えん。
円:
最近、顔が大きくなったような気がする。
気のせいだろうか。鏡の前で、わたしは顎に手のひらを押し当てつつじっくりと自分を見つめた。
やっぱり。
アア嫌だ。何故だろう?太った?
嫌な気がしながら乗った体重計は、二週間前と変わらなかった。運動不足?
なんだろうなんだろう。
わたしはそう可愛い方でもないし、親からもらったこのお顔様はかわるはずも無いのだが、それでも一応お年頃。顔は小さい方がいいし、眼は大きくなりたいし、胸はそこそこ、眉毛がもっさりしてるのも嫌。
やだな。
わたしは憂鬱な気分で、顔サイドの髪を下ろし、前髪を上げた。女子の裏ワザだ。
むくみは水分不足だっけ?やだなぁ。
女の子はある程度までなら、可愛くなれると思う。これに年齢はそう関係無い。
必要なのは、一に環境と、二に根性、三に努力で、四に妬み。
一、環境。これは極端に言えばお国柄。(ああ、そうだ、わたしはこれを世界単位で言っている。恐らくこれはどこでも等しい見解だとわたしは思っている)
つまり、その場に最も好まれる姿。これを知る。学生ならば協調性。社会人ならば清潔感。モデルさんなら格段上の美しさ。お母さんならば、華やかさよりも愛らしさ。
さらにこれには二つ目の意味もあるのだ。道具、もしくはそれを揃えることの出来るお金と店があること。これもまた『環境』である。
二、根性と三、努力。
どこの熱血青春マンガの標語?いやいや、女の子の美については、男の子のプライドと同じだ。生活に受け入れてしまえば譲れるものでなく、さらには友情にまで影響する。ひいては人生に多大な影響を及ぼす。
自信の外見を自覚し、美を意識するのは(早ければ早い方がいいというわけではないが)ちゃんと知らねば恥をかく時というものがる。女は二十五過ぎれば、スッピンで外を出歩けないのだ。
人間は視界に頼る生き物なのだから、それは礼儀としてちゃんとしなければならない。入口が汚い店には客は来ないのだ。外見と言うのは、コミュニュケーションの玄関窓口である。
しかしそれを維持するのは大変なことだし、はっきり言って無理だ。
そこで大事なのが、諦めない根性、積み上げた努力、というわけである。
さて、そしてその四。
妬み。
なんて嫌な字面だろう。女に石と書き、妬むと書く。女は身に石を持ち、妬む。
やだねぇやだねぇ。本当嫌だ。この顔のむくみと同じくらい。
しかし女は、これを動力源にして美しくなる。
子供は愛と希望がお友達。大人は酒と肴がお友達。男はプライドがお友達。ならば女は、妬みとお友達。
友達は友達でも悪友で喧嘩友達だ。ヤなやつなんだが、共にいる。自分と言うコロニーの中に、必ず背を向け、端っこに居る。さらにいえば眼が合うと物凄く嫌な顔をしてくる。
「こっちみんな」と、睨んでくる。それはなぜか?自分が嫌な奴だって、自覚してるから。自分が居ない方がいいことが分かっている。嫌われてるのが分かってる。だから眼が合うと無言で睨み、けん制しつつ、誰も居ない端に寄る。
可愛い奴ではないか。わたしは結構好きだ。妬みと言う感情は一匹狼なツンデレだ。ツンツンツンツン。たまに寂しくなって寄ってくる。これがデレ。
そう、妬みは寂しさと直結している。
羨み、自分に失望し、生まれる感情だ。「自分はああいうふうになれない。なりたい。うらやましい。でも無理だ。」そして「妬ましい」となる。
心が石になる。体も固く石になる。重くて硬くて固くてごろりと転がる。妬ましい。しかし女は強いもので、その柔らかで筋肉なんてまるで付かない体に、ダイヤモンドより固い部分を持っている。
