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第55話

第55話


二学期も始まってから日がたち今は、9月の半ばだ


特にこれといって何かあるわけでもなく毎日をそれなりに楽しく過ごしていた


しかし、最近気になることがあった


それは、亜姫の元気がないことである


二学期が始まったころは普通だったのだが数日前ぐらいからどうも様子がおかしいのだ


最初僕は、元気がない時もたまにはあるかなと思いそっとしておいたのだが何日たっても全然元気がないのである


今日も食事もほとんど取らずに一緒に学校に登校したのだがやはり元気がない


隣を歩いている亜姫をチラっと見てみる


一件普段と同じようにしているがやはり元気がない


「ねぇ、亜姫」


「・・・」


聞こえていないのか返事がないはる姉も最近の亜姫の様子には気づいているらしく心配そうな目で亜姫を見ている


「亜姫」


「!!は、はい・・・なんですか・・・兄さま?」


亜姫は少し驚いた様子でこちらに顔を向けた


「最近元気がないけど、何かあった?」


「な、なんにもありません・・・」


「亜姫・・・」


「ホントに・・・なんでもないです・・・今日は日直の仕事があるので・・・先に行きます」


亜姫はニコっと微笑んでから逃げるようにその場から離れて行った


「和ちゃん・・・」


はる姉が話しかけてくる


「亜姫どうしたのかな・・・」


「分からない・・・でも、何かに脅えてる気がする・・・」


「脅えてる?」


「なんとなく・・・だけど・・・そんな感じがする」


「でもいったい何に・・・」


「分からない・・・ごめんね・・・力にあんまりなれなくて」


「はる姉が謝る必要ないよ。それより僕たちも早く学校に行こう、結構ここで立ち話してたからこのままじゃ遅れちゃうよ」


「ん・・・そうだね・・・急がないと」


僕たちも少し急ぎ気味で学校に向かう


学校に到着しはる姉とも別れた僕は自分の教室に向かう


教室に入り席に着くと渉が話しかけてきた


「よう和人、お前にしては遅かったじゃねぇか」


「渉おはよう、ちょっとね」


「何かあったのか?」


「最近、亜姫の元気がなくてね。何かあったのか聞いてみたんだけど話してくれなくて」


「そういえば、確かに元気ない気がするな」


「だから、心配でね」


「なるほどな」


そんな話をしていると先生がやってきてSHRが始まった


授業も始まり4時間目に突入し数十分立った時、教室のドアが荒々しく開いた


開いたドアの方を見るとはる姉が血相を変えて立っていた


「和ちゃん・・・大変なの・・・亜姫が倒れた!」


「なっ!」


僕は、驚いて席から立ち上がった


他のみんなも今の発言に驚き一気に教室がざわつき始めた


「おい!静かにしろ!」


先生が生徒を怒鳴りその場は何とか静かになった


「文弥、お前は妹のところに行きなさい」


先生が皆を静かにした後、僕にそういってくれた


「はい、そうさせてもらいます!」


僕は、はる姉と一緒に急いで保健室に向かった


保健室に行くと亜姫がベットで眠っていた


「先生、亜姫は大丈夫ですか!」


僕はその場にいた保健室の先生に容態を聞いた


「大丈夫よ文弥君、亜姫ちゃんは寝不足で倒れただけだから」


保健室の先生は、僕のことを文弥と呼び。はる姉と亜姫のことは下の名前で呼んでいる


「ホントですか!?」


「ええ、だから少しここで休ませればすぐに治るわよ、美晴ちゃんも安心しなさい」


「よかった・・・」


はる姉は、目にうっすら涙を浮かべて笑って安堵していた、僕もそれを聞いて少し安心した


「んにゅ、兄さま・・・姉さま?」


先生と話していると亜姫が目を覚ました


「目が覚めたみたいね、私は亜姫ちゃんの教室に行ってカバンを取って来るから二人はそばに居てあげなさい」


「はい、ありがとうございます先生」


先生にお礼を言って、置いてあった椅子に僕とはる姉は座った


「亜姫、大丈夫?」


「亜姫・・・心配したよ」


「ごめんなさい・・・兄さま・・・姉さま・・・心配かけて」


亜姫は申し訳なさそうにこちらを見る


