休日の惨事
休日の惨事
日曜日。オレは最近、部活をやり始めてから休日というものがどんなに偉大であるかを更に思い知るようになっていた。普段の道楽部の疲れからか、ずっと家で寝ようと思っていたのだが……。
「何で……こうなった……」
「え?何て?」
と、言ったのは万条であった。オレと万条は昼時に大手ショッピングセンターに来ていた。
○
遡ること、3時間前。9時頃である。
オレは家でスヤスヤと安心して眠っていたのだが……。
ドンッドンッ!!
という音とともにオレは目を覚ました。
「ん?何だ今の音は」
まさか、万条じゃないだろうな……。
「すいませーん!」
ん?声は万条じゃないな……。ふぅ。
「すいませーーーーーん!」
すると、もう一度さっきより声が聞こえた気がした。そう気がしたたけであるから気にせず休日限定奥義、二度寝でも開発してしまおう。オレは、再び目を閉じた。
「ちょっとーーー!すいませーん!」
うるさいな……。それにしつこいな。誰だよ……。帰ってくれよ……。
オレは相変わらず息を殺してばれない様に居留守を使った。すると、ドアの向こうは。
「…………」
静かになったな。帰ったか……?
「ちょっと!開けなさいよ!」
いやいや。本当に誰?恐いんだけど……。
そりゃあ。開けたいのは山々だけど、オレだって本気を出して休まなくてはならないんだよ。
そう思っていると何やら独り言がドアの向こうで聞こえた。
「あ。そういえば、鍵あるんだった!忘れてた。私ってば、かわいいってばよ!てへっ!」
ん?鍵?いや。待て、ていうかなんかどっかて聞いたことある声だな……。
その瞬間、ガチャ、というドアが開く音が聞こえた。
ん?鍵の開く音?
すると、誰かが部屋の中へ入って来るのが聞こえた。そしてその人は言った。
「ちょっと!いるじゃない!なんで開けないの?」
ああ……。そうだ……。今気づいた。この声は……。
「相変わらずあんたは怠け者だねぇ~。全く……」
これは絶対に目を開けてはいけない気がした。が、見てはいけないものほど見たいものであり、まさかあの人がいるまい、と思って目を開けようとした……。
「ほら、起きなさい!」
と、いう声とともにオレは恐る恐る目を開けた。そこにはボブパーマの髪型でしゃがんだ姿勢でオレの頬を人差し指でつんつんしてくる大学生の女性がいた。間違いない……。
「やあ!おはよう!マイブラザー!」
と、笑顔でそういう姉がいた。
オレは、再び目を閉じた。
「ちょ!あんた、起きてるんじゃない!」
やばい、見られた。こうなったら寝てる事をどうしてでも見せつけるしかない。
「……むにゃむにゃ……」
「はぁ……。あんたね。寝てるやつはそんなこと言わないわよ……」
オレは、目を開いた。そして、目を擦りながら、
「ん?誰ですか?」
「また、あんたは……。ほ~ら!あんたの大好きなお姉ちゃんだお!」
「うざ」
「……うわ。傷付く……。ていうかさ、居留守なんて失礼なことするなって……」
「姉貴。ていうか、何しに来たの?」
「何しにって……あんたの様子を見に来たのよ。それにしても相変わらずだね~あんた。休日くらい彼女とお出掛けしてくればいいのにさ~。って彼女の一人や四人もいないか!あはは!これ傑作!!」
……うざ……。
「姉貴こそ相変わらずウザさ炸裂してんな。やめて。何故ならば、うぜぇから!」
「ちょっと!あんた失礼ね!ていうか、冗談抜きでさ~彼女とかいないの~?」
「いないよ。ていうか姉貴こそ彼氏いないのかよ?って彼氏の一人や四人もいないか!あはは!これ傑作だな!」
「……あんた……そんなんだから彼女もできないのよ……」
「そうだよ、よくわかっていらっしゃる。さ、じゃあ用は済んだみたいだし帰ってくれよ」
「冷たいな~。お姉ちゃん寂しいよ……。グスングスン……」
「……ちっ……。で、何しに来たの?どうせまたオヤジと喧嘩でもしてきたんだろ?」
「おっ!よく分かったね!でさ~しばらくの間、泊めてくれない?」
「はっ?」
「だから~私を、と・め・て♡」
「……おえ」
