:人魚姫
この苛立ちを、どう処理したものか。
彼女の中で、二つ三つと姿が現れ消えていく。
カーテンの隙間から三日月が見えた。昼間は明るい水色のカーテンも、宵の中では深い藍色を被せて揺れていた。今夜は風が少し強い。
苛立つことばかりだ。腹立たしい、腹立たしい――――自分を邪魔するもの、道をふさぐもの、惑わすもの。
なんで、どうして、どうして、どうして。
叶わない恋だったことは、わかっている。でも今の私の動力源は、まさしくそれなのだ。邪魔するものを排除しない限り、動けやしない。
あの丸い、真珠の様な両眼を思い出す。美しい人だった。海の底の大粒の真珠である。手のひらにツンと立つそれは、確かに大切に守りたくなるような姿だ。
わかっている。―――分かっている。
決して、わたしは同じ土俵上に居るわけではない。劣っているのは自分の方だ。
競うとすれば、彼のように、または彼女のように、特別な眼でも無いと駄目なのだろう。特別な力でも無いと駄目なのだろう。あの兄妹のように、秀でた何かが無いと。私は舞台の下から、野次を飛ばすことしか出来ない。
最近、一人クラスメイトが事故に遭った。
恐ろしいことに、その日、恐らく私が彼女に最後にコンタクトを取ったのだ。
――――といったって、睨みつけただけだけど。
視線は合った。そのあと彼女は、なんでもないように先に眼をそらし、・・・・・その帰り道、歩道橋から落ちた。
(そんな、まさか)
その翌日に、先生から彼女に悩みはあったかと聞かれた。教師は自殺を疑っているらしい。
そう話す方ではない。実を言うとあの日、初めて視線を合わせて会話した。しかしあの時の自分の意見を主張する彼女の眼は、あまりにも強かったのだ。自殺なんてするだろうか?
(まさか)
もしかしたら、なんて考えてしまう自分は末期なのかもしれない。冬は近いが、まだ温かい秋の夜だった。窓を開け放してもいいくらいには。
だというのに。
【魔法使いのはなし】
魔法使いは言いました。
おんなじになりたいのです。
違うから省かれるのです。ならばおんなじになりましょう。
そう言って魔法使いはみんなにお化粧をほどこしました。
まるで、魔法のようだとみんなは喜びます。
踊るみんなに魔法使いは手をたたき、祝福します。
さて、そして輪になるみんなの中、うまく踊れなくてしょんぼりする一人を指しました。
「次はあなたが魔法使い」
と。
【trope】
言葉の比喩的用法。言葉のあや。
【pageant】
パジェントとは「ページを開く」と言う意味の言葉から来ており、歴史的な出来事の場面を本のページをめくるように次々と表現し、自由に創造するという意である。
・(歴史的な場面を舞台で見せる)野外劇、ページェント。特にクリスマス聖誕劇のこと。
・(時代衣装などをつけた壮麗な)行列、山車、華やかな見もの
・(壮麗な行列を思わせる)目を見張るような連続
・壮観,壮麗,盛儀
・ラテン語「舞台」
・(意味のない)虚飾、見せびらかし