第53話
第53話
8月27日、亜姫の誕生日から数日後、僕たちは特にすることもなくだらだらと過ごしていた
最近は、いろんなイベントがあったからこうやってダラダラするのは久しぶりな気がする
亜姫とはる姉は、紅茶を飲みながら本を読んでいる、しかし僕は二人を見る
紅茶を飲みながら本を読んでいる二人は、まるでどこかのお嬢様なんじゃないかと思うくらい絵になっている
しばらく、ボ~っと眺めているとその視線に気づいた二人が僕に視線を移す
「どうかしたの・・・和ちゃん?」
「あ、いや、二人の姿があまりに絵になっていたからつい見とれちゃって」
「兄さま・・・ずるいです・・・急に///」
「僕何か悪いこと言ったかな?」
「そういう・・・わけじゃないけど・・・こういう時に・・・いきなり言うから・・・恥ずかしくなる」
それを、聞いた僕はハッとなった
「ご、ごめんね、いきなりこんなこと言って」
僕は、少し赤くなりながらそう答える
「気にしないで・・・恥ずかしかったけど・・・うれしかった・・・から」
「私も・・・うれしかったです」
そういって二人はまだ少し頬を赤くしながらも読書に戻った
「和く~ん、兄妹で仲良くするのもいいけど、親子でも仲良くしたほうがいいと思うな~」
そう言いながら、母さんが後ろから抱きついてきた
「そうだね、でも、とりあえず離れてくれない」
「え~じゃあ一緒にゲームやろ!」
「いいよ」
「ホント!じゃあすぐに準備するね!」
母さんは、すぐに僕から離れてゲームの準備を始めた
すぐに準備が終わり、僕は母さんと一緒にソファーに座りコントローラーを握る
母さんがやろうと言ってきたゲームは、前にお泊りの時に皆とやった格闘ゲームだ
僕と母さんは、すぐにキャラクターを選び対戦を始める
「和くんは、このゲームやったことあるの?」
「うん、お泊りやってたときに皆でやったよ、あのときは優勝した人と二人で出掛けるっていう約束したりして条件付けてたけど」
それを聞いた瞬間、母さんの目が輝いた気がした、そして僕はまずいと思った
「ふっふっふ、それを聞かされたら私も何かお願いを聞いてほしくなってきたよ!」
「NO!!」
「なんで!なんで英語で却下したの!」
「いや、なんとなくだけど」
「ひど!私のお願いも聞いてくれてもいいじゃない!」
「だって、嫌な予感しかしないし」
「そんなことないよ!」
「じゃあ、一応聞くよ」
「そんなにひどいお願いしないよ!二人で親子仲良くお出かけしたいと思っただけだよ!」
「あれ、以外とまともな気がする」
僕がそう言うと母さんはふふんと胸を張った
「そうでしょうそうでしょう、というわけで和くん!私がゲームで勝ったら一緒に出掛けてもらうよ!」
母さんは、そう言って今までやっていた対戦を一回やめて、キャラクター選択の画面に戻った
「さぁ、キャラを選びなおして再戦だよ!」
「分かったよ・・・仕方ないなぁ」
僕は、母さんに言われてキャラを選びなおした
そして再び対戦を始める、しかし、さっきまでと違うのは母さんの圧倒的なコントローラー捌き
さっきまで普通のプレイだったのに今の母さんのプレイは、そこらへんのゲーム大会なら簡単に優勝してしまいそうなほどすごい勢いでキャラを動かしていた
それをガードする暇もなく僕はぼこぼこにされて負けた
結果、僕は母さんと出掛けることになってしまった
「ふふ~ん♪」
母さんは上機嫌で僕の少し前をスキップで進んでいる
「和くん、まずはどこにいく?」
「う~ん、母さんはどっか行きたいところないの?」
「そうねぇ~、それじゃあ本屋にいきましょ、漫画の続きが気になるから!」
「はいはい」
僕は、苦笑いしながらそう答える
そして、僕と母さんは本屋へと向かう
数十分後、本屋へと到着した僕たちは、漫画コーナーへと向かう
母さんがワクワクしながら欲しかった漫画のところを見て絶望した・・・
「そ、そんな、よりにもよって続きから買われているなんて・・・」
母さんの欲しかった本は、ちょうど今持っている巻の次からがないのだ
「か、母さん、そんなに落ち込まなくても、ほら他にも面白そうな漫画はいっぱいあるよ!」
僕は、そう言って母さんを励ます
「か、和くん」
母さんは、僕の方を見る
「これなんか面白いんじゃないかな、前に渉にすすめられた奴なんだけど」
そう言って母さんにその漫画を見せてみる
母さんは、僕から漫画を受け取り、裏に書いてあるあらすじを読んでみる
「なんかおもしろそう」
そう言って母さんは、いくつかその本を取ってレジへと向かった
良かった、母さんが元気になって
さっきまで、愕然としていた母さんの機嫌はいつも通りの上機嫌に戻った
本屋を出て、僕たちはいろいろ見て回りながら駅前のほうへと向かった
駅前に到着し、僕たちは次はどこに行くかと話していた
「和くん、行きたい場所ないの?」
「特にはないかな、ほしいものもこれといって無いし」