女性はそれを拳に握り、妬みの石を打ち砕くのである。ちなみにこの拳、対男性に向けられる場合もあるので、くれぐれも女性の取り扱いは注意してほしい。
岩をも砕く石、ならぬ意思である。
女は妬みを乗り越え、負けるもんかと、美しくなる。ついでにその経験は拳に蓄積され、攻撃力も増すので男性はより注意が必要である。再三言おう。注意しろ。場合によっては命にかかわる。よく色男へ女に後ろから刺されるぞ注意しろ、と比喩する。妬みは大きく、固くなりすぎると、刃物のように尖るのだ。女はそういう強さももっている。
現代社会、美しくなる手段は本当に色々ある。特に日本はそれが豊富だ。目移りするほど豊富だ。いざとなれば美容整形と言う最終手段、リーサルウエポンもある。
この妬みから解放されるために、女は環境を整え、努力を重ね、根性で這いあがってくるのだから、恐らくこの感情は最も重要な機関である。
女は石と言う名の固くて硬い、意思を持つ。
さて、しかし残念ながら、わたしはその妬みとは近ずとも遠からず、結構友好関係を築けていると思う。
それと言うのも、わたしは基本的に、妬みと言う感情は眺める側だからである。
わたしは人を妬まない。付かず離れず、遠くで見ている側の女の子だ。
リアルで妬みとう感情は醜く見えれたものではなく、しかしわたしはその見た目よりも、性格と言う名の法則が好きなので、自分は妬みの感情を持たず、他の誰かさんの妬みを観察する。
趣味と言うには悪趣味すぎて大声では言えないし、言うつもりも毛頭無い。履歴書にも書けないなんちゃって趣味だ。
見ていて楽しいものではない。けっしてウキウキドキドキ胸躍りはしない。ただそこに居るのを確認する、その行為が大切である。
安心する。世界はあまりにも色褪せて見える。物語の世界のように、溢れる色はそこには無いのだ。
世界は真っ白。どこを見ても変わらず同じである。妬みと言う感情は黒なのだ。伸びる黒い描線は、白いそこに初めて絵を、文字を描く。
もしそこに他の色が生まれたとしても、黒はどうやったって邪魔にはならない。どんな色に合わせても黒は美しいと思う。だからわたしは、その色を持つその感情が好きだ。
女が持つそれは、いつだって泣いている。
口惜しい、くやしい。
さびしい、寂しい。
なんでわたしは寂しいの。
寂しいのが、口惜しい。
そしてわたしは思うのだ。
(愛い奴め)
艶:
美人と噂の西藤ちゃん。
女の子のくせに、中学まで野球してたとか。男子二十人のチームメイトに女子一人。だからか、普段大人しいイメージだけれど、ここぞという時は男子より男前に動く。意外に行動派。
ショートカットだけど、ちょっと全体的に長めなので、普通に女の子。かわいい。くせに、表情は少ないんだから。
たまに勘違いした男子とか寄ってくるんだよね。無口で無表情。ミステリアス。おとなしそう。
そんなことないよ。あの子、淡々と行動派だから。やるときゃやる子なのよ。凄いでしょ。アンタよりイイ男できるよ。
可愛いより綺麗。男顔ではないけど、中性的。基本的に女子に優しい。無駄に紳士。
・・・・なんか王子様っぽい。
ねぇアンタ知ってる?この人凄いのよ。綺麗なだけじゃないんだから。
顔のむくみはまだとれない。
というか、なんだろう。どんどん大きくなっているような・・・・。
やだなぁやだなぁ。ホントやだぁ。
そりゃさ。忙しいさ。これでも。
そんなもん?って笑われるかもしれんけども、わたしからしてみりゃ、精一杯よ。
なんとか髪型で誤魔化してるけど。うーん・・・・これわたし可笑しいんじゃないの?
だって、三日でこんななる?っていうか、これむくんでるっていうより、顔自体が大きくなってない?
