報酬はいかがしましょう?
その小柄な体には似合わない大きなドレスを身にまとった少女がいた。
その少女はいつかの剣晶石を掘りにいった女の子である。その時には想像もつかなかった姿に驚くが、クレアさんに手紙を見せられた時には薄々察しがついていた。
謎の異世界転生があったのだから、このくらいの偶然があってもおかしくはないと無理やり納得する。
「え?レンさん?」
驚いているのは俺の姿を見たアリシアの方だった。
「久しぶりだな。まさかアリシアがこんなお姫様だったなんてな」
「びっくりしたのはこっちの方ですよ。ダンジョンも知らないので剣も持ったことないのかと思ってたのに、いきなりケルベロスを一人で討伐したって聞いたので。そもそも同じ名前なのは偶然だと思ってたのに」
長々と喋り続ける様子のアリシアからは驚いているのがより伝わる。
コホン、としきり直したアリシアは真面目な表情で喋りだす。
「今回お呼びしたのは、ケルベロス討伐の表彰と、報酬を決定するためです」
「報酬を決定って、それは俺が決めることなのか?」
普通この手の報酬は決められたものが手に入ると思っていたので、不思議に思った。
「今回のような功績は稀なので、決まった報酬はありません。その代わり、お金や食料などの報酬をその都度決めているのです。何か欲しいものがあればそれを指名することもできます。限度はありますが」
そう説明を入れたのはクレアさんだ。
「そうだなぁ、だいたいどのくらいのものが貰えるんだ?」
「金額にしますと、100万Gくらいです。小さな家が買えますね」
未だにこの世界では食事や軽い買い物程度しかお金を使っていないためあまり金銭感覚がない。
ただ一つ毎日家賃のように払っている宿代がある俺の望みは一つだった。
「じゃあ家ください」
アリシアの横に立っていた召使いさんが渋い顔をしながら、アリシアに耳打ちをしている。
「残念ながらすぐに用意できる家がこの近くにはないみたいなんですけど」
「じゃあこの城に住まわせてください」
また召使いさんが困った顔をした。城に住まわせてくれなんて言ったやつが今までいたとは思えない。
「私は全然構わないんですが、なにがあるかわからないので却下されてしまう可能性が高いですよ?」
どこから来たかもわかんないような男をこの国の女王様と同じ城に住まわせるなど危ないと言われるに違いない。
「じゃあ私も一緒に住みます。それじゃダメですか?」
横のクレアさんがそう言った。
今度は俺が混乱していた。
「彼も悪い人ではないので。私は国の役員ですし、一緒に住めば問題ないですよね?」
僕の知っているクレアさんはもう少し落ち着いた人のはずだったのだが。
「では私がなんとかしておきますね。私もレンさんなら信用できますから」
微笑むアリシアの姿は女王様という重たい位とは裏腹にとても無邪気だった。
こうして俺のお城生活が決まったのである。