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天の邪鬼と猫かぶり  作者: 陸一じゅん
五章:夢を売るのが仕事です。
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『約束しよう』


『次に会うときは、君が魔法使いだった場合と、君の体が目が覚めた時に、俺が会いに行く場合。約束しよう。君の体が目覚めたら、俺は必ず君に会いに行く。違った場合の時は謝罪させてほしい』

『さて――――俺は化け物を倒したら貴方にわかる方法で伝えましょう。化け物を倒すのは最優先事項なので、魔法使いは絶対にその後になります。もし、貴方が魔法使いなら、貴方はどうなるかわかりますか?』



 眼を開けて一瞬、ここが何処だかわからなかった。

(・・・・ああ、そうだった)

 住めば都を体現した部屋だった。あの男の小さな城である。

 馴染まない場所で明かした夜は、体を痛めつけるばかりでちっとも休めなかった。細く、長く、息を吐き、凛は天井の木目を見つめる。

(・・・・あいつ、本当に馬鹿なんだなァ)

 高台の寺。あの場所を選んだのは、他でもないあの坂城とかいう少年が居たからである。あそこで押した腕は掴まれて、可笑しいことに仲良く二人で転げ落ちたのだ。

 そして気が着けばこの部屋にいて。

 脳震盪を起こして気絶していた自分を、青島はご丁寧に自分の領域に運び、治療してくださったらしい。(馬鹿だな)

 かつての教え子とその教師。当然の行動である。しかし、傷害未遂とその被害者なら?おかしいだろう。

 彼ももう分かったはずだ。自分がなんで、この街に来たか。何をしたかったか。あの時一歩でも踏み間違えていればどうなっていたか。

 ――――俺は人を殺していたかもしれない。

 いまさらながら実感する。怖い。怖い、が・・・・。

(・・・・まだ俺はやれる)

「・・・・やってやる」

 実際に小さく呟いてみた。(大丈夫・・・・大丈夫・・・・だいじょうぶ・・・・)

 意地になっているのかもしれない。しかしそれでもいい。勢いに身を任せなければ、どうしてこんなこと出来ようか。

 小さな男一人消えて、何が変わるだろう?答えは簡単、一番に変わるのは自分達だ。人一人犠牲にしてでも、変えたいものがある。

 陸に上がった人魚姫。そしてその姉はどう思ったのだろう。まだ彼女は十五だったのだ。

 弟妹は守るものである。これは無条件だ。少なくとも、自分にはそうである。(だが、)もしかしたら責任感と罪悪感からかもしれない。(妹をこうしてしまったのは自分だ)。

 身近な自分より小さな子供は、親を手本にするように、自分からも何かを吸収するだろう。それが彼女にとっては結果的に害あるものだとしたら。

 そんな感情から、彼女は魔法使いに願ったのかもしれない。髪を捧げて、短剣を持って、危険な水面に顔を出して妹を救いに行った。だがしかし、ああなんてこと、自分があの時ああしていればあの子は。

 救いは利かなかった。所詮、水面に顔を出した程度、陸に居た彼女には届かなかったのである。自分も声を捨て、陸に上がる足を一本骨から裂くほどでないと。

 彼女はそうすべきだった。本当に妹を救いたいのなら、そうするべきだったのだ。

 魔法使いは、今、分かっているのだろうか。今やろうとしていることの、その結果。彼女がいかに性格が悪いかが窺える。どうせ高見で馬鹿にしたように笑っているのだろう。

 悠久の魔法使いはただ一人、全部知っていてそれを見ている。それだけの力があるのに、何もしない。

 だから人は、彼に頭を下げてその力を乞うのだ。

 邪魔なのは青島だったが、真に憎いのは、そんな魔法使いだ。もう“次”を考えなければいけない。

『魔法使い(・・・・)を(・)どう(・・)やって(・・・)殺す(・・)か(・)()か(・)』

 その時、音も無く目の前の扉が開いた。凛は思わず身を固くする。

 が、視線だけはぎらぎらと抜き身の刃のように艶めかしく光っていた。




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