「気にしなくていいよ倒れたって聞いたときはびっくりしたけど、亜姫が無事ならそれでいいよ」


「そうだよ・・・亜姫・・・無事でよかった」


「もう少しでお昼休みだけど、今日はもう家に帰って休んだ方がいいよ。先生には僕が言っておくから」


僕がそう言うと亜姫は目を見開いて僕に抱きついて来て


「嫌です!一人は・・・嫌です!」


いつもの数倍大きな声でそう言った


「ど、どうしたの亜姫!」


「ひ、一人に・・・しないで・・・ください」


亜姫は僕に抱きつきながら震えていた


「亜姫・・・一体何があったの?最近、元気がなかったことに関係してるのかな?」


「はい・・・お昼休みに話します・・・今は・・・こうさせてください」


そう言って亜姫はさっきよりも少し強めに僕に抱きつく


「うん、いいよ」


僕は、亜姫の頭をなでながら了承した


しばらくして、戻ってきた先生がカバンをベットのそばに置いてからお仕事に戻った


昼休みを知らせるチャイムが鳴った


「亜姫、お昼はどうする少しは食べないと最近食欲もなかったしまずは何か食べないと、お話はその後でもいいからさ」


「はい・・・先生・・・ここで食べてもいいでしょうか?」


「かまわないわよ、文弥君と美晴ちゃんもここで食べて行きなさい」


「はい、それじゃあお弁当取ってこないと」


でも、今の亜姫をこのまま放っておいたら行けない気がするしどうしよう・・・


どうしようか考えていると保健室のドアが開いた


ドアの方を見ると渉と美里先輩が立っていた


「渉、美里先輩もどうしたんですか?」


「お弁当、持ってきたんだよお前のことだからここで食べるんじゃないかと思ってな」


「私も同じく美晴にお弁当を持ってきたのよ」


「美里・・・ありがとう」


「というわけで私たちもここで食べるわ、いいですか先生?」


「仕方ないわねぇ、今回は特別よ」


先生は微笑みながら美里先輩のお願いを了承してくれた


それから皆それぞれお弁当を食べてしばらく休憩し亜姫にいよいよ本題を聞くことにした


ちなみに先生は途中で職員室に用事があると言って保健室から出て行った


「それで亜姫さっき話そうとしていたこと話してくれるかな」


「はい・・・」


亜姫、少し震えながらポケットに手を入れ一枚の手紙を渡してくる


「それを・・・読んでみて・・・ください」


亜姫にそう言われ僕は手紙を開く他のみんなも僕の後ろに回り手紙に目を通す


その手紙にはこう書いてあった


『僕と君は結ばれる運命なんだそれは絶対に揺らぐことはない。その証拠に僕は君のすべてを知っている。君は僕の物だ愛してるよ亜姫』


僕たちは、この手紙に驚愕した


「これって・・・」


「完全にストーカーね」


「文面からみても間違いないっすよね」


「しかも・・・相当・・・悪質」


亜姫、震えて下を向いている


「これ、いつ送られてきたの?」


「数日前・・・です・・・それから毎日誰かの・・・視線を・・・感じて・・・たまに写真が・・・送られてきたり」


亜姫は、泣きながらも懸命に説明する


「だんだん怖くなって・・・家に居ても・・・全然安心・・・できなくて」


「それで、ずっと一人で我慢してたの?」


「はい・・・」


僕は、亜姫のそばに行きギュッとやさしく抱きしめる


「兄・・・さま・・・」


「ごめんね、気づいてあげられなくて。一人でずっと怖い思いをしてたんだよね」


「怖かった・・・です・・・兄さま・・・うわぁぁぁぁぁぁん」


亜姫は話して緊張の糸が切れたのか僕の胸の中で思いっきり泣いていた


しばらくして、泣きやんだ亜姫はまだ疲れが残っていたようで再び眠りについた


「よっぽど疲れが残っていたのね亜姫ちゃん」


「そうですね、無理もないですよ」


「だな、ずっと怖い思いをしてたらしいし」


「その・・・ストーカー・・・許さない」


「そうだね、そのストーカーをなんとかしないと亜姫はずっと怖い思いをすることになるし」


「しかし、どうやって突き止めるんだ?警察に知らせるのか?」


「それは止めた方がいいと思うわ、正体がわからない以上むやみに警察に知らせたりしたら逆に亜姫ちゃんを危険に晒す可能性があるし。そもそも警察なんかじゃ大して当てにならないわ」


