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人は人俺は俺



翌日。昼休みに部室に来た。万条がいつものように片腕を挙げながら元気に言う。


「よっ!ハッチー!」


「よう」


対してオレは淡々と言う。冨永もオレが来たことに気がついて言う。


「来たか」


「ああ」


ん?何か足らないような。

オレはあたりを見まわした。立花がいなかった。オレは言った。


「立花は?」


すると、冨永は言う。


「今日はまだ来てないな」


「そうなんだ」


「バナ君。昨日のことかな……」


「さぁな。まあ放課後に来るだろ」


「そうだといいんだけど」





結局立花は来なかった。

それから何日間か立花は部室には来ず、月は変わり5月になり、数日経ったある日の昼休み。オレは咲村先生に呼び出された。


「なんですか先生。オレ、ちゃんと部活は出てますよ」


先生は少し困った顔をして、


「あー、今日はお前のことじゃないんだ。立花について聞こうと思ってな」


「立花について……?ああ、なんか最近部活来なかったみたいですけどそれと何か関係あるんですか?」


「まぁな。何か最近変わったことはなかったか?」


「いや、別にないと思いますけどねぇ。強いて言うなら、この前、前の部活の先輩たちとあったみたいですけど」


「なるほど……。それだな」


「それですか?」


「ああ、おそらくそれのせいで来なかったのだろう」


「ちょっと、大げさじゃないですか?確かに、前の部活で何かあったのかもしれませんけど、それでしょぼくれる様なやつじゃないでしょう立花は」


「立花が強いやつかなんてわからないじゃないか。表向きは元気に見せているだけかもしれないだろう。少なくとも部活を勧めた時、私にはそう思えたぞ」


「え、ちょっとまってくださいよ。立花も先生に勧められて入ったんですか?よく入ったなあいつ」


「そうだ。部活を辞めてから少し立花は昏迷気味だったからな。勧めてみた」


「はぁ。そうですか。で、もう聞きたいことはないですよね。帰っていいですか?」


「ああ、もう聞きたいことはない。しかし、一つ頼みがある。聞いてくれ」


「嫌ですよ」


「で、だなその頼みというのはな」


「おいおい。お決まりかよ」


「お前に立花の問題を解決してほしいんだ」


「はい?」


「だから、あいつの悩み相談をしてやってくれ」


「なんでオレが。そんなことは先生がすればいいじゃないですか。それに他人の悩みほど退屈なことはありませんよ。故に無理です」


「だが、もう何日も顔を出してないらしいじゃないか」


「仮にそうだとしても何でオレがやるんですか、って話ですよ。失礼しました」


「お、おい!八橋!もう……あいつは……」



オレは部室に向かう際に考えた。

 友達は多いほうがいい、友達がたくさんいれば困ったとき助けてもくれる、皆がいれば大丈夫、という人がいる。しかし、もし、危機的状況になったとき本当にそんな友達はいるのだろうか?やはり厄介なことを避けて自分を優先するのではないか?もしもそんなことを考えずに人々を真っ先に助ける様な性善説的人がいるのであえば、平等社会はとうに出来ているであろう。そもそも、友達にはなから頼りすぎではないか?そんな他力本願的思考が当たり前のように流布していいのだろうか?

