第三話
夏期講習の帰り道でピコピコ打っております。私の夏休みはもう少し先です。
『次は〜…』
「あ、次じゃん」
杏奈からこの旅の事で教えてもらったのは目的地の最寄り駅の名前だけ。
「杏奈、次だよ!起きな」
もたれている肩でグイグイ押せば
「…ん〜ん、わかったぁ…」
杏奈がゆっくり起きた。ぽけーっとした感じがまた可愛い。
電車に乗っている間眺めていた景色はほぼ田園風景だった。だからきっと目的地もど田舎だろう。何故こんな所に、杏奈は私と行きたかったんだろう。謎だらけの旅だ。お菓子をリュックにしまいながら「楽しみだー」と鼻歌交じりに言う杏奈を見つめながら色々考えてみたけど答えは見つからない。
(一体何を考えているの杏奈…)
「ん?何?何かあたしの顔についてる?」
杏奈と目があってしまった。
「…んと、杏奈は一体何を考えてるのかな〜って…」
思わず聞く私。すると杏奈は微笑みながら
「きっとそのうち分かるよ。というか、私だって千尋が何を考えてるのか分かんないよ?人間ってそんなもんでしょ?本心なんて読めやしない。相手のことも、自分のことも、謎があるから面白いんじゃん!千尋にとったらこの旅は謎だらけって感じでしょ?その分ワクワクしてこない?好奇心溢れる旅って良いと思わない?」
キラキラとした表情で語る杏奈に「…うん…そだね…」
としか答えられなかった。
君も旅も、謎だらけ。
「うーん、着いた〜」最寄り駅のホームに降り立った杏奈はグゥーと空に向かって伸びをした。
時刻は16時。お昼はお弁当を電車の中で食べたが、もうお腹は空いている。
最寄り駅の周りは山、山、山。都会から来た私たちにとったらこの景色は、遊園地のようにやはり特別な感じがした。
「スーッハーッ」
私は新鮮な空気をめいいっぱいに吸い込んだ。きっとこれがあの、『空気が美味しい』というやつだろう。
「空気が美味しいね」
杏奈にそう言うと、にっこり笑って、
「うん!やっぱ自然はいいね。身も心も新しくしてくれる…」
黄金色の光を放ち、次第に沈んでいく太陽を見つめながらそう言った。太陽の光に照らされたその横顔は、さっきのあどけない寝顔とは打って変わって、大人っぽく、綺麗な表情だった。こんな表情するんだ、と、初めて見た私は少し驚いたが、既にその横顔に、夢中になっていた。
「さ、宿へと向かいますか。千尋、行こ?」
手を差し出す杏奈の顔はほんのり紅潮してて、なんか照れてしまい、
「う、うん」
どもってしまった。
でも杏奈も顔が赤い。
「杏奈?」
「ん?」
「照れてるの?」
「っ!馬鹿っ!照れてない!」
「あはは、さっきの仕返し、ふふ」
「この野郎。…千尋も照れてるくせに」
「なっ!」
「ふふっ」
田舎の駅のホームを、君とふざけ合いながら手をつないで歩く優しい時間。夕陽の光が私たちを包むかの様に、私の心は温かかった。隣の君もそうだってらな。なんてね。