美里先輩の言うとおりだ、さっきの手紙を見せたとしても警察が素早く動くとは限らないその場合亜姫が危険な目に会うのは目に見えている


「私たちで・・・何とかする」


「そうね、危険だけど美晴の言うとおり私たちで何とかするしかないと思うわ」


「そうですね」


「そうなると一番の問題はやっぱりストーカーの正体だよな。正体がわからない以上手の出しようがないしな」


「そうねどうやってあぶりだそうかしら」


「一番手っ取り早いのは、亜姫ちゃんが誰かとイチャイチャして相手が切れて現れたのをボコるのが一番なんだけどな」


「じゃあ和人君が相手でいいんじゃない」


「僕ですか?でも、相手が亜姫の事をストーカーしてるんなら家族構成とか知ってるんじゃないですか?」


「そうかもしれないけど、おそらくストーカーは相手が男ならだれでも亜姫ちゃんとくっついていれば痺れを切らして現れるんじゃないかしら」


「その・・・可能性は・・・高い」


「じゃあ僕が亜姫のそばに居るとして美里先輩たちはどうするんですか?」


「私たちもすぐに駆けつけられるようにスタンバイしておくわよ最もストーカーに見つかるといけないから一定の距離は取るけど学校ならそれは必要ないだろうから学校では普段どおりにするわ」


