第二話
「ね、千尋、この旅の目的が何なのか分かった?」
「分かんないよ。てかそろそろ教えてくれてもいいじゃん。教えてよ」
電車が出発して流れてゆく風景をボーッと眺めていたら杏奈が不意にそう聞いてきた。
そう、私はこの旅の目的も目的地に何があるのかも、全く知らないのだ。というか、杏奈は、私にどういうわけか教えてくれない。旅の計画を練っていた時、「ねえ、何を目的に旅に出るの?目的地に何かあるの?」
「目的も、目的地も秘密!着いたら教えてあげる!」
と言われてしまった。ただ、
「絶対に無駄な旅じゃないから。この旅は一生忘れられないモノになる。この旅の思い出は宝物になる。千尋と行くから宝物になるの。だから行こう?ね?」
なんて真剣な眼差しで言われたら、これは行くしかない。いや、行かなきゃいけない。その言葉の意味が知りたいから。杏奈の考えている事が知りたい。
「えー、教えるのは着いてから!でも、旅の目的ぐらいは目的地に着くまでには分かって欲しいなぁ」
悪戯っ子みたいな顔で杏奈が私の顔を覗き込んできた。
「っ!…そんな無茶な…」
私は余りにも近い杏奈の顔に照れてしまい、そっぽを向いた。杏奈は「ふふ、照れてやんの〜」
と微笑みながらリュックの中からお菓子を取り出した。
「心臓持たないかも…」
私のとても小さな声で呟いた言葉は、杏奈の陽気な鼻歌にかき消された。
『次は〜…』
電車のアナウンスが静かな車内に響く。いつの間にか私たちの居る車両には私たち以外誰もいなかった。目的地の最寄り駅までまだ少しかかる。
「スー」
隣からは寝息が聞こえる。杏奈がお菓子の袋を握りしめたまま、眠ってしまっていた。あどけなさが残るその寝顔はとても18歳だとは思えない。
うん、可愛いな。いつかこの寝顔を一人占め…なんて叶わないか…
なんてことを考えていたら杏奈が次第に私の方へもたれてきた。肩に杏奈の重みがきた。その瞬間、また私の鼓動は速まった。杏奈の髪の甘く爽やかな香りが鼻腔を擽る。
「はぁー…どれだけ私をドキドキさせたいの。これじゃ寿命縮まっちゃうよ、杏奈」
気持ち良さそうに眠る君にそっと囁いた。
「…んっ…んん」
「っ⁉︎」
「……スー…」
「っ…はぁ…先が思いやられる」




