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I1

 今更ながらに振り返って見ればこれは一日の始まりなどではなく、世界の終わりの始まりであったと言う事である。


 眠気眼を擦りつつ、ベッドと掛け布団に柔らかく温かくサンドされた顔をモゾモゾと這い出して見上げてみれば、窓ガラスの向こうから「ホーレホレ起きやがれ」と催促してくる太陽を遮って飛ぶ、謎の飛行物体を視認。そのお尻からブリブリと吐き出している大量の白煙は恐らく飛行機雲の類なのだろうが、しかし飛行機にしてはどうもフォルムが真っ直ぐ過ぎてミサイルめいていると言うか何と言うか、少なくとも中に人が乗っていて高度上げたり下げたり出来るようには見えない――だって翼がないんだもん。

 まぁ日本の技術進歩の速度には凄まじいものがあり、各会社続々と新機種展開しまくってる携帯電話とかを考えてみれば、俺の知らぬ間に主翼も尾翼も無い飛行機が縦横無尽に空を駆け巡っていたとしても、特に不思議は無いのだろう。いやいや流石は日本人。えらい物を作ったね。さてさてそう云う訳で、そろそろ突っ込むとしようか。

「おいそこの健やかなバカ」

 と朝の挨拶をしたのは、俺のベッドに潜り込んで親指を咥えて寝ている稲峰疾風である。

 セーラー服をしっかり着て、ショートボブの栗毛とトレードマークのアホ毛をしっかり整えて、何時でも出発完了な状態で、何が嬉しいのか悲しいのか、俺のベッドに潜り込んでスヤスヤと寝ている。さてこの娘、どう始末してくれようか。

「むにゃむにゃ。清十郎……いい加減、ボクがいなくても起きられるようになれよな……むにゃむにゃ」

 ……なるほど。稲峰疾風は久しぶりに早く起きたものだからそれを自慢しにわざわざ俺の寝室にやって来て、そして何をどう間違えたのか俺のベッドにインして、そのままぐっすり寝てしまったと。どうやらこれはそういうシチュエーションのようだ。

「むにゃむにゃ。清十郎のセはぁ、世界遺産のセだったのか……どうりで。むにゃ」

 はてさて、何故このバカはユネスコに黙って人の名前を認定した挙句何ら説明もなされぬまま納得しているのだろうか。

「へへへぇ、そっかぁ……」

 そして今度は何に納得しているのだろうか、可愛い寝顔で。

「清十郎の朗はぁ、」

 朗はぁ、なんだと云うのだ?

「早漏のろ……」

 俺はバカの柔らか(ほっぺ)をしこたま引っ張ってー

「いたいいたいいたいいたい!」

 しこたま引っ張ってー

「いたいいたいいたいおはようございますおはようございます!」

 スゲーな朝の挨拶しっかり身に付いてるよ流石陸上部! 俺が手を離すと疾風はそのパッチリとした目を擦りながら、寝起きの涙なのか痛みの涙か分らないものを零しつつ、白い目で見ている俺に焦点を合わせて

「……あれぇ? 清十郎?」

「おはよう。お目覚めでございますかバカ」

 言えば「おはよう……」と返しつつ眠そうに瞬きを数度してから、ゆっくりと左右を確認し、もう一度俺を確認し、そしてここがベッドの中だと悟ったのか、急に顔を赤くしたかと思いきや「キャー!」とお約束どおり弾かれたように飛び上がって

「変態変態変態清十郎の変態! 何ボクのベッドに無断侵入して何食わぬ顔してんだバカー! おはようございます!」

「おいバカまじ殺すぞお前が俺のベッドに早朝から無断侵入した挙句健やかに寝入ってんだろうが! おはようございます!」

「うるさいアホバカ言い訳すんなおたんこナス! 清十郎なんてユネスコに世界遺産登録されて色んな人に観光された挙句爆発しちまえー!」

「おい世界遺産って爆発するのかよ! 人類が共有すべき普遍的価値を持つ不動産が保存義務無しかよ!」

 改めて紹介しよう、この馬鹿を。稲峰疾風、17歳。俺と同じ私立ミツバ学園に通う高等学部の二年生。関係は幼馴染と云うより幼稚園から始まって小中高、クラスまでを共にした腐れ縁である。現在彼女は陸上部に所属しており、身長は145センチと言うミニサイズながら二年連続県大会入賞という優れた身体能力を有し、部員の同輩後輩からの厚い人望――俺には信じられないのであるが――もあって次期部長の最有力と言われている。帰宅部の俺とは違い、実に健全な青春を謳歌している。もののついで、俺の自己紹介などもさせて頂こう、初めまして。