「ちょ。それが久しぶりに会うお姉ちゃんへの対応?ひどいな~。あ、で、いいよね?騙されたと思って泊めてよ~」
「それは、騙されてお終いのやつだ。あと別に久しぶりじゃないから……。一か月に一回は来てるじゃないか……。ていうかさ、寝て良いかな?今、休日奥義、二度寝の開発中なんだけど」
「えっ?急にあんた何、訳わかんないこと言ってんの?」
「……。帰れよ……頼むから……」
「はーい。了解したおー」
そう言って姉はテレビをつけて、オレの布団に入り込んで来た。
「うわっ!入って来るなよ!ああ、もう!」
そう言ってオレは布団を出た。
仕方がない。こうなったら二度寝は諦めて起きるか……。
「で、姉貴。今回はどんなことで喧嘩したんだよ?」
「聞いて!父さんったら、私が何日か連続で遅くまで出かけてただけでもうカンカン!そしたら私もカンカン!それ見てママまでカンカン!ね?ひどいでしょ」
「いや。ひどいのは姉貴の説明かな……」
その後に姉は布団の中でテレビをボーっと見ながら言った。
「あ。ってかあんた。久しぶりに私の買い物付き合いなさいよ。今日、昼に行くから」
「え?誰と話してんの?」
オレはそう言った瞬間、急いで、そしてできるだけゆっくり音を立てずにドアの近くまで行った。
「な~にまた変なこと言ってるのよ?あんたよ。あんた。あんたしかいないでしょ?」
姉はそう言いながら振り向いた。しかし、オレはもう既にドアを開けて逃亡することに成功していた。姉はその光景を見て、
「って……あれ?いない……あいつ逃げやがったな……」
一方、オレは無事に家から脱出していた。
ふぅ……。姉貴は人使い粗いから酷い目に遭うに決まってる……。この間だって少しだけとか言ってたくさん買っては全部オレに持たせて、翌日オレは筋肉痛になったんだからな。
「とはいうものの……出てきたはいいが……」
オレは今日は外に出るつもりがなかったので格好が、いつも家にいる時に着ている右胸のあたりに自宅警備員とロゴの入ったジャージのまま出てきてしまった。まぁしかし自宅警備員が外出てるって矛盾はそれはそれでシュールだな……。
「でもこれ、思ったよりもハズいな……」
オレは右胸あたりに書いてある自宅警備員という文字を隠そうと、右腕を胸に当てるがそれはそれでこれだと、なんかずっと胸が痛いやつみたいだし……。
「それはそうと今9時だったよな?姉貴は昼に出かけるって言ってたな……どこで時間潰すか……」
オレはポケットに手を突っ込みいくらかお金が入ってないか調べた。すると、手に硬貨のようなものが複数、触れた。
頼む!200円はあってくれ!それならカフェくらいには行ける!
急いで取り出して見てみると、
「50円一枚と……10円が……五枚で…………100円かよっ!」
○
しばらくの間、オレは近くの公園のベンチに座って何をして時間を潰そうかを考えていた。
どうしようか。昼まではあとおよそ3時間近くある……。近くにはブランコ、ジャングルジム、砂場、鉄棒、すべり台か……。なるほど。
とりあえず今の案では、一人手遊びで30分、ブランコで30分、ジャングルジムで30分、砂場で30分、鉄棒、すべり台で30分で3時間じゃないか。いや……しかし待て。どれも30分もできる自信がないぞ。特にすべり台なんて一回滑ったらもういいだろ。って、こんなこと言っていても仕方がないな。こうなったらまずは一人手遊びからだ。
そういうことでオレは一人で手遊びを始めた。オレは右手と左手で両方でキツネを作り、まず右手のキツネを動かして言う。
「ふぁっ。ふぁっ。ふぁっ。ジョニー。やっとここまでたどり着けたようだな」
続いて左手のキツネを動かして言う。
「今日こそお前を倒すぞ!山田!あ、さっきは外国人設定だったか?まぁいいや」
(山田、ジョニー、酒場にて)
山田「ジョニー。愚かな者よ。この俺には勝てぬぞ」
ジョニー「この日をどれほど待ったか……。聞いて驚くなよ。俺は自分の姿を拳銃に変えることができるようになったのだ!」
山田「ほう。面白い。やってみろ」
