。
「じゃあレン、君はまずグラウンド100周からだ」
桁が一つ多い気がしたが、気のせいではないらしい。
ノアが皆のまえに立ち、訓練を仕切っている。整列をすると後ろの俺には姿が見えない。
皆が剣の素振りをする周りを、俺はひたすら走り続けた。はじめはやる気満々の俺だったが、未だに10周目の俺は酸欠で倒れそうなほどにヘトヘトである。
走り始めたのはまだ日の位置が高かった頃だったと思うのだが、すでに空はオレンジ色に染まり、影は長く伸びている。
残り2周なのだが、棒のように硬くなった足を必死に動かしても全然まえに進まない。
先ほどまで訓練をしていた兵士たちも、寮へと戻っていった。
結局、俺はその後とてつもない時間をかけて2周を完走した。
「まさか、走りきるとはねぇ。根性だけはあるんだな」
「そう、だな」
どこからか現れたノアに返事をするも、息が切れて言葉が出ない。
「今日はもう休みな。こんなんでへこたれてたら、私たちにはついてこれないんだからな」
そう言ってノアは、俺を部屋まで送り届けてくれた。
「そういえば、横に見えてた小さな集団は何なんだ?」
俺たちとは違う制服を着た奴らが、訓練中に横を通ったのだ。
「あぁ、あれはビスティリオス軍だ。グロアリスの誇る最強の戦力。私たち選抜隊をはるかに上回る実力を持ってる」
そんなものがあるのかと、疲れ切った俺は右から左へと音が通り抜けてしまった。
部屋に放り込まれた俺は、そのままベットで爆睡してしまったのだった。