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天の邪鬼と猫かぶり  作者: 陸一じゅん
五章:夢を売るのが仕事です。
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『君が魔法使いだった時』

「凛がどこに居るのか教えて!」

 爛は叩き付けるように言った。魔法使いは無邪気にニッと笑い、「オッケー」指でマルまで作って見せる。

 藍はその表情に女々しく眉を下げた。『今の魔法使いは君さ』その言葉に間違いは無いのだろう。

 だって今した顔は、まさしく“山崎梓”だった。

(・・・・ああ)

 仮説は当たっていた。そして彼の言う通りなのなら、彼はきっとそうして何度も何度も繰り返し見てきたのだろう。今回の様なことも、またあったのかもしれない。

 藍の仮説は、梓がこうなったのは“魔法使い”によるものではないのか?というものだった。魔法使いの存在が出たときから考えていたことだ。

 彼の言う通りなら、彼はきっと病気の様なものなのだろう。それもはしかの様なウイルスだ。一度罹れば、もうかからない。そして、そのウイルスに意志なんて存在しない。

 何故だかはわからない。藍はそもそも、自分が一番分からない人間なのだ。梓のように、自分をこうして客観的に見られれば、また違ったのだろうけれど。

 何故だろう、同じことを言っている気がするのである。

 ただ小さく一言、『寂しい』、と。

「山崎さん」

『ん?』

 振り向いた彼女は、いやに優しい顔をしていた。心が読めるというのなら、きっと分かっているはずである。

『ボクはそう柔くはないよ』

「・・・・・わかってますよ」

(やはり彼女に会ってから、自分は彼女のことばかり考えてしまっている。彼女は自分よりずっと強いはずなのだ。)


 彼の気持ちを代筆しているのは、語り部たるボクであるが、ボクはこの時、彼の想いを汲み取れずにいたに違いない。

 ボクにあるのは、ファンタジーと、やたら厚い猫型の面の皮、そして持ち前の好奇心と彼への濁った愛である。しかしこの汚水のように濁った愛という名の好奇心は、他でもない彼自身によって濾過(ろか)されていくのである。

 ああ、なんの偶然か。そういえば彼の名前は『アイ』であった。愛情深いフランス人の母が、それを思ってこの名をつけたのだとしたら――――彼以上に、この名で体を表すことは不可能ではないだろうか。

 彼は出会って三分の人間に感情移入し、真剣にその人の行く先を考えられる人間だった。それが人間か否かはもはや関係ない。

 意志疎通ができ、感情が合って、立派に思考と現状判断、選り好みが出来る物体ⅹは、体があろうと無かろうと根性の曲がった病原体であろうと美少年の皮を被った人魚でも化け物だろうが、つまり同じになるのである。

 しかし彼自身がそんなに綺麗なのかと言うとそうでもなく、心の底では(このボクが!)耳を塞ぎたくなるような暴言と、理不尽な叫びに満ちている。彼は良い子だから、それを表面には絶対に出さないだけなのだ。

 確かに彼をこんなふうにしたのは、親か兄弟か親戚か学校か友人かだろう。それを彼は分かっていて、けれど誰にも責任は問えないことも分かっている。そして、最終的にその“責任”は誰でもない自分の上に降り積もってくるだろうことも、わかっている。

 この分かってしまっている人間が、どうして『子供らしく』出来ようか。彼に無邪気に何も考えず遊び呆ける、そんなことは出来ない。考えてしまう。そんな人だった。なんて優しい天邪鬼。

 〟分かつてしまう“から、彼はこんなにも優しいのだ。そして同時に、あまりにも残酷なのである。

 ボクはアイとは対極に位置しているのかもしれない。逆に人魚の彼とは、共通点が多すぎた。あの病院で感じたのは、そういうことだったのかもしれない。

 童話が好きで、妹が大事で、茶目っ気が合って、そして特大の猫被りの男の子。

 その時、少しイケナイことが頭に浮かんでしまったのは、最早ボクだからどうしようもないことだ。

 ・・・・ふと、魔法使いと視線が合った。そっと指を立て、口元に立てる。

 ――――ああ、彼女はボクなのか。

 人ならざる友人は、なんと心強いものである。



(「ていうかさ、この体大分ボロ雑巾だからね。さっきちょっと動かしたら、なんか変な音したし、君がこの体に返ってきた時ちょっと痛いかもしれないけど、ま、頑張ってよね。ぶっちゃけ、今こうやって座ってるのも大分キツイし、リハビリとか時間かかると思うよ」

「自分の言動に、自重というのを覚えてください」

 それはいつも梓に思っていることだった。)




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