 今回もそうだ。自分の問題であるならば自らが解決しようとするべきだ。ましてや他人が手出しすることはお門違いと言ったものだ。それに対岸の火事だ。オレには関係ない。









オレは部室に辿り着いた。既に部室には万条と冨永が座っていた。


「よっ、ハッチー!」


「よう」


「おう、来たか。で、何で来た?」


「おい。一応部員だろ。万条と咲村先生に強制的に入れられただけだけどな」


「おー、部員だったのか。それは知らなかった。ていうかお前は誰だ?」


「おい。そこ黙れよ。ていうか冨永ってアホなのか?」


「アホにアホと言われてしまった。これはもうお嫁にいけないな。なぁユイ。こいつどうにかしてくれないか?」


「どういう論理だよ。その様子だとお嫁どころの話じゃないな」


「ハッチー!とりあえず座ればー?」


「あ、そうだな」


オレは空いてる椅子に座った。すると、万条が言う。


「今日も、バナ君来ないのかな?」


「そうだな……。ここまで来ないとなるとさすがに心配するな」


「何か長期的な用事があるんじゃないか?それか体調悪いとか?まぁ大丈夫だろ」


一同は黙り込む。


「今、バナ君のとこ行ってみようよ!」


万条がそう言いだす。しかしオレは賛同せず、


「立花が自分で来ないんだったら、あいつの意志を尊重するべきじゃないか?ただ単に体調が悪いだけかもしれない」


それに対して冨永が言う。


「しかし、この前のことを気にしているのか?もしそうだとしても立花は何を悩むことがあるのだろうか?」


「それは立花にしか分からないな。まぁ本人も大丈夫って言ってたし大丈夫だろ」


すると、急に冨永はオレの発言に苛立ちを感じたのか、


「お前、さっきから大丈夫大丈夫って軽く見てないか?」


「別に。軽くは見てないぞ」


「じゃあ、大丈夫なはずないだろ!もう何日も来てないんだぞ!」


万条がそれを聞いて心配そうな顔をして言いだす。


「きっと頼れないんだよ、人を」


「でも誰だってそんな時はあるだろ。むしろ言いたくない時だって」


「でも同じ部員なんだから頼ってくれてもいいと思うよワタシ。それになにかしなきゃ変わらないよ。現に来てないんだし!」


「来てないんだから何かするって何もできないだろ」


「だからやっぱり、待ってるだけじゃダメだよ!こっちから行かないと。バナ君はほんとは待ってるかもしれない!」


「ワタシもユイの意見に賛成だ!自分からいけないやつもいる。それにこいつの意見はどうかと思う」


「いや、待てよ。自分から行かないのかもしれないぞ。それに待ってるなら尚更行くべきじゃない。他人に頼らず自分で解決するべきだ」


「おい、お前!同じ部員だろ。助け合ったっていいだろ!それに現状のままじゃ何も変わらない」


「冷静に考えろよ。変わりたいのは万条と冨永で、立花は変わりたくないかもしれない、立花が落ち着いてきてるとこにまた厄介を増やすことになるかもしれない。同じ部員ならなおさらに放っておいて向こう側から動くまで待つべきだ」


「あ?立花は悩んでるかもしれないんだぞ?そんな状況の奴を放っておくことなんかできるか?」


「できるできないの話じゃない。それはお前らが勝手に何かしたいだけだろ。そんなのただの自己満足だ」


パチンッ。という音が部室に響き渡った。同時に何か頬を当たった感覚がした。冨永はオレの頬を払ったようであった。そして言う。


「お前は待ってるだけのくせに!」


オレは叩かれて驚いた。そして女子に始めて叩かれた。痛い。


「ちょっと、ヒイちゃん!」


「お前はそうやって!動く方だって大変なんだよ!」


「ちょっと、ヒイちゃん……落ち着いて!」


「ちっ。ワタシ教室へ戻る!こいつと話してるとムカつく」


冨永は部室を後にした。万条は冨永を追いかけようとした。


「ちょっと!ヒイちゃん!待って!って先生?なんでここに?」


部室の前に咲村先生がたまたまいたようだ。しかしその時のオレは気づいていなかった。


「気にするな、行け」


万条は冨永を追いかけた。しかしオレはその場に残り、一言呟いた。


「くだらねぇ……」


咲村先生が部室に入ってきて言った。


「八橋。お前にはまだ無理か……」


「せ、先生!?いたんですか。なんで。ていうかノック位してくださいよ」


「悪い悪い。何でいるかって?そりゃあまぁ、顧問だからだよ。しかしこれはまた派手にやってたみたいだな」


「他人事ですね」


「お前も大して変わらないだろう」


「……そうかもですね」


「立花は今日も来ないか?」


「そうみたいですよ。お蔭で叩かれちゃいましたよ」


「はぁ。お前は……お前のせいだろうに」


「そうかもですね……」


「はぁ、お前は疑うことに慣れ過ぎて信じることが難しくなっているな」


「……そうかもですね」


「少しは部員を素直に信じて助け合ってみることは出来ないか?」


「そんなこと出来てたなら、こんなことになってないですよ。じゃあオレもそろそろ教室戻ります」


「そうか」







オレは部室を出た。教室へ戻ろうとしていた時、オレは立花を見かけた。向こうもそれに気付いたのか、こっちを見てきた。オレはさっきのせいか誰とも話したくない気分だったので気付かないふりをして通り過ぎようとしたが、


