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天の邪鬼と猫かぶり  作者: 陸一じゅん
二章:兄の王子様抹殺計画
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匂い立つもの




 山崎梓は覚えている。

 じわじわと暗くなる視界。それは夜が近づいていたためか、それとも他の何かだったのか。

 夜の匂いが近づいてくる。昼間、慣れ親しんだあの空気はきっと、陽の匂いが漂っていたのだ。

 陽の匂いが消えると、こんなふうになるのか。そう思った。

 音はひたすらにうるさかった。

 何も考えることは出来ず、ただ、この匂いは嫌いではないと思った。

 ただの子供だった梓にとって、『夜』はとても魅力的な時間だったのだ。





 梓が運び込まれたと思われる病院は一つしかない。だから藍はまっすぐにそこに向かった。

 大学の付属病院と看板を掲げたそこは、敷地も大きく入院患者がメインだが、近所に救急医療病院もある。

 病院は信用第一。この界隈で『病院』といえばまずそこだ。

 しかし入ってすぐ、藍は思わず立ち止った。

「・・・どうしよう」

『なぁにが?』

 梓は呑気に欠伸をしながら、藍の顔を覗きこむ。

「この場合って・・・どう言ったら」

『・・・あー・・・』

 入院患者ならば『○○さんの病室はどこですか』となるだろう。しかしこちらは『死人』。

 まさか『○○さんの遺体はどこですか』と、言うわけにもいかない。

「あとこれ、どこに聞けば・・・・」

『あらー・・・・・』



 大きな病院と言うものは、総じてゴチャゴチャしているものだ。受付らしきものは、今居る正面ホールからパッと見ても三つ。

 それは、紹介患者窓口と、保険証提示の受付と、支払いの受付なのだが、病院にあまり縁のない、健康良男児の藍にはその差がよくわからなかった。

 さらに良く見れば、図書館にあるような、病院配布のカードを提示して予約等を確認できるコンピューターなんかも入り口脇に並んでいる。

 この短い人生に何度かは来ているはずなのに。未知の空間に藍はうろたえた。こんな時に限って、病院職員は歩いていない。



『・・・・その辺の人に訊いたら?』

「そっ、でもっ、病院に来てる人って言うと、どの人も具合が悪いんじゃ・・・・」

『そう?意外に元気そうな人もいるよ?ほらあのお爺さんとか、お年寄りはいけそう。あと付き添いで来てる人とかさぁ』

「・・・・わかりました。ちょっと訊いてきます」

 藍は緊張の面持ちで歩いていく。



『がんばれ藍ちゃんフレーッフレーッあ・い・ちゃ・ん』梓は手を振って見送った。

 やはり、ああいう反応になるのも、自分の外見を自覚しているからなのだろう。



 突然現れた外国人にしか見えない少年に、声をかけた優しげな婦人は遠目から見ても驚いていたが、しばらくすると難なく藍は、丁寧にお辞儀をしてから帰ってきた。

 藍は人見知りだと思っていたが、さすが寺の息子。老人相手だと幾分気が楽だったのかもしれない。

『どうだった?』

「どこに訊けばいいかはわかりました」


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