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第三話 始業式と面倒事

 制裁、という言葉の意味を取り違えるほど、少年たちは愚かではなかった。

 構えも取らず、結莉は首を鳴らす。その姿に、城里啓一しろざとけいいちは小さく舌打ちした。

(これだから、怪力女は……っ!)

 細峯結莉さざみねゆいり。言わずとしれた"虎の子"風紀委員。正規の風紀委員は学年に二人ほどしか存在せず、そして彼女――細峰結莉は、三年における唯一の風紀委員だ。

 純粋な力による学内ヒエラルキーではその頂点とも言える、風紀の鬼。しかしいかにこの女とはいえ、見逃さざるを得ないと思っていた。


(クソッ……!)

 毒づく。

 大人しく降参するという選択肢はなかった。風紀委員会で査問にかけられれば、待っている結果はひとつだ。自分の輝かしい経歴に、紛うことなき傷がつく。

 その回避手段は、既に途絶えたと言ってよかった。

(いや……待て)

 そうだ、違う(・・)。まだ途絶えていない。

 不意に思い至ったその結論に、思わず緩みそうになった頬を自制心で制御しながら、城里は柔和に微笑んだ。

「……先輩。さっきの言葉は嘘じゃないですよね」

「ん?」

「先輩に勝ったら、見逃してくれるってヤツですよ」

 そう言うと、彼女は「ほう」と小さく呟き、口を歪めた。

「無論だ。私に勝ったらこの件は不問にしてやる。ついでにまあ、始業式をサボるぐらいなら大目に見てやらんでもない」


 その言葉に、城里は口を歪めた。

 無論、敵うと思っているわけではない。相手はあの(・・)細峯結莉なのだ。マトモにやったって敵いようがないのは、よくよく分かっている。

 だとすれば……マトモな方法でなければいい。

 目配せ。それまで、揃って怒りと不安と動揺を浮かべていた二人の男は、その意味を余すことなく受け取ったのか、小さく、しかし獰猛な笑みを浮かべて頷いた。

 そう、三対一、だ。それは圧倒的なアドバンテージ。

 とはいえ、それは向こうも分かっているだろう。分かっているうえで言った条件なのだ。ゆえに――彼は、ズボンの内側に隠していた"それ"を、迷うことなく引き抜いた。


  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「なに……?」

 三人の男が、同時に引き抜いたそれに、結莉は小さく声を挙げた。

 黒光りする棒きれ。それは、違いようもなく制圧用警棒だ。硬質ゴム性のもので、下手な金属製よりも威力がある、立派な凶器。

「別に、武器はなしだ、なんて言ってませんよね……?」

 片手に警棒をぶらさげながら、にやにやとした顔で城里が告げる。


 確かに、それは言ってない。無論、三体一であろうことも理解していた。しかしよもや、そんなものを持ち出してくるとは、という唇を噛む思いと共に、じろりと三人を見やった。

「……ふん。警棒の携帯は許可されてないはずだがな。他にも色々と余罪がありそうだ……」

 結莉が呟くと同時、城里が嫌そうに顔を歪めたが、その得意げな顔は崩れなかった。


 しかしこの時点で、彼は一つ失念していた。この場にいることは結莉だけではないこと。即ち、その隣に立つ目つきの悪いガキが参戦してくる可能性を。

 そして目つきの悪いガキ、こと九桐斎くどういつきは、結莉の動揺に気づいていた。

 結莉のその表情も、立ち振る舞いも、ほとんど変化はない。しかし微細ながらも動揺している。恐らくだが、単に隠しているだけだ。

 その理由も簡単に察しがついた。三対一、しかも相手は制圧用の警棒を持っているのだ。間違いなく予想外だろう。そしてその予想外に対応する自信……確信は、恐らく彼女にはないのだ。

(……なら)

 この時、既に心は決まっていた。


 眼を開き、小さく深呼吸。次いで、後で怯えている赤髪の少女に、肩越しに告げた。

「少し、離れててください」

 え? と少女が問い返す間もなく。三人の男たちが警棒を振り上げながら――結莉へと突進した。

 そして、男たちの一歩踏み出した足が地面につくよりも前に……斎の足が、全力で地面を蹴った。


「なにっ……!?」

 背後(・・)で驚愕の声。それを置き去りに――九桐斎は疾駆した。


 一瞬で結莉と立ち位置を入れ替えた斎は、瞬きほどの暇もなく、一番前にいた男の眼前に躍り出る。先ほど長広舌を披露していた優男ではない。隣で立っていた、屈強そうな大男。その片割れだ。