「俺もそうするかな、今のところむやみに動けないしな」


「私も・・・亜姫のそばに・・・なるべくいるようにする」


「でも、そしたら美晴にも危険が及ぶ可能性があるわよ」


「構わない・・・和ちゃんが体張るのに・・・私だけ黙って見てるわけには・・・いかないから」


「なら、美晴の好きにしなさい」


「ん・・・」


「とはいえ相手がすぐに出てくる可能性は低いわね、あぶりだすのに数日かかるかもしれないわ」


「ですね、でもやるしかありません」


「もちろんよ」


「それじゃあ、決まったことですし亜姫が起きたら事情を説明してさっそく行動に移しましょう」


「ええそうね」


その後お昼休みが終わったので渉と美里先輩は授業に戻って行った、僕とはる姉は午後の授業は欠席して亜姫のそばに居てあげることにした


時間的に5時間目の終わりにさしかかった頃、亜姫は目を覚ました


「兄さま・・・そばに居ますか?」


寝ぼけて回りをまだ良く見渡していない亜姫がそう聞いてきた


「いるよ、良く眠れたかな」


「はい・・・久しぶりに・・・よく眠れました」


「そっかそれは良かった」


その後、僕は皆と話したことを亜姫に報告した


「兄さま・・・姉さま・・・ごめんなさい・・・迷惑掛けて」


「なんで亜姫が謝るのさ、亜姫は何も悪くないよ」


「気にしなくて・・・いい」


「でも・・・」


「それ以上、同じこと言うと怒るよ亜姫。僕たちは亜姫に元気になってほしいから勝手に行動してるのだから気にしないの分かった?」


「はい・・・ありがとうございます・・・兄さま・・・姉さま」


「よろしい、今日は僕もはる姉も授業には出ないから早いけど帰るかいそれとももう少しここに居る?」


「もう少し・・・ここに居たいです」


「分かった、じゃあ帰るのは放課後にしようかそれまではゆっくり休むといい、夜までもう眠れそうになかったら話でもすればいいし」


「そう・・・します」


ということで小1時間ほど亜姫とはる姉三人で話をして放課後になった


渉と美里先輩とも合流していつものメンツで帰り始めた


いろいろ話して楽になったとはいえやはりまだ亜姫は震えていた


「亜姫、はい」


僕は手を差し出す


「なん・・・ですか?」


「手をつないで帰れば少しは恐怖も薄くなると思うよ」


「いいん・・・ですか?」


「別にいいよ」


「じゃあ・・・」


そう言って亜姫は僕の手を握った


「こうして見ると作戦とか関係なしに普通のカップルに見えるわね」


「まぁ、確かにお似合いっすよね」


「ん・・・少し嫉妬」


「どう反応していいか困る発言は控えてくださいよ」


「私は・・・うれしい・・・です」


「いいじゃない亜姫ちゃんは嬉しそうだし」


「まぁいいですけど」


しかし、あるところを通り過ぎたあたりから妙な視線を感じる


皆もその視線に気づいているらしく普段どおりにふるまいながらも後ろを気にしている


「意識していると意外と気づくもんだな」


渉が小声でそう言った


「そうね気味の悪い視線をこれでもかってくらい感じるわ」


「ん・・・不愉快」


「今は耐えるしかないよ」


僕の言葉に皆がうなずく


「亜姫、大丈夫?」


「兄さまが・・・手を握ってくれてるから・・・平気です」


とは言うものの若干震えている


「やっぱり、ここでぶちのめしとくか和人?」


渉が亜姫の様子を見ながらそう言った


「それはまずいでしょ、今手を出したら警察に捕まるのは僕たちだよ」


「なんでだ、相手はこうしてついてきてるじゃないか」


「今付いてきてる人がストーカーだとしても決定的な証拠がないからね亜姫に写真を送りつけたらしいけどそれを撮った証拠もないし」


「和人君の言うとおりね今は様子を見るしかないわ」


その後も不快な視線は消えることはなくそのまま各自の家へ帰ってしまい僕たちも自分の家へと付いてしまった


そんな状態が数日続いていていたある日


いつものメンバーで帰っていた時、特に何か気にするわけでもなく近くの公園でジュースでも飲もうという話になり最近亜姫も落ち着いてきていたので皆了承して一息入れようと近くのベンチに座ったのだ


渉と美里先輩そしてはる姉が自動販売機までジュースを買いに行き僕と亜姫がベンチに座って待っていたのだ


「亜姫、大丈夫?」


僕は最近、このような質問を良くしている亜姫からすれば何度も聞かれて鬱陶しいかもしれないがやはりまだ問題が解決していないので心配なのだ


「はい・・・大丈夫です・・・兄さまがそばに居るので」


「ならいいけど、もう少しで皆戻ってくるからね」


「はい・・・ちょうど喉乾いてたので・・・嬉しいです」


「アハハ、そっか少しでも亜姫が元気なら僕たちもうれしいよ」


僕の言葉に若干亜姫の顔が赤くなった


その時、少し離れた所から渉がジュースを持って戻ってくるのが見えた


「お~い駄菓子屋にも寄ってきたからお菓子も食おうぜ」


「渉ってばいつの間に・・・」


僕は若干苦笑いしながら皆のほうを見る良く見てみると皆も袋を持っていたどうやら僕と亜姫が話している間に素早くお菓子を買ってきたらしい


「ホントいつの間に買ったって感じだよね」


「そう・・・ですね」


やや駆け足気味でこっちに向かっている皆の所に向かおうと立ちあがったとき


「「「!!!」」」


ふいに3人の表情が変わった


「和人!逃げろ!」


「え?」


渉の言葉に戸惑っていると頭に鈍い衝撃が走った


「ぐっ!」


僕は痛みに耐えられなくなりそのまま倒れた


「兄さま!」


頭の痛みをこらえながら痛みの走った方を見ると


一人の男がバットを持って立っていた


男は僕の頭にもう一度バットを振り下ろす動作を見せる


なんとかその一撃を避けて亜姫を抱えて距離を取る


そして、男と対峙する形を取った


男は中肉中背の体系で顔は目元が長い髪で覆われておりよくわからない


亜姫を後ろに居た美里先輩たちのところまで行かせ僕は数歩前に出る


「誰だ!あなたは!」


僕は、頭の痛みをこらえながら男に話しかける


「僕は、亜姫の結ばれる男だよ」


「あんたがストーカーの正体か」


「ストーカー?違うよ僕は亜姫を守るために君たちをつけていたんだ」


「ふざけるな!あんたのせいで亜姫がどれだけ怖い思いをしていると思ってるんだ!!」


僕は精一杯の怒りを込めて叫んだ


「怖い?亜姫が僕を怖がるわけないじゃないか僕と亜姫は結ばれる運命なんだからそうだろ亜姫」


男は詫びれもなくそう言いながら亜姫のほうを見る


ちらっと後ろを見る亜姫は恐怖で完全に足がすくんでいてそれをはる姉がかばうように抱きしめていた


「わ、私は・・・あなたなんて・・・し、知りません」


亜姫は震えながらも相手の言葉を否定する


「し、知らないだってこの僕を君と結ばれるこの僕を」


「し、知り・・・ません」


「そんなはずはない!亜姫が僕を知らないなんて嘘だ!」


男は驚愕の声をあげて叫ぶ、亜姫はビクッとなってはる姉にすがりつく


男はしばらく亜姫を睨んでいたが再び視線を僕に移した


「お、お前が亜姫を操っているんだな、そうに違いない!そうでもないかぎり亜姫が僕を忘れるなんてありえない!」


男は僕に殺意のこもった視線を向けて亜姫を再度見る


「待っててね亜姫すぐにこいつを殺して、洗脳をといてあげるから」


そう言いながら男は再びバットを力強く握り僕を睨む


まずい!