やだわ。本当やだ。
やだなぁ・・・・・。
ああ、顔のむくみ(?)はまだ続いてる。晴れてこのよくわからないものには(?)が付いた。
演:
ミヅキはいいやつ。かわいいやつだ。
一番、あいつ、妬みと言う奴に近い。つまるところツンデレ。可愛い。
短気だけど、姉御肌。かっこいいのもある。見た目は日本人形みたいなのにさ、口を開くと姉さん。
三人の中で一番小さいくせにね。
「なっちゃん、最近どうしたの?」
ミヅキが言う。
「おかしいよ、アンタ」
え?
・・・・何が?
えん(?):
【むくみ】
浮腫み。
顔や手足などの末端が体内の水分により痛みを伴わない形で腫れること。
漢字だと浮腫みか。・・・・・生々しいな。
辞書で引くんじゃなかった。なんかこわい。やだこれ。
いやでもしかし、むくみじゃ、ないように見えるんだけどなぁ・・・・うーん。まぁわたしも成長期、顔くらい大きくなる、か?
怨:
その子はちょっとだけわたしに似ている気がする。
いいんちょと勝手に読んでいる人。わたしは彼女を心からの親愛をこめて、あだ名で呼んでいる。ここで大切なのは、あだ名の意味では無くあだ名で呼ぶこと自体である。
彼女もたぶん、世界が真っ白の人だ。ついでに黒が好きな人。
出来ればもっと親しくなりたい方なのだけれど、どうにもうまくいかない。ミヅキはそれを、「彼女は興味が無いから」だと言う。
なるほど。ならば仕方がない。
彼女はわたしに興味が無い。彼女にはまたわたしも、真っ白の世界の住人に見えるのだろうから。
俺:
愛憎の無い愛は、愛ではないという。
妬みを持たねば嫉妬しない恋は愛にはなれんという。
ただの憧れ止まりである。と。
さて、ならばわたしのこれは、なんでしょう。わかりません。
だからでしょうか。
そして彼は、いつのまにか旅立ったのです。
遠:
燕:
ある日、魔法使いはやってきた
かの人は知っていたのでしょう
全て知っていたのでしょう
魔法使いはうなずいて、ひとつ、魔法をかけました
魔法使いは少女に言いました
「つぎはあなたがまほうつかいよ」
縁:
わたしにとって、貴方はクラーク博士でドジソン教授でした。
さびしい。
くやしくはない。
ただわたしは、さびしかった。
妬みが留守の女は駄目ですかね?どうでしょうか。
だれか・・・・いいえ、貴方がいいです。
先生、教えてくれませんか。
わたしは貴方の生徒です。
延
沿
援塩
淵
垣
炎
湾
鉛焔
厭
羨
綰
涎
冤
えん
得ん
獲ん
必要なのは、一に環境と、二に根性、三に努力で、四に妬み。
この四つを忘れなければ、女の子はある程度までなら可愛くなれると思う。何せ方法は色々あるのだから。女にはとっておきの裏技があるのだ。
さて、ちょっとした勘違いをしてみたい。今のわたしは魔法が使える(かも)しれない。ならば使おう。使うしかない。
これは妬みだろうか?妬みだろう。
こんな醜く愛しいものがわたしの中にある。素晴らしい。わたしは幸せである。
いやだがしかし、ツンデレな妬みと言う人物は、いざ自分の出番となると、うれし泣きか悔し泣きか涙が止まらないらしく、たいそうに苦しんでいる。ので、なるべく早くこの感情は拳で砕いてしまいたい。そうすればまた、彼は元の一匹狼なツンデレに戻るのでしょうから。
四つの条件を晴れて揃えたこのわたしは、五つ目に魔法を携えて奇跡を起こしに行こうと思う。
さて、最後に彼女を真似て雑学を披露しよう。
顔の大きい人は寂しがりなんだそうだ。なるほど、納得。