 まさに一瞬。互いに突進し合う形となったこともあり、一瞬で彼我の距離、その間合いを走破した斎は、しゃがみこむような形で男の懐に入り込む。

 左足で地面を踏みしめ、身を捻るように――真上に掌底を撃ち込んだ。


「ぐぇッ……!」

 まるで弾丸のような速度で打ち出された掌底が、男の顎を的確に撃ち抜く。対して、撃ち抜かれた側のダメージは甚大だ。

 カウンター気味に、それも顎へのクリーンヒット。斎に伝わる手ごたえが、男の意識を確実に刈り取っただろうことを伝えてくる。

 男が眼を剥いて倒れこんでいく間にも――斎の目は次の標的を捉えていた。


 城里と、その前を走る厳めしい顔つきの男。後者は、幅広の胴周りを持ったこれまた大男だ。ダッシュの最中、二人ともが、一瞬で起きた光景を理解できないまま目を見開いている。

 であるなら。無論、このチャンスを逃す手などありはしない――!

 地面を右足が捉えたその刹那、着地した右足に強く力を込める。姿勢は迎撃。大男がそのことに気付いたかどうかは分からない。ただ確実なのは、この一瞬、今の勢いでは容易には静止できないこと。

 クロス・タイミング。完璧な間合いに男が足を踏み入れた瞬間。


「シッ――!」

 短い呼気と共に、右足で地面を抉り取るように加速。

 中空に飛び上がるように疾駆した体のままに、左の膝を男の腹へと叩きこむ……!

「がっ……」

 熊のような厳めしい男が体を二つに折る。しかし無論、それだけでは倒せない。相手の体型からして、今の一撃が必要十分なダメージを与えたとは思えない。ただの肥満なだけの男ならともかく、相手は本物の軍人を目指して日々訓練を積む、いわばプロの卵なのだ。

 それを理解していた斎は、そのまま地面に着地した右足を起点に、迷うことなく左肘を男のこめかみに突き入れた。


「げうっ!?」

 状況把握もできないまま、わけもわからないまま。情けない声と共に、男は地面に昏倒する。

 五秒足らずで二名を無力化した斎は、自分のほうに倒れこんでくる男を片手で地面に転がしてから、もう一人――城里へと向き直った。

 彼は、未だ呆然としていた。片手に警棒をだらりと下げたまま、もう突進しようという気にもならないのか立ち尽くしている。


「城里さん、でしたか」

「ひっ……!」

 名前を呼ぶと、びくぅっ、とその肩が大きく震えた。眼が恐怖に震えていた。

 やりすぎたか、と反省しつつ、その眼を見かえして斎は言葉を続ける。

「……まだやりますか? そろそろ、降服をお勧めしますが」

「あ……ぐ……」

 何かを呻き、答えようとして――がしゃり、とその警棒を落とした。そのまま地面にうずくまる。

 ふう、と溜め息を吐いて……振り返ると、待っていたのは驚きの光景だった。


 結莉が、こちらを呆然としたような顔で見つめていた。口をぱくぱくと開閉させ、握った拳の置きどころを探すようにきょろきょろと眼を泳がせている。ここ数十分の間に見た彼女の表情とは全く違うそれに、斎は思わず苦笑してしまった。

 ――と、その苦笑を、どうやら違う意味に取ってしまったのか。

「……勝てたんだからな」

 まるで拗ねたように口をとがらせ、彼女はそう呟いた。

 思わず、「へ?」と素っ頓狂な声を上げる斎に、小さく咳払い。次いで盛大なため息を落とした。

「見事な手際だ、ああそれは認めよう。だが……まったく。お前が片づけてどうする?」

「はぁ」

 気のない返事に、ますます眉間にしわを寄せて、結莉は斎を睨みつけた。


「いいか? 風紀委員会以外による制裁は禁止されている。自衛なら別だが、さっきの別にお前が襲われてたわけでもない。要するに、さっきのはただの暴力ということだ」

「……む」

 理屈は分かる。そして分かるがゆえに、斎は顔をしかめざるを得なかった。

 要約すれば……さっきの行為は、自分の役割を逸脱したものだった、ということ、なのだろう。

 無論、仕方がなかったという想いもある。あのままであれば、彼女が敗れていたこともありうるかもしれない。まあそれは、彼女の実力を知らないがために断言できることではないが。


