6話 一休み
はい、約束破りですね・・・・
ごめんなさい。
みじかいですけどどうぞ。
旋回しながら庭園に着地したタンニーン。
そして背中から降りる俺達。
見渡すと流石王城の庭園と言った所か、広大な芝に様々な華の生け垣、果実の生る樹木。
水路にある池には岸から続く飛び石から行ける小島があり、そこに屋根付きのテーブルが設置されている。
そこで王族がお茶でもするのだろうかと考えていると、ふとさながら森の如き果樹園の奥から何かがこちらを窺っているのを感じそっちに俺は目をやる。
じっと見据えていると観念したのか、奥から翼の生えた白馬がゆっくりとやってきた。
『あら、気づかれてしまいましたか。ごめんなさいね、隠れるつもりはなかったのですけど気を悪くされてしまったなら謝るわ』
白馬から女性的なたおやかな声が脳にひびく。
「いや、何となく視線を感じたからそっちを見ただけだから気にしないでくれ」
『そうですか、でも遠巻きに見ていたのも事実、許してくださいね』
そう言うと白馬は俺に頭を下げる。
そして頭を上げた白馬はアルールのほうに向く。
『お帰りなさいフィーリアさん。この度は勇者召喚の儀、誠にお疲れ様でした。タンニーンも息災そうで何よりです』
『ああ、お前も元気そうでよかった』
「はい、ただいまキリア。こちらにいらっしゃる方達が勇者様です」
白馬に返事をするタンニーンとアルール。
そしてアルールは俺達に手の平を向け白馬に俺達を順に紹介し、何故複数人いるのかも説明する。
俺達の紹介が終わると今度は白馬に手の平を向けるアルール。
「彼女は幻獣、天馬のキリア。この国が興るのに携わっていて、国旗にも載っているほどなんですよ」
『初めまして、勇者様方。フィーリアさんの説明通り、私はキリアと申します。古くからある者ですけど、畏まらず気軽にしていただいたほうが嬉しいわ』
幻獣『天馬』。
幻獣『龍』のタンニーンと同じ、神によって生み出された原生動物の上位に位置する者。
そして光属性を司る幻獣の頂点にいる者でもある。
そもそも幻獣とは何なのか?
説明すると元々、幻獣は元素を司る獣、元獣と呼ばれ、それぞれの神から世界を守護する役目を持って生み出された。
光の女神は『天馬』を、
闇の女神は『冥狼』を、
火の女神は『火鳥』を、
水の女神は『水蛇』を、
風の女神は『鷲獅子』を、
土の女神は『陸獣』を、
そして最初の神は『龍』を・・・・
それぞれ元獣は秘境と呼ばれる自身の力で結界を施した場所に住み、人間の前には現れなかった。
しかし神々は争いだし、世界が荒れ果て原生動物や人間は絶滅の危機に瀕する。
元獣達は世界の守護の役目の下、初めて人間の前に姿を現し、原生動物と共に秘境に避難させた。
そして神々の争いは終わり、秘境は原生動物の住家に。人間は元獣に懇願し野に下り元獣の守護の下、国を作った。
しかし『龍』は国の守護には着かず、それぞれの国の橋渡しをした。
そうして世界の歪みを修正するシステムにより魔獣が生まれ、神々は対抗する元獣の補佐を生み出し、それらの者達をめったに姿を表さない幻の獣として幻獣と呼ぶようになった。
そういう背景があって、この天馬は国の中枢に位置する王城の庭園いるのだろう。
俺はキリアに生返事をして、他のメンツもそれぞれ返事をし、自己紹介が終わる。
そしてしばらく皆で雑談を交わしていると、庭園から王城に続くであろう道から鎧を着た騎士が数人やってきた。
「聖女様、お帰りなさいませ。そしてようこそ、おいでなさいました勇者様。急な出来事であるためお疲れと思います、なので王城の一室を休憩室として使っていただくよう命を受けましたので御案内させて頂きます」
代表らしき他の騎士よりも豪華な鎧を着た人物が、恭しく腰を折りつつそう言ってきた。
「ところで聖女様、勇者様はどなたなのでしょうか?事前の説明だと一人を選別して召喚とのことでしたが・・・・」
またそれか。
同じ説明を何回もするアルールに少し同情してしまう。
だが説明は基本、頑張ってしてくれ。
でないと多分、俺だけ銀髪のせいでこの庭園の庭師とかにされても違和感なさすぎるからな・・・・
「事態は承知いたしました。都合、最初は一人とのことなので、生憎休憩室に当てられた部屋が一部屋しか確保されておりません。事情を上に説明して参りますので、それまではその一室で全員でお過ごしください」
アルールの話を聞いた騎士はそう言って部下の騎士を伝令に走らせ、代表の騎士は俺達を先導しようとする。するとタンニーンが『我の役目は終わったので失礼しよう』と言って飛び立ち、それに続いてキリアが『なにかありましたらいつでもこの庭園にいらしてね』と言い果樹園の奥に向かっていく。