「美里先輩!早く警察を!渉は亜姫のそばに居てくれ頼む!」


「わかったわ!」


「ああ!」


美里先輩はすぐに携帯を取り出し連絡を入れる


渉も亜姫の一歩手前に立ちいつでも相手と戦える体勢を取る


男はバットを僕に向かって振り下ろす


ギリギリで僕はそれをかわす


正直言って、頭の痛みが強すぎてかわすので精一杯だった


しかし、このままではやばい


再び男がバットを振り上げた瞬間僕は男の懐に飛び込みバットを持っている手を思いっきりつかむ


これでしばらく時間を稼げるだろうと思っていたのだが、男は懐から素早く何かを取り出し僕の体に押し付けた


その瞬間、体に痺れが走り僕はその場に倒れ込む


「ス、スタンガンまで持っていたのか・・・」


男は僕の発言など気にもせずにバットを思いっきり振り下ろす


ゴキンと鈍い音が僕の左腕からした


「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」


僕は左腕を抑えてもがく


男はそれをチャンスと思ったのかそのままバットを振り続ける


「兄さま!いやぁぁぁ!」


「和ちゃん!」


「和人君!」


亜姫が悲鳴を上げる他のみんなも悲鳴をあげるような声で僕の名前を呼ぶ


僕はされるがままに男に殴られ続ける


「ぐぁっ!うぐ!」


僕の呻き声を聞いてそれに痺れを切らした渉が男に駆け寄り相手を思いっきり殴った


「うぐっ!」


男はとっさのことでよけられずに拳をまともに食らった


「和人!」


渉が僕の所に駆け寄る


「わ、たる」


「和人!しっかりしろ」


僕は何とか立ち上がる


頭にもいくつか良いのを貰ってしまい意識がもうろうとしている目の焦点も合わない


それでもなんとか言葉を発する


「わ、たる、この場から、亜姫たち連れて、に、逃げてくれ」


「何言ってんだそんなことできるわけないだろ!このままじゃお前が殺されるぞ!」


「た、頼む、よ、わ、たる・・・」


その時、相手の男が起き上がり再びバットを握り襲いかかってきた


僕は、もうろうとする意識の中、相手の懐にまた入り込んで拳を入れる


しかし、全然力の入っていない今のパンチでは男は怯みもしなかった


ニヤリと笑いながら男は僕にバットを振り下ろす


僕は、バックステップをするような形でそれを間一髪かわすが勢いに負けて尻もちをつく形こけてしまった


男はゆっくりこちらに歩み寄ってくる


「ふひひ、お前が死ねば亜姫は僕のもとに帰ってくるんだ」


なんとか体を動かそうとするがすでにボロボロで全然言うことを聞いてくれない


「くっそたれ!」


渉がもう一度男に駆け寄り止めようとするが渉もスタンガンを押しつけられてその場に突っ伏してしまう


「くそ!和人!逃げろーーー!」


男は僕の前に立ちこれで最後だと言わんばかりにバットを振り上げてそして振り下ろす


「兄さまーーーー!」


「和ちゃん!お願いだから動いて!」


「和人君しっかりして!」


亜姫たちが遠くから僕を呼ぶ、もう駄目だとあきらめて覚悟を決めた時


「そこの不審者!止まりなさい!」


警察の人が数人立っていた


そして、素早く男に駆け寄り数人で男を取り押さえる


「は、話せ!僕は亜姫と結ばれる男だ!離せーーー!」


男はその場で手錠をかけられなんとか行動は制限された


男の逮捕を確認した警察が倒れている僕と渉そして亜姫たちのもとにそれぞれ駆け寄った


「君たち大丈夫か!すぐに病院に運ぶからなもう安心していいぞ!」


人のよさそうな警察の人が僕のそばに来てそう言ってくれた


僕はその言葉に安堵し意識を手放した






「う、う~んここは?」


僕は、見知らぬ白い天井を眺めてぼそっと呟いた


周りを見渡すと僕はここが病院だということがすぐに分かった


あれからどれぐらい立ったのか外はすっかり暗くなっていた


すると、ドアを開く音が聞こえた


僕はそちらの方に目を向ける


そこには渉と美里先輩が立っていた


「和人!目が覚めたのか!」


「和人君!大丈夫!」


「は、はい、なんとか、あのはる姉と亜姫は?」


「二人は病棟の休憩所に居るよ目の前でお前が殺されかけて亜姫ちゃんがショックを受けて泣いてるから美晴先輩がそばで慰めてるんだ」


「そうなんだ・・・」


「でも目を覚まして良かったわ、お水でも飲む?」


「あ、はい、お願いします」


僕は、渉にそっと起こされ何とか起き上がれた


「じゃあ、俺二人を呼んでくるわ」


「うん」


「はい、和人君、水よ」


「ありがとうございます、美里先輩あの後ってどうなったんですか?」


「あのストーカーは警察に連行されたわその間もずっと亜姫ちゃんの名前を呼んでいたけど」


「そうですか」


「あの男は、この街に住む大学生らしいのあんまり周りからの評判も良くなかったみたいでね、亜姫ちゃんを何処かで偶然見たとき一目ぼれしてそのまま勘違いし続けてあの状態に至ったんじゃないかと警察は言ってるわ」