「よっ!八橋。無視はひどいぞ」


立花はオレの肩を叩いてそう言った。


「よっ!ってお前な。元気そうじゃないかよ」


「ていうか、お前顔腫れてるぞ?何かあった?」


さっきのか。確かに痛い……。


「いや、別に。咲村先生にやられた。で、何で最近来ないの?部員が心配してたぞ。あと咲村先生もな」


「それは……悪かった。八橋お前も心配してくれたのか?」


オレはそれには答えず話を逸らした。


「ていうかお前なんで来ないんだよ?この前のことか?みんな気にしてないぞ」


「いや、それもそうなんだけどよ」


「なんだよ。前の部活のことでか?」


「ああ。それもそうなんだけどよ」


立花は少し緊張しているように見えた。オレは見かねて、


「まぁ、いろいろなんか悩んでんだか知らないし聞くつもりもないけどさ。で、何で部活来ないんだ?オレは行っているというのに」


立花は少し黙り込み自分を落ち着かせて言う。


「誰かに迷惑かけるんじゃないか心配なんだ」


「は?迷惑って?」


立花は迷惑だとか考える人でないと思っていた。構わずに、その場に溶け込める人だと思っていた。だから立花から出てきたその言葉はオレにとって理解できなかった。


「オレはこの前先輩に歯向かうこともせずに結局迷惑をかけた。オレはハッキリ言えばよかったのに自分の身を心配したんだ。そんな自分の性格の悪さに辟易としたんだ。オレの性格のせいで誰かを巻き込むなんてひどい話じゃないか?それでいつか嫌われてしまうんじゃないかって思ってたら自然と部室に行くのが怖くなった。怖いんだよ」


立花はいつものようではく不安定に見えた。


「でも、あいつらはそんなので嫌いにならないんじゃないか?現にさっきお前のところに行くとか言って心配してたぞ。それにまずは自分を守るのは当たり前だろう」


「そ、そうなんだ。また迷惑掛けちゃってるのか……オレは何やってるんだ……」


立花のその態度にオレは忌憚ない意見を言った。


「でも、そうやって悩んでるってことはお前、万条や冨永、ていうか道楽部を思っているからだろ。お前ら御得意のポジティブシンキングを使っていい方に捉えろよ。それにお前がもう一度部活やるって決めて入ったんだろ。オレと違ってよ。なら向き合えよ」