 吉岡清十郎です。

 実在した某有名剣士とは(えん)(ゆかり)もございません。唯のしがない高校二年生。


 家を出てから疾風とミツバ学園に向かうその道中で、俺は今朝方、眠気眼で見た未確認飛行物体についての話をしてみた。

「少なくとも俺はそういうの見たとないんだけど、何か思い当たるのってない?」

 尋ねると疾風は腕を組んでアホ毛をピクピクと動かし、「むー」と思案を始める。そのまましばらく沈黙の後、やがて難しそうな顔を向けて

「……タオパイパイ?」

 改めてコイツが馬鹿だったという事を再確認させてくれた、ありがとう。

「ところでお前が死ぬほど珍しく早起きして俺の寝室に来たときって何時ぐらいだったわけ?」

 と尋ねると、疾風は頭に人差し指を当ててまたムムと思案を始める。チロルチョコぐらいしかない脳味噌を酷使し始めたようだ。

「え~っとまず朝起きて顔を洗って歯を磨いて」

 そこからですか疾風さん。

「服を着替えて髪を整えて家を出て、清十郎の家にコッソリ入ってそれから忍び足で階段をあがって」

 泥棒ですか疾風さん。

「清十郎を脅かそうと思ったら何かすっごく気持ち良さそうに温かそうにふかふか~って寝てたから、あ~もう! 清十郎ズルイボクも!ってなって」

 逆切れですか疾風さん。

「ベッドインして」

 侵入ですか疾風さん。

「その辺りで確か朝のサイレンがウーって鳴ってたけど気にせずに寝た。えへへ」

 とはにかみながら頭を掻く稲峰疾風17歳。この可愛い笑顔の虜になった男子諸君の数は多いのだが、しかし俺に寄生虫の如く張り付いているのでどうやらあらぬ誤解を生んでいるらしく、まだそういった声はかかっていないようだ。しかしわざわざ俺が「いやいやただの腐れ縁ただのバカ」と弁明して回るのも妙な話と言うか面倒くさいと言うか、まぁそういった事情でこんな現状となっている次第である――って。

 ちょっと待て。

 俺は疾風に、恐らくは青ざめた顔を向けて

「お前、八時の通学出勤サイレン聞いたって言ったよな?」

 と訊けばキョトンとして

「言ったかな?」

「言ったよ! すげー今しがた言ったよ! なに無垢な顔してんだよ短期記憶レベルを忘れてんじゃねーよ!」

 突っ込めば疾風、そのままフリーズ。そしてからしばらくの間があってから、

「あ、ああ! 言ったよ! 言った言った!」

 本気でコイツにはチロルチョコ並の脳味噌しかないんじゃないかと心配になって来た。冷や冷やしている俺に彼女は

「でもそれがどうかし……」

 そこまで言いかけて、そしてコイツの顔からもサーっと血の気が引いた。ようよう気付いたか疾風よ。

「えっと、清十郎。き、今日って何曜日だっけ?」

 俺は無慈悲に言った。

「遅刻厳禁の月曜……」

 そして脱兎の如く二人で駆け出そうとして、

「あっとその前に!」

 急発進急停車と言う具合に立ち止まって稲峰疾風は振り返り、キっと睨みを効かせ、ビシっと中指を立てて

「グッモーニン!」

 と掲げた。彼女は家を出ると何時も欠かさずこれをやる。そして俺がそのミョンと逆立っているアホ毛を摘みながら

「コラコラ。いい年した娘がそんな事するんじゃない」

 と嗜めるのもお約束である。それに膨れたような顔をしつつ

「だって、腹立たないかコイツラ~」

 と疾風がグルンと腕を回して示したのは、道路に等間隔に設置されている多数の防犯カメラである。それこそ見渡す限り、まるでカメラの竹林と言わんばかりにズラっと並んでいる。もう俺や疾風といったミツバ市の市民は見慣れてしまっているとは言え、電信柱とほぼ同じ数だけ設置されているこれは、他の県や市に暮らす人間から見たなら間違いなく異様な光景だろう。

 二人が僅かに沈黙しただけで、ポールの上の黒いカメラがウィンウィンと回頭する音が聞こえて来る。俺はポンポンと疾風の頭を叩きながら

「市民の安全を守る為、って言われちゃしょうがないだろ。文句があるなら次の市長選で言えって事だな。ほら行くぞ」

 と促がした。すると疾風はまだ納得いかなさそうな表情を浮かべながら

「どうせ次の市長も如月の人間がなるに決まってるさ」

 と言ってから、俺と足並みを揃えて駆け出した。 

 

どうも無一文です^^


キリの良いところまで書けたので、気分転換に投稿させて頂こうと思います。

最初からオバカな展開ですが、大筋においてこういう感じで進んでいきそうです。

書きたいところまで書いてあるので、こちらは一日ずつ更新する予定です。

宜しければお付き合い下さいませ^^

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