剣の世界
激しいライトエフェクトを発するディスプレイを見ながら手元のコントローラーを操作する。
画面では、一人の剣士が怪物を切りつけている。10連撃を決めた後、セーブを押しコントローラーを置いた。
すると、ガチャっとドアが開く音が聞こえた。
「ただいまー」
兄の低い声が聞こえる。
兄は竹刀と重いバッグを置くと、洗面でうがいをしている。
兄が置いた竹刀を握ってみた。そうすると懐かしい感覚が蘇ってくる。
俺は2年前に剣道はやめてしまったが、兄は今では全国大会に出場するほどの実力を身につけている。
兄は明日も、小さな大会に出ると張り切っていたが、俺はなかなか倒せないラスボスに頭を悩ませていた。
朝7時過ぎに布団から出ると、兄が玄関で靴を履いていた。
いってらっしゃいと声をかけ、テーブルに置かれた朝食のもとへと向かった。
薄く焼き目がついた食パンをかじり、牛乳を飲み干すと、食器をシンクへ移し、部屋で漫画でも読もうと階段を登る。
部屋の隅に置かれた本棚に手を伸ばし、椅子に座ると、机の上のスマホが鳴った。
こんな朝早くに連絡してくる友人など想像がつかないまま、電源をいれて画面を確認すると、一通のメールが表示される。
「第34回 聖剣杯 優勝商品の受け取り」
と書かれたメッセージとともに、URLが表示されている。
リンクをタッチすると聖剣杯の特設ページが表示され、決勝戦の動画がアップされている。
俺のお気に入りのゲームで開催されたイベントで先日俺は優勝していた。
決勝と言っても俺の圧勝だったわけだが。そのせいで一部のプレイヤーからチーター呼ばわりをされている。
漫画を片手に動画を見ていると、もう一通のメールが届いた。
「初めまして。僕の名前はオネイロス。僕の創造した世界への招待状だ。さぁ、扉を開くんだ」
わけのわからない迷惑メールだと思い、電源を落として机に置いた。
そして、部屋のドアに手をかけ引いた。
その瞬間に大量の光が部屋を包んだ時、目の前には広大な大地が広がっていた。
状況を把握しきれていない俺の前で見知らぬ少年が呟いた。
「グラムへようこそ」
そう言って少年は笑った。