俺達は手を振り見送った後、ようやく歩きだすのだった。
――――――
道の途中にアーチ状に作られた薔薇の道があったり色々な趣向が施された道に、俺達は目を奪われつつ庭園を抜けて門から廊下に入る。
王城の廊下は案の定豪奢で、大理石で出来ているであろう、ピカピカに磨かれた床に壁。
壁には絵画が、廊下の端には甲冑の置物や豪華な壺の乗った机があり、やはりテンプレのオンパレードに目を光らせる勇士とそれを見てやれやれと頭を振る涼子。
キョロキョロと見渡す勇士を、すれ違うメイド達や近衛兵らしき人達も微笑ましく見ている。
一部の人は少し訝しげに見ていたが概ね歓迎的なムードで、アルールと言う聖女と行動するという以外にも、すでに王城で働いている人間にはこの位の高そうな騎士に連れられる人間が勇者と知らされているのだろう。
そうして何事もなく3階まで進むと、ある扉の前で騎士は止まる。
「ここが休憩室となっております。何かありましたら、メイドの者を付けさせて頂きましたのでその者にお願いします」
騎士は扉を開け、俺達を中へと促す。
部屋の中に入るとやはり豪華だった。
すぐに目についたのは天蓋付きのベット。次にすでに軽食が用意されているらしくケーキスタンドが乗っているテーブルに壁際に控えているメイド等だ。
スタンドにはサンドウィッチやクッキー等の焼菓子が乗っていてそれを見たハーレムズの目が輝く。
俺も腹が減ってきたのもあるし、最初に女子に手を付けさせるのも恥ずかしいだろうと思い、一番にテーブルに着く。
他のメンバーも席に着くと、壁際に控えていたメイドがワゴンを押しながらこちらにやってくる。
「お初にお目にかかります。私は城使えのメイドのカイアと申します。皆様、お飲みは紅茶でよろしいですか?」
各々が頷き、メイドはそれを見るとカートから茶器やポット等を取り出す。
そしてポットに向かいこうつぶやいた。
「冷たき者に炎の祝福を」
するとポットに刻まれた刻印が光り、注ぎ口から湯気がたってくる。
今は知らないがこれをみるかぎり、昔と同じくこの世界にはまだ魔法瓶などの保温性の高い容器がないのであろう。
いや、魔術によってその場でお湯を作るのは、地球では電気やコンロなどがないといけないが、この世界は魔力があれば刻印道具があれば簡単に行えるので魔法瓶などは必要ではないのかも知れない。
「それが魔術と言う物なんですか!?」
案の定反応する勇士、しかし周りからの注意(主に涼子)もなく、他のメンツもその光景を物珍し気に見ていた。
「はい、これは魔術一種ですね。しかしこれと言って難しい物ではないんですよ。魔術自体はこの刻印によって制御されているので私は魔力を流すだけなんです。これを魔術だと言ってしまったら宮廷魔術師の方に怒られてしまうかも知れませんね」
そう冗談目かしていうカイアだったが、最早勇士の目には希代の魔術師に写ったのだろう。
カイアが各々ティーカップに紅茶を注ぎ、勇士の番になるといきなりカイアの手を取る。
「いいえ!!素晴らしいです!!この目ではっきり見るのは始めてなので感激しました!!」
手をブンブン振る勇士。
カイアのほうもそこまでされるのは予想外だったのか頬を朱に染めている。
そしていきなり体感温度が急激に低くなる。
テーブルを挟んで座っているハーレムズが若干黒くなっていた。
カイアは流石王城で働くメイドといったところで妙齢の美人であったので、ハーレムズの触れてはいけない部分に触れしまったのだろう。
俺は触らぬ神に祟りなしと無視を決め込み、サンドウィッチに手を付ける。
ちなみにアルールはのほほんと紅茶を飲んでいたのであった・・・・
何が週一更新だ。
2週間かかって進んでないじゃないか!!って思っている皆様、作者もそう思っています。
すみません(T_T)
言い訳しますと、作者は所謂、土方なので休みは普段寝てしまうのです。
体が持たないのです。
コツコツと積み上げていくので是非、長い目で次回もお楽しみにしていてください。
設定として元獣の姿は『天馬』はペガサス、『冥狼』はフェンリル、『火鳥』はフェニックス、『水蛇』はヨルムンガンド、『鷲獅子』はグリフォン、『陸獣』はベヘモス、『龍』はドラゴンです。
しかし『龍』はぼくのかんがえたさいきょうのどらごんレベルの姿をしています、はい。
感覚尊敬する絵師さまであるタカ○マトシアキさんの描かれるドラゴンを想像していただければと思います。