ジョニー「いくぜ」
オレは左手で拳銃を作った。そして言った。
拳銃ジョニー「どうだ!これで撃てばお前は一発だ!」
山田「…………」
拳銃ジョニー「へ。びびったか?さぁ!撃ってやる」
山田「ふぁっ。ふぁっ。ふぁっ。よ~く見てみろ。それはただの左手だ!」
拳銃ジョニー「な、なんだってー!?」
(山田、ジョニー退場。八橋登場)
八橋「……よし。次はブランコだ……」
「え……なにやってるの?」
その時、誰かが引き気味に話しかけてくるのが分かった。
「ん?」
その声が聞こえる方を向くとそこにいたのは万条であった。
「え、お前今の見てたか?ていうか何やって――」
「え、ハッチー何その服……」
万条はオレが来ていた自宅警備員のロゴに気を取られていた。
ふぅ……さっきの見られてなかったみたいだな……。
「悪かったな……そういうお前は普通だな」
万条を見てみると、至って普通な、どこにでもいそうな私服であった。
「ふ、普通って……まぁいいやーハッチーだし」
「てかお前はどっか友達とでも遊んでくるのか?」
「いやー今日は違うよー。ちょっと今日駅前でオープンするショッピングセンターにいこうかなぁって」
「へぇ。いってらっしゃい」
「ちょ……なんか素っ気無くない?」
「そうか?じゃあ何て言えばよかったんだよ」
「それは……おれも行く!とかさー」
「それ。面白いジョークだな」
「……っ。ハ、ハッチーはなにやってたの?こんな朝早くから自宅警備員がさ」
「実は姉が来てて……はぁ……」
オレは姉を思い出しただけで疲れがどっと沸いてきた。
「え、どうしたの?」
「姉が出かけるまで時間潰さないといけないんだ。昼頃まで……」
「そ、そうなんだ……」
「ああ……」
すると、万条は何か思いついたような顔をして言った。
「あ!じゃあワタシもまだショッピングセンター開くまで時間あるから少しの時間だけカフェでも行く?」
「ああ!助かるよ!」
「うん!じゃあいこ!」
○
オレたちはカフェに入り座った。店員が注文をとる。
「ご注文はいかかなさいますか?」
「ハッチー何頼む?」
「コーヒーかな。万条は?」
「ワタシは……カフェラテかな。コーヒーとカフェラテで!」
「かしこまりました」
「で、ハッチー何でまたそんな格好なの?」
「あー、諸事情でな……急に家を出てきたんだ」
「ふ~ん。大変だねー」
「そうなんだよ。それでその後急に出てきたもんだから何にもすることなくてさ」
「うん」
「それでポケットの中調べていつくか硬貨があったから、やった!とか思って見てみたら100円しかなくて。こんなんじゃカフェも行けないじゃないかって感じで……ってあれ?」
「……え?ハッチー?」
すると、店員がコーヒーとカフェラテを持ってきた。
「お待たせいたしました。コーヒーとカフェラテでございます」
「あ、はい」
店員が戻ったところで万条が言った。
「ごめん。ハッチー。どういうこと?」
オレはそれに答えずに運ばれてきたコーヒーを飲もうとした。しかし万条はそれを取り上げて言った。
「これ、200円だよ?」
「その……すいません……忘れてました……明日必ず返しますので貸してください」
オレがそう言うと万条は仕方なさそうな顔で言った。
「いいよ。ワタシが払うよ。じゃあさ。この後の買い物付き合ってくれない?」
「は?」
「だからー。飲み物も奢ったし、今日、付き合ってよってこと!」
「いや。まぁ確かにそれは悪かったけど。でも、お金は必ず明日返す!だから、それだけは勘弁してくれ!」
「そ、そんな反応しなくても……。でもワタシがここでハッチーの分の飲み物代を払わなかったらハッチーはどうなるかな?ね?どうぞ?」
……っく!こいつ……。
「……す、すみませんでした……」
○
午前11時頃
というわけで、いくつもの不遇によってオレは万条と大手ショッピングモールに来ている。そして歩きながらオレは万条に質問した。
「なぁ?こんなとこまで来て、何買うんだよ?」
「え~、別に決めてないよー」
き、決めてないだとっ!?
