少女の笑み
無愛想なカレンの背中を追いかけていると、だんだんと街並みに緑が見え始める。
道の脇に様々な出店が見え始めると、カレンは小さな袋を俺に差し出した。
「ラッカの肉と、アウカの実を買ってきてください。もしもお金が余ったら好きに使って構いません。では私は自分の用を済ませてきますね」
そう言ってカレンは道を歩いて行った。
俺は言われた2つの食材を探すために片っ端から出店を見てまわった。
肉と実などというくらいなのだから肉屋や八百屋に置いてあるだろうと踏んだ俺は、豪快に肉を吊るしている出店の、顔の堀が深いオヤジに声をかけた。
「ここにラッカの肉って売ってないか?」
「悪いな兄ちゃん、うちには置いてねぇ。あんな高級食材を置いてるのはあそこくらいだな」
顔をしかめたオヤジは腕を組む。
「あそこって?」
「知らないのか?あの細い道の奥にある店だよ。あそこの店主は加冶屋だが、金さえ出せばなんでも売ってくれるよ」
たくましい太い腕を組みながら表情を歪めるオヤジを見ると、決して行きたくはない。
出店の店主に会釈をすると、言われた細い道へと向かった。
家と家の間にある薄暗い道の奥に、ダークブラウンの木でできた小さな扉があった。そこには扉があるだけで看板すらも見当たらない。
恐る恐る扉に手をかけると、キーキーと音を立てながらゆっくりと開いた。
なかもロウソクの光がわずかに揺れているだけで、光原は見当たらない。
小さな椅子とテーブルが置いてあり、幾つか剣が壁にぶら下がっている。
「ごめんください」
控えめに発した声が響く。
「客だ。また来る」
奥から背の低い人影が店を出て行った。
「ご用件は?」
同じく奥から出てきたのは歳を感じさせるシワが顔に入った男だった。
「ラッカの肉とアウカの実を探してるんだが」
話し終えると待ってろと言って奥へと消えると、すぐに手に何かを持って戻ってきた。
「ラッカの肉とアウカの実だ。これでいいかい?」
予想以上に黒い肉と棘のある実がテーブルに置かれた。
「これで足りるか?」
カレンに持たされたお金をテーブルに広げる。
袋に入った硬貨を数え、半分ほど手に取ると袋を俺に返した。
「用はこれだけか?」
小さく頷くと、まいどありと言って奥へと消えていった。
店を出て、ブラブラと店を見て回っているとカレンと合流することができた。
大きな袋を胸元で抱えたカレンと並びゆっくりと歩いていた。
「わざと金多く入れただろ。そんなことする必要ないのに」
「多少の楽しみも必要かと思いましたので」
カレンは表情を変えないまま言葉をならべる。
「それでこんなの買ってみたんだけど、どう?」
俺は右手にリボン型の髪留めを持って見せた。
「なんですか、これは」
首をかしげるカレンにツッコミを入れるかのように。
「なにって、リボンだよ。カレンはなにもつけてないだろ?ちょっとくらいは女の子らしくしてもいいんじゃないかと思ってさ」
「そんなもの必要ないのに」
あまり乗り気ではないカレンを説得してカレンの持っていた袋を受け取ると、カレンは自分の頭につけて見せた。
風になびく銀髪に水色のリボンが添えられている。
控えめなリボンが綺麗な顔立ちを引き立てている。リボンを選んだ自分に心のなかで親指を立てる。
「ほら、可愛いじゃん」
思わず口に出てしまった。
「そんなわけありません。でもしょうがないので受け取っておきます」
下手くそな照れ隠しに笑いがこぼれてしまう。
気づけば空はオレンジ色に変わり、少し急ぎ足で歩いた。
足を動かしながらも、カレンの頬が赤かったのは綺麗な夕焼けの所為だろう。