「でも、助けてもらったのは事実です!」

 ざざっ、と音を立てるように、自分と結莉の間に割り込んでくる影があった。

 さきほどの、赤髪の女生徒だ。確か、アンジー、と呼ばれていたような気がする。こちらを庇うように、結莉に対峙している。

「感謝されこそすれ、責められる云われはないと思います! 彼を査問委員会にかけるというのなら、私の全権限を賭して反対します!」

「いや、私も彼を査問にかけるつもりはないよ、アンジェリカ・ロス第二学年長」

 そう即答した結莉に、少女は「えっ」と小さく驚く。

「私だって……彼に助けてもらったのは事実だ。今のは少し危なかったからな。まあ、少しだけだが」

 少し、の部分を妙に強調する結莉に、思わず苦笑が滲みかけた。……のだが、視線にあからさまな冷気が混ざり始めたのを見て、寸前で引っ込めた。


 結莉の言葉を聞いた少女は、明らかにホッとした表情を顔に浮かべ、胸を撫でおろして斎へと振り返った。

「ええと……助けてくれてありがとう。私はアンジェリカ・ロス。アンジーって呼んで。ええと……」

「九桐斎。俺も斎でいいよ。よろしく、アンジー」

「うん、よろしくね、イツキ!」

 少女がぱっと花のように笑った。あるいは、先程の強気な態度よりも、こちらの方が素顔なのかもしれない。

 改めて見れば――同じ米国人同士を比べて見ても、少女はクリスと違った種類の美少女だった。紅色の髪と、オリーブグリーンの瞳。クリスを綺麗だと称するなら、アンジーはまるで香る花のような愛らしさと、健康的な美しさに満ちていた。


 お互いに、笑顔のまま握手を交わす。少女の手は、驚くほどに柔らかかった。女性の手なのだ……などと、今更わかりきったことを考えて、柄にもなくドキリとしてしまう。

 しかし「柄にもなく」などと無意識に自白したように――純朴さなどというものが自分に似合わないのも、確かに真実なのだろう。わずかな滑稽さと共に、瞬く間に泡のように消えてしまった。

「本当にありがとう。少しだけ……少しだけ怖かったから、助かっちゃた。それに――」

「それに?」

 問い返すと、少女は頬を赤く染めて俯いた。

 ごにょごにょと囁くような声が聞こえもしたが、その明確な意味までは届かない。彼としては首を捻るほかなく……不思議げな顔をしている斎に、アンジーは焦った風に「何でもない」と手を振った。


 ――と。唐突に、二人を見ていた結莉が、横合いから「あ」と声を上げた。

 しかしその間抜けな声を馬鹿にすることなど、当然誰も出来るはずがない。なぜなら、その視線を追った斎とアンジーも、同じようなものだったからである。

 視線の先は校舎に架けられた時計。中庭から見えるそれは、既に九時五分を示していた。


「まずっ、始業式!?」

 しまった、という思いは全員同じだったのだろう。斎が声を上げるまでもなく、アンジーは焦ったように声を上げた。

 現代のセキュリティは堅牢である。それは学校であっても例外ではない。そのような昨今、始業式のような行事が始まれば、体育館は施錠されるのが常である。

 当然、教師に言えば鍵を開けてはもらえるが、それが少々ばかりややこしいことであることは間違いもなく。

「あー」

 困ったな、と苦笑気味に結莉が頬を掻いた。

「わかった、仕方ない。今回は二人とも、風紀委員会の仕事に付き合ってもらった、ということにしておこう。減点対象にはならないようにはなるはずだ」

 ただし、と結莉は付け加えた。

「君の罪を免罪には出来ないぞ、九桐くん。とはいえ、もちろんそのまま裁くつもりもない。安心して、放課後生徒会室に来るように」

 いいな? と念を押されれば、うなずく以外の選択肢など取れようはずもなかった。


   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 面倒なことになった、と思う。

 一つは親切心であった。そしてもうひとつは自衛のためだった。より正確に言えば、前者は三、後者は七ぐらいだろうか。

 いずれにせよ、あのときにしたことは後悔してはいない。ただ結果として、今自分は生徒会室の扉の前で、面倒臭そうにため息を吐いている。それは事実だ。


(安心して、といわれてもな……)