「お前なぁ………」


「それに、こんな話するのはオレよりも万条や冨永にするべきだろ。同じことを話してやれよ」


「でもそうかも………な。お前は本当にズバズバいうよな。でも前から思ってたけど八橋お前は話しやすいよな。だから今だって話しかけたのかもしれない」


立花はオレをじっと見てきたがオレは目線を合わせることもなく言った。


「気のせいだろ、今日は部室来いよ。来ないと面倒だからな。ただでさえ部活が面倒なんだからよ」


「ああ」







オレは教室に戻った。すると、いつものようにやかましいことに谷元が話しかけて来た。


「おう!八橋!今日はもう戻ってきたのか?ってどうした?お前、顔腫れてるぞ。ま、まさかお前!とうとう万条に手を出して返り討ちにでもあったか?」


「何言ってんだよ。お前の頭の中はお花畑だな。羨ましいよ。お花屋さんでもやったらどうだ?」


「お前こそ何言ってんだ?で、何で腫れてんだ?」


「別にたいしたことじゃないよ」


「そうか?」


「大丈夫だよ。それよりお前、教科書は出したのかよ」


「おう!今日はもうちゃんと用意したぜ!ほら!」


自信満々に谷元は数学の教科書を見せてきた。


「お前な……。朝のホームルームで聞いてなかったのか?」


「え?何が?」


「はーい、授業はじめるぞ~、自分の席着け~」


そう言って咲村先生が入ってきた。谷元は驚いてオレに聞いてきた。


「え?八橋、何で咲村先生が?」


「だから。ホームルームで言ってたろ、5限は数学から国語になったんだよ」


「え~~!聞いてなかった!」


「はぁ……」





放課後。咲村先生の監視もあったのでオレは部室へ行った。そこにいたのは万条だけであった。立花の奴、来てないのか。


「よっ!」


「おう。万条だけか?」


「うん。なんか、ヒイちゃんは掃除当番だから後でくるって。ていうかすごい怒ってたよ?」


「そうか」


「そうか。じゃなくて!もっとなんていうのかなぁ。あるでしょ!?」


「そうか?」


「そうか?じゃなくて!もう無愛想だなぁ」


「そうかもな」


「あぁ~」


そして万条は椅子に座ったまま体をダラッとさせ、天井を見ながら言った。


「なんかさ。こうしてハッチーと2人だとハッチーを勧誘してた時を思い出すよー」


「オレにとっては最悪な過去だな」


「え~なんでよ~。あはは」


続けて、万条は言った。


「嫌だなぁ。このままバナ君が来ないのは」


「大丈夫だろ」


「そうだよね。大丈夫だよね!」


万条はいきなり立ち始めて、


「よし!じゃあ行こう!」


そう言ってオレの腕を掴み、部室を出た。


「おい!なんだよ。ていうかどこ行くんだよ」


「そんなの決まってるじゃん!」




万条になすがままオレは校内の廊下を走り抜けた。気付くと2年C組の前にいた。


「はぁはぁ。万条……お前……速すぎる」


オレは息が切れていた。


「あ、いた!」


「え?」


万条の視線は立花を捉えていた。立花もそれにすぐに気がついた。


「あ、万条さん。ちょうどいい。オレもこれから行こうと思ってたところだ。部員みんなに話があるんだ」


「え?」






部室に戻ってきた。冨永も合流した。立花はオレに話をしたように冨永と万条にも腹を明かした。それをオレは黙って聞いていた。


「って感じで、来るのを躊躇ってた……」


「なんだ!バナ君!そんなワタシ嫌いになったりしないよ!」


「なるほど、つまり立花お前は部員みんなに嫌われるんじゃないかって心配してたわけだな?」


「ああ、しょうもないだろ?」



「そうだな。しょうもないな」


立花は俯いてしまった。すると、続けて冨永が言い出す。


「でも、しょうもなくない。ワタシだって心配だ。ワタシだって怖い。それでも怖くたって望んだならそうやって人と絡んでいかなくてはいけない。それに……もし嫌いになられたらいっそのこと嫌われてしまえばいい……」


冨永は淡々と言った。それに立花は、


「オレさ今まで、人からの評価を気にしてて自分がどうであるかなんて考えたことなかった。でも、ここに来て思ったんだ。みんなはそれぞれ自分を持ってる。万条さんは自分のやりたいことに夢中になってできるし、冨永さんも気が強くてまっすぐで、八橋だって自分の意見を言えるし。こう見えてもみんなのこと尊敬してるんだ。でもオレは自分が分からないままなんだ」



立花はそう言った。オレはそれに対して言った。


「人間そんなものだろ。みんな自分が特別でありたいと願う。そして他人からの評価を気にする。でも、まずは先に自分からの評価を気にしろよ。自分が好きになれない自分を演じても自分を追いつめるだけだ」


「ああ。そうかもな」


すると万条が言う。


「バナ君!ハッチーはこう言うけどさ。バナ君は分かってたけど行動にできなかったんだよね?無理してやらなくていいよ。ゆっくりやっていこう!!まだまだこれからさ!」


「う、うん。ありがとう……」


万条は立花の手を取り、


「こちらこそありがとうだよ」


と笑って言った。


万条は他人に甘過ぎだ……。




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