「何言ってんの?じゃあ来る意味ないじゃん」
「あるよ!いろいろ見たりしたいの!」
「いや、普通、買いたいものを決めて来るだろ……。こんな時間の無駄な使い方ありえない……。なんという時間ロスだ……」
「ちょっと、ハッチーうるさいよー!ハッチーの時間の使い方の方が無駄でしょ!」
「あ?今、お前は言ってはならないことを――」
「あっ!!」
「なんだ?どうした?」
「これ~!可愛くないっ!?」
そう言って万条が食い付いたのはペットショップにいる仔猫だった。
「……って。ハッチーにこんなこと言っても同意してくれるわけないよね……ごめんよ。ハッチー……こんなこと聞いたワタシが間違って――」
「かっ、かわいいっ!!!」
「うっわ!!びっくりしたー!え?なに?」
「かわいいと言ったんだ。変なこと言ったか?ていうか、ここ寄ってかない!?」
実はオレは無類の猫好きであった。そんなことを知らなかった万条は少し引き気味に、
「え…………う、うん……いいけど…………」
「よし!行こう。ほら、何やってんだよ。早く行こうぜ」
オレたちはペットショップへ入った。
「いらっしゃいませー」
オレは真っ先に猫がいるところへ向かった。
「おい!万条!見てみろよ!こんなに猫ちゃん達がいるよ!」
「……ね、猫ちゃん?ハッチー……キャラ変わりすぎ……動物好きだったんだね……ねぇ!ていうか、向こうに犬もいるよー!あっちも見ようよ!」
「いや。ここにいる」
「えー!?犬好きじゃないの?」
「悪いが今、この仔猫達と会話をしてるんだ。邪魔しないでくれ」
「……もう!!」
○
そうこうしてオレは1時間近く、不動で仔猫達を見ていた。しかし店員に注意されてしまい、やむを得ずにオレたちはペットショップを出てしばらく歩いていた。
「あーー!可愛かったなぁ!猫ちゃんたち!な?万条?」
「……え?うん。そうだねー。ていうか猫をちゃん付けって……。ワタシのことは呼び捨てなのに……」
万条はだんだんと声が小さくなりながらそう言った。
「え?なんか言った?」
万条はムッとなり、少しぽっぺたを膨らませた。
「何でもないっ!ていうか、もう後半はハッチーなかなか帰らないから店員さんが諦めムードすごかったよ」
「そうか……」
「まぁ、ワタシが最初に食い付いたんだしいいんだけどさ」
「なんか悪い……ていうかどっか行くとこある?」
「う~ん……なんかお腹空いちゃったなぁ!なんか食べよう!」
「そうだな……じゃあ……この中の店にでも……って――」
「ん?どうしたの?ハッチー?お腹空いてない?」
「オレお金ないんだった……」
「あ」
万条もオレもオレがお金がないことを忘れていた。
「あー。もう仕方ないからワタシ出すよ?ほんとなんていうかアレだけど……」
「悪い……明日絶対返すから……ってなんかこれ返さない奴の常套句でよく聞くよな」
「やめてよ!」
「冗談だよ。返すよ」
「じゃあフードコート行こっか」
「そうだな」
○
フードコートにてオレと万条はそれぞれそばを頼んだ。机に座り、そばをお互いに静かに啜って食べていた。
「ふぅ。美味しかったー!」
「相変わらず食べるの早いな」
「え?そう?ハッチーが遅いだけじゃないの?」
「そうそう。昔から食べるのが遅いのよ。小さい頃だって食べるのが遅くて父さんにしょっちゅう注意されてたわよ……」
「まぁ、確かに言われてみたら昔から遅いかもな。昔だって食べるのが遅くてよく……って、んっ!?」
横を向くと何故か姉が座っていた。
「やあ!」
「何故ここにいる?」
「逆に問おう。何故逃げた?理由を言え。どんな理由にせよ、命はないと思え」
「その……ごめんなさい……」
買い物ってここに来る予定だったのかよ……。
オレの素直な謝罪に姉はニッコリと笑い許してくれた。
「よろしい。で、あんた。そのカッコなに?ダサいよ」