「でも何とか捕まってよかったです」


「良くないわ」


「え?」


美里先輩の発言にぽかんとなる


「和人君!あのまま警察が来なかったらあなた死ぬところだったのよ!しかも皆本君から話を聞く限りあなた自分だけ残って皆を逃がそうとしたらしいじゃない!」


「でも、あのままじゃ皆が危なかったし」


「ええそうね危なかったかもしれない!でもねだからと言って和人君を置いて逃げれるわけないでしょ!自分だけ犠牲になろうなんて考えはやめなさい!そんな事をされたら私たちは死んだ方がましだわ!」


美里先輩が普段見せないような怒りの表情を見せる


「自分の命を大切にしなさい!今度同じようなことを言ったら許さないわよ!」


涙目になりながら美里先輩が僕に説教をする


「は、はい、すいません・・・」


僕は返す言葉もなくただただ美里先輩の言葉を聞いている


一通り言いたいことを言い終わったのか美里先輩は今度はさっきとはうって変わって優しい表情になった


「ホントに無事でよかったわ、数時間も眠りっぱなしで皆不安だったのよ」


「すいません心配かけて」


「謝るのなら最初っからあんな無茶はしないこといいわね?」


「はい、もう一人でなんとかしようとは考えません」


「ならばよし!それともう一つ問題があるのよねぇ~」


「何かあったんですか?」


「え~っと、あの後、以外と事件が大きくなってねテレビ局の人とかが病院の前に群がってるのよ」


「マ、マジですか」


「マジよ、その証拠にほら」


美里先輩がテレビをつけるとそこには今現在入院している病院が移っており、そこにたくさんのマスコミが押し寄せていた


「しかも私たち独断で動いたから学校側にも苦情の電話が鳴りっぱなしらしいのよ、学校側はこの問題に気付いていなかったのかってね」


僕は、目の前のテレビを見て唖然としていた


まさか、こんな騒ぎになるとわ思わなかった


これからどうしようか悩んでいると再びドアを開く音がした


渉がはる姉と亜姫を連れて戻ってきたのだ


「に、兄さま・・・兄さまーーーー!」


亜姫が泣きながら僕に抱きついてきた


僕は、抱きついて泣いている亜姫の頭をなでてやる


「し、心配・・・しました・・・し、死んじゃうかと・・・思いました」


「ごめんね心配かけてもう大丈夫だから」


「ホント・・・ですか?」


「うん」


「良かった・・・です・・・ホントに・・・良かった」


亜姫は僕から離れ涙をぬぐっている


「和ちゃん・・・良かった」


「はる姉もごめんね心配かけて」


「ん・・・もうあんな無茶・・・したらだめ」


「分かってる、さっき美里先輩に説教されたしね」


「美里に?・・・」


「うん、自分の命を粗末にするなってね」


「そう・・・」


はる姉が美里先輩のほうを見る


「ごめんね美晴でも我慢できなくてね」


「ん・・・気にしなくていい」


二人の光景に微笑んでいると渉がヘッドロックをおみまいしてきた


「ちょっとわ、渉!」


「たくよ~心配掛けやがって!この野郎」


「い、痛いって!」


「うるせぇ!心配かけた罰だ!」


そう言って渉がさらに力を強めてくる


亜姫たちも笑いながらそれを見ている


その後、看護婦とお医者さんが来て軽い診察をした


話を聞くと骨も複雑に折れてはいないそうで1か月もすれば元に戻るし、頭の方も特に問題はないらしい


とはいえかなり身体中を殴られたため検査のために一週間ほどの入院をすることになった


着替えなどは後ではる姉と亜姫が持ってきてくれると言ってくれた


そのあとはしばらく皆としゃべっていたが皆もさすがに帰らないとまずいので今日はもう解散となった


その日は僕も問題が解決し安心して眠りに着くことができた


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