「そう、じゃあ少しその辺の喫茶店にでも入って休憩しましょうか」
「そうだね」
僕たちは、近くにあった喫茶店に入りケーキとコーヒーを注文した、母さんも同じようなものを頼んでいた
しばらく、ワイワイと話しながら食べていたのだけど、ふと母さんに元気がないのに気づく
「どうかした母さん?元気なさそうだけど」
僕がそう言うと母さんは今までとは違う真面目な表情で話を切り出した
「ねぇ和くん、私って頼りないかな・・・」
「え・・・」
母さんの口元は笑っているが声が真面目なので僕はビックリしていた
「ほら、和くんと今日出掛けたけど私ばっかり楽しんでいる感じがするし、和くん楽しくないのかなって」
「そんなことないよ、確かにいきなりだったけど久しぶりに母さんと出掛けるわけだし、僕も楽しいよ!」
僕は、母さんにそう言った
「じゃあもっと私に甘えてほしいな、私は和くんたちのお母さんなんだよ、今日だって私の行きたいところばっかり行って和くんは行きたい場所ないっていうけど、あれって結構寂しいんだよ・・・和くん、私にまで遠慮しないでよ私だって母親なんだから少しは子供に親らしいことさせてよ」
「母さん・・・」
母さんの顔は、今にも泣きそうなくらい辛い顔をしている
「私は、母親として今まで和くんたちに何もしてあげられなかった、仕事で忙しいから仕方がないなんてそんなの言い訳にもならない親ならちゃんと両立して行かないといけないのに、だから今年は少しでも親らしいことしてあげたいと思って夏休みに帰ってきたんだ、家族でいろいろ出掛けたりして思い出いっぱい作れたらなぁって、でも和くんたちは友達と一緒にたくさんの思い出を作ってた。和くんが嬉しそうな顔をしてるのは嬉しかったけど、私は結局何もできなかったんだなってまた思わされちゃったんだ」
もう母さんからは完全に涙がこぼれていた
「私は・・・和くんの友達が当たり前のようにやってることを・・・全然できてなかったことに・・・気付かされて・・・それでそれで」
母さんは、もう言葉をひねり出すのもつらそうな感じだ
僕は今、どんな顔をしているのだろうか母さんと同じで悲しい顔をしているのかそれとも別に気にする必要なんてないよとほほえましい顔をしているのかそれさえわからないほど僕は今困惑していた
いつも、元気で明るい顔をしている母さんのこんな顔を見るのは始めてだったのだ
「僕も・・・寂しかったよ」
「和・・・く、ん」
「子供のころから母さんたちは仕事に出掛けていなかったし学校行事の時もほとんど来てもらえなかった、亜姫とはる姉がいたから少しは寂しくなかったけどそれでもやっぱり寂しかった」
母さんはそれを聞いて顔を下に向ける
「でも・・・」
僕は、言葉を続ける
「でも、僕たちは母さんに感謝してるよ、そんなに僕たちの事を思ってくれてる母さんに感謝してる。それに今年は帰ってきてくれたし最初に会った時はびっくりしたけどすごくうれしかったよ、友達ともすぐ仲良く接してくれたしね」
「和くん・・・」
「母さんが気にすることなんて一つもないよ、家族ならなおさらね」
「で、でも」
「母さんは、いつまで家に入れるの?」
「え、えっと、あと数日かな夏休みが終わったら私も仕事に戻るつもりだよ、だから和くんにこの話をしておきたくて」
「じゃあ今日は母さんに僕の話を聞いてほしいな」
「え?」
「僕が今まで体験した思い出を母さんにも聞いてほしいよずっと話したかったんだ、これは母さんにしか頼めないことなんだから」
「うん・・・うん」
母さんは泣きながら返事をする
「だからさ、今日はもう家に帰ろう帰って僕の話を聞いてほしいから」
「うん・・・」
こうして僕と母さんはレジで会計を済ませて家に帰宅することにした
僕は、帰るときにもう一つお願いをした、それは手をつないで家に帰ってほしいというお願いだ
高校生なのに何言ってるんだと思うかもしれないけど、これは僕の子供のころからの夢なのだ
いつもはる姉や亜姫とは手をつないで帰ったけど母さんとは手をつないで帰ったことがないから、まさか今になってかなうとは思って無かったけど、まぁそれを聞いて母さんが笑顔でうんと言ってくれたからよしとしよう
その後、僕と母さんは家に帰りながらも今まで僕が体験してきた出来事を話した、良い思い出からあんまり良いとは言えないものまでたくさんの事を話した
家に帰った後も、ご飯やお風呂を済ませた後でたくさん話した、母さんは話の一つ一つを興味深く聞いてくれて話している僕もすごく楽しかった
そして、そろそろ寝ようと思った時、母さんが元気よく「私と一緒に寝よう!」というのでこの状態の母さんを自分の部屋へと戻すのは無理だと即座にあきらめた僕は、母さんの提案を了承して
今日は、二人で寝ることにした
意識がぼんやりしてきたころに耳元で「ありがとう」と聞こえた声に安心しながら僕は眠りに着いた