 先ほどの言葉を思い出す。

 あの後「三人を連行する」と言った結莉に付き添って、とりあえず二人を医務室に、一人を風紀委員会にまで連れて行った。

 そして気が重いままホームルームに向かい、三十分後には解散。今日一日は始業式とホームルームによる説明だけで、他には何もない。

 しかし、斎はそのまま帰路につくことは出来なかった。

 風紀委員である彼女――細峯結莉の言葉を、そのまま知らない顔で無視することが出来るわけもないのだ。何せ、いわば風紀委員会はこの学校における警察、そしてその委員からの言葉ということは、警察署からの出頭命令にも近い。無視すれば、どんなペナルティが待っているかもわからない。


 そんなこんなで――斎は、「少し待っていてください」という生徒会役員らしき女性の言葉どおり、ドアの手前にある壁掛け式の椅子に腰掛けていた。

 ドアの向こうで、今も何かが話し合われているのは空気でわかる。それが自分のことだと思えば、殊更気も重かった。


「ごめんね、こんなことになって」

 斎の溜息に気づいたのか、隣に座る紅い髪の少女――アンジェリカ・ロスことアンジーは、申し訳なさそうに顔を歪め、俯きながら言った。

 ……もとより、生徒会室に呼びされたのは斎一人だけだ。当然、彼も一人で行こうとしたのだが、どうしてもついてくると言って聞かなかった。

 別々のクラスならば容易に断れたのだろうが……どういう因果なのか、アンジーと斎のクラスは同じ二年六組だった。


「いや……あれは俺が勝手にやったことだから」

 少女の謝罪に首を振ると、アンジーはふっと柔らかく微笑んだ。

「……やさしいね、キミは」

 斎にとって、それはまったくの嘘偽りない真実であったのだが、そう言われてしまえば返す言葉もない。

 言い訳を重ねたところで、残るのは無様だけだ――かつて師に言われた言葉を思い出す。重要なのは、自分の起こした行動が、誰かにとっての災いにならないように全力を尽くすことだけだ、と。

 ――ピピ、とドアのロックが解除された電子音と共に、ドアが小さく横にスライドした。

 半分ほど開いた扉の向こうから姿を現したのは、小柄な少女だ。

 可愛らしい、という形容が最も似合いそうな、そんな少女である。しかしその相貌とは裏腹に、その目には冷静で冷徹な光が垣間見えた。

 先ほど、斎にここで待つように告げた、生徒会役員らしき女生徒だ。


「……九桐斎さんですね。お入りください」

 見やるや、無表情なままに斎を招いた女生徒は……ちらりとアンジーへと視線を向ける。

「あ、あの……私――」

「彼だけで結構です」

 にべもない。少女は、隣で立ち上がろうとしたアンジーを、機先を制する形で無表情に遮った。

 しかし、それは仕方ないことなのかもしれない。師の言葉に照らせば……彼女もまた、自分の責で他人に害が及ばぬよう、努力しているだけに違いない。

 しかしこの問題は、結局のところ斎一人が、斎一人の責任で引き起こしたがゆえに。その厚意に甘えるつもりは、元よりない。

 不安げな顔で斎を見るアンジーに手を振って、一礼の中に溜息を隠しながら、彼は生徒会室に足を踏み入れた。


  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 生徒会室は綺麗に整頓されていた。

 円卓を模した巨大な机がひとつと、奥に、生徒会長の席らしい個人テーブルがひとつ。他にも、普通の学校で考えれば、豪華すぎるような設備がいくつも散見された。

 機甲学校における生徒会長の権利は、時に教師をも凌ぐ。その意味を誇示するかのごとく、学長のような席に悠然と腰掛ける一人の女生徒。

 眼が合うと、ウェーブのかかった長いブロンドの髪の下で、彼女は優しく微笑んだ。彼女こそがおそらく、全校生徒による熾烈な競争を潜り抜け、その頂点へと立つ人物なのだろう。その物腰には、他の生徒にはないような余裕が感じられた。