「……触れないでくれ」
「ていうか、このかわいい子ちゃんは誰?相席してる知らない人?」
「いや。部活で同じなんだよ」
「え!?ぶっ、部活?あんたが?あははは!冗談にしても笑えないよ」
万条がそれに対して自己紹介を始めた。
「ワタシ同じ部員の万条ユイです!」
姉はそういう万条を見て初めは驚いていたが、次第に納得したようだった。
「へぇ~。そうかい。まさかあんたが部活なんてやるなんてね……」
「オレだってやりたくなかったんだよ」
「あら。そうなの?」
「こいつ、万条がしつこく勧誘してきたんだよ。その後に担任の先生に無理矢理入れられたんだ。ほんとさんざんだよ」
万条は頭を掻き、苦笑いしながら姉に謝った。
「あははは。すみません、おねぇさん……」
姉はそれを聞いて言った。
「ユイちゃん……ナイスだよ!」
「へ?」
「いや~こいつさ~ほんとヘタレで私が何言っても言うこと聞かないし、やっとユイちゃんみたいな可愛い彼女ができたかと思うと……私は嬉しいよ……」
「姉貴。オレと万条はそういうのじゃないぞ。ただの部員だ」
「え~な~んだ~そうなの?ユイちゃん?」
姉は万条を見た。
「そ、そうですよ~!ハッチーはヘタレで言うことも一言余計ですし……って……あ……」
万条は言い過ぎたというような顔で姉を見た。
「あははは!そうだよね!一言余計なんだよね!我が弟ながら残念で仕方ないよ!で、ハッチーって誰?」
「あ。ワタシ、あだ名で呼んでるんです……」
「そっか!なんかお世話になってるみたいでありがとうねユイちゃん。大好き!」
「おい。姉貴。マジで気持ち悪いからそういうこと言うのやめてくれよ」
「なんだよ~つれないなぁハッチーは♡」
う、うぜぇ……。
「ていうか姉貴は買い物って何買うんだよ?」
姉はオレの質問を無視して万条とさらに話し始めた。
「ていうかユイちゃんは何でこんなに残念……な弟を誘ってくれたの?」
「なんていうか……誘える人がいないってのもあったんですけど……何かハッチー、いいなって思ったんです」
「そっかーーー!いいなぁ。私はハッチーが羨ましいよ……」
「姉貴、次そう呼んだら今日ご飯作ってやらないぞ」
「あーーーー!ごめん!今のなし!」
続けて姉が面倒なことを言った。
「じゃあご飯も食べ終わったことだし、みんなで見て回ろうか!」
「え?」
オレと万条は声を合わせて言った。
「あれ?嫌だった?」
「そんなことないです!」
「嫌だった」
「いや~よかった!じゃあ行こうか!」
「オレの言ったことは無視かよ……」
○
その後、オレは万条や姉に振り回された。買い物に付き合わされ荷物はすべてオレが持った。またこれは筋肉痛になりそうだな……。
そして万条と別れ、帰り道は姉と二人で帰っていた。
「それにしても、あんた。女の子に奢って貰ってたとかサイテーね」
「い、いいだろっ。返すんだし」
「そういうのじゃないわよ……ていうかユイちゃん、すごいいい子じゃない。付き合いなさいよ」
「は?何言ってんだよ。冗談にしてもきついよ。それにさっきも言っただろ。そんなんじゃないって」
「はぁ……」
「なんだよ?」
「さっき、二人になった時、ユイちゃん言ってたわよ。私が弟のどこがいいの?って聞いたら、『そうですね……最初は冷たい人だと思ってたんですけど話してみると意外とお茶目だったり、わがまま聞いてくれたり、色んな顔を持ってると思うんです……なんだろう……あ!……そうです、一緒にいると楽しいんです!』って。あんな子いないって!ねぇ!聞いてる?」
「聞いてるって」
「でもあんた。少し変わったじゃない。それだけでお姉ちゃんは安心だよ!」
姉はそのあとにまた、続けて言った。
「で、あんたほんとはユイちゃんとどこまでいったの?」
「だから、そんなんじゃないって!」