模擬戦
見るからにコロッセオといった雰囲気を醸し出している建物の地下へを運ばれた。
「死なないでくださいね」
「クレアさん、それは冗談きついですよ」
俺は苦笑いで彼女の目を見る。
クレアさんは城暮らしが決まったあと、グロアリスにある役場で働いている。
同じ城内に住んでいるのだが、カレンさんに引っ張られ仕事をこなしていた俺は、滅多に彼女に会うことはなかった。
「冗談なわけないじゃないですか。彼女、副団長ノア。グロアリスの選抜騎士隊団長とも肩を並べる最強の剣士ですよ?」
団長とはきっとこの間俺をスカウトしに来たとかいう男だろう。
「時間だ、入れ」
大きな扉の脇に立っていた、鎧をまとった男が低い声を響かせた。
ゆっくりと開かれる扉から剣を片手に中央に向かって歩いた。
とてつもない広さを誇る観客席を見渡すと、大勢の人々が歓声を上げた。
向かいから歩いてきたのは、明らかに軽装なノアだった。
鎧はつけず、上下地味な服装で腰に剣が刺さってるだけであった。
「よーい、はじめ」
剣を構え、男の声で走り出した。
ノアがこちらに向けてきたのは銀色の弱々しい細身の剣だった。
わずかに存在しているしのぎを削りながら接触すると、ノアを弾く。
そのまま間髪入れずに斬りかかる。
刹那、ノアは眼孔を細めた。
明らかに人間の動きではなかった。ノアが蹴った土だけが宙に舞い、背後に回ったノアが剣を一振りする。
首元で動きを止めた剣は、空気を斬った。この表現は間違っていない。
風で舞った土ボコリが、一瞬にして消えて無くなった。
恐怖を感じた。首元で止まった剣の刃は丸く、人を殺せる武器なんかではない。ただ、ノアが怖かった。
「勝負あり。ノアの勝利」
一気に力が抜けた。
「殺されずに済みましたね」
「本当だよ。あと少しで命がなかったよ」
もうぐったりとしている俺に元に団長さんがやって来た。
「お疲れ様、レンくん。グロアリス騎士軍団長、イザベルだ。今日からよろしくね」
彼は綺麗な笑顔で手を差し出した。