「はじめまして、君が九桐斎くんね。私は生徒会長の四方院楓。よろしく」

「はい、よろしくお願いします」

 頭を下げると同時に……。

 その優しげな声を聞きながら斎は、自分に対する方針は、そう悪いほうに転んではいないのかもしれない、と感じた。悪い話ならば――誰であれあるはずの硬さが、少女にはなかった。

「さて、まずはじゃあ全員の自己紹介から……」

「会長。そんな時間はありませんが」

 と、冷静に口を挟んだのは、先ほど見た小柄な少女だ。


 全員、というのは無論、この部屋にいる全員、ということだろう。広い部屋に置かれたデスクには、七、八人の男女がめいめいに腰掛けていた。確かにここにいる全員が自己紹介するとなれば、それなりに時間がかかるだろう。

「えー、いいじゃんそれぐらい」

 ぶーぶーと口を尖らせる生徒会長――四方院楓に、対する少女は無表情に首を振って即答した。

「よくありません。今日は始業式でしたから、閉館も早い。もうあまり時間がありません」

 むう、と頬を膨らませる楓に……ふと、椅子に座っていた生徒たちのうちの一人が、声を上げて笑った。

 茶髪を長めに伸ばした、軽薄そうな印象の優男だ。青の校章ワッペン……即ち、一学年上の先輩だ。


「はは、いいじゃん自己紹介。どうせこれから一年間も一緒なんだし?」

「……私も構わないが」

 次いで首肯したのは見知った顔、結莉だ。

 二人の言葉に、女生徒は、無表情ながらも小さくため息を吐いた。

「まったく……春寺さんだけでなく細峯さんまで」

 春寺、と呼ばれた男子生徒は、変わらず軽薄な笑みのまま、大仰に肩を竦めた。

「そう言うなよ。そこの目つき悪いボウヤさ、二年の三人組……しかも武器持ちを、たった五秒で片付けたんだろ? 興味あんだよ、俺もさあ」


「……それは、俺も同感だ」

 横合いからの同意の声。

 そちらを見れば、眼を瞑り、両手を組んで椅子に腰掛ける男がいた。大男というわけではなく細身だが、研ぎ澄まされたその気配は、まるで一本の刀のようにさえも感じられる。

「……だが、俺が興味あるのは真実だけだ。名前も経歴も、今はどうでもいい」

 変わらない姿勢のまま淡々と語り終えると、片目だけ開いて斎を見やった。

「……二年。今一度問うが……先ほどの件、真実か?」

 先ほどの件、というのが、先に話題に上がった、五秒で片付けた云々のことであろうことは想像に容易い。


 斎は頷き――ただし、と付け加えた。

「あれは相手方の油断をついた、いわば不意打ちです。十分な準備をされていれば、武装した三名を素手で無力化するのは、難しかったと思います」

「つまり、相手が油断していたから?」

「ええ、でなくば無理だったかと」

 口を挟んだのは、春寺、と先ほど呼ばれた軽薄そうな先輩の方だった。斎の言葉に頷くと、彼は結莉のほうへと振り返った。

「だってよ、細峰。その辺どうなん?」


 話を振られると、結莉は「ふむ」と腕を組み、わずかに考え込む表情をして、首を振った。

「……確かに容易くはなかったかもしれん。が、不可能ではなかったと思う」

「買いかぶりですよ、先輩。あれはたまたま上手くいっただけで……」

 図らずも言い合う形となった二人を引きとめたのは、二度ほど響いた、手を打ち合わせる音だった。

「はいはい、皆さん。勝手に話を進めないの」

 呆れた風に告げたのは、議長という体裁を取る生徒会長――楓だ。二人は口をつぐみ、互いに彼女へと向き直った。

「さて、じゃあ自己紹介はとりあえず置いておいて。まず、斎君にひとつ聞きたいんだけど」

「はい」

 頷くのを確認すると、こちらの様子を伺うように、彼女は口を開いた。

ロボットなのに生身バトル。デュエルしろy(ry

ロボットバトルは……二話ほど先の話になりそうです。

しかし、またもや中途半端な形に……!

申し訳ない限りなので今回は一週間後に更新します。

ということで、第四話は10月30日に更新です。

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