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天の邪鬼と猫かぶり  作者: 陸一じゅん
四章:村娘の証言
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魔法使い


「教えて、凛はどこ?」

「ボクは彼らにたくさんの事をしたね。たーーーーーっくさん。

 そう睨むなよ、疑問は全部、ボクのせいにすればいいさ。きっとそれが答えだもの。ボクはどうせ、君達の疑問から生まれて、それを糧にここにあって、そして疑問を生んでいくんだ。夢を持てよ、青少年。子供は大人の希望の種なんだから」

 噛み合わない会話である。自分を客観的に見ることは、実に珍しい体験だった。自分はあんな声をしていて、自分の表情筋はああ動くのか。捉えようによっては、不気味な光景である。

(あれは山崎さんじゃない)

 アイからそう伝わってきた。なるほど、中身が違えば表情も違うらしい。ゲームソフトと機器の様なものだろうか。普段のボクを見ているアイの眼には、得体のしれない違う何かが映っているらしい。

「ボクにとってもそれは同じさ。過去、君達兄妹にボクは魔法をかけてやった。でもね、ボクはどうしても君のお兄さんが好きになれなかったんだ。わかるかい?あんな得体のしれない子供、気持ち悪くて好きになれやしない。とんだゲテモノだよ。

 だからボクはあの時、魔法をかけるのを少し躊躇ったんだ。でも君たちの願いはとても似てたから―――つまりさ、こういうことだよ。“理解者が欲しい”。ね?そういうことでしょ?

 馬鹿な大人なんかじゃなくって、限りなく自分に近い人。願いはおんなじだったから、ボクは魔法を半分に分けたんだ」

『ボク、魔法使いは好きになれそうにないや』

「・・・・僕もですよ」

 何ていうんだろう。(・・・・めんどくさい人なんだなぁ・・・)そう、それだ。魔法使いというやつは、なんともめんどくさい性格をしている。すっぱりハッキリ、モノを言えと。ほら、彼女も困惑している。

「・・・・どういう意味?」

「わっかんないかな。つまりね、つまり、こういうこと。

 エネルギー削減?ってやつ。ほんとうはね、魔法使いの魔法は一人一回、おひとりさまワンコースなんだ。でも君たちの場合、どうしてもボクは君のお兄さんに魔法を掛けたくなかった。だから双子らしくはんぶんこ。

 君はどうやら、魔法を掛けられたのは自分だけで、お兄さんはそのとばっちりを受けたって思ってたみたいだけど、実際かけたのはお兄さんの方さ。その願いはお兄さんのものだ。君の言う呪いっていう魔法も。

 で、とどのつまり君達双子には、それぞれ半分だけ魔法をかけてもらえる権利があるんだ。お兄さんはもう、君を守るために使っちゃったけどね。

 で、どうする?半分ならちょうど、人探し程度になっちゃうんだよね。君はどうしたい?疑問を全部解答するのも有りだよ」

「・・・・・」

「とりあえず、自分が正しいと思う選択をしなよ?どうせ後悔するのは君だもの」

 きゃらきゃらきゃらきゃら。

 引き攣ったように魔法使いは笑った。

「ドイツにいた、とある三兄弟の母親は、屠殺ごっこの果てに、本当に弟を刺殺した長男に驚き、とっさの激情に息子をころしていしまう。はっ、と我に返り、周りを見れば、そこにあるのは包丁を持つ自分と転がるもの、少し向こうには産湯に溺れた末息子。さてこういうお話だ」

 グリム童話第一版。あまりの内容に削除された話。

「勝てば官軍。負ければ賊軍。結婚し、女の幸せというものを余すことなく全うした母の末に待っていたのは、地獄絵巻の我が家の様子。母は子に命をもって教えたのだ、『痛みは必ず返ってくる』と。母と末子は教育の果て犠牲になったのさ」

 大仰に腕を広げて、身振り手振りも(といっても、ボクの体の方には怪我があるのでメインは手振りだが)激しく魔法使いは熱弁した。

「確かにここにあるのは、そこの山崎梓さんの体に、君の兄が魔法使いと呼んだ存在だ。ボクには体が無いからね、少しお借りしているんだけど、ま、次が見つかればすぐにでも出ていくさ。

 ボクにあるのは、魔法のみ。ボク自身が、どこぞの誰かさんが創った存在だ。ボクにできるのは、こうして魔法をかけるだけなんだ。ボクは呪いなんて知らないし、かけたつもりもない。いつか君達にはそれが必要になる」

『めんどくさい人だね、何が言いたいのさ』

 アイからさらに困惑した雰囲気が伝わってくる。なんだって言うんだ。

「・・・・」

 彼には一つ仮説があったのだ。

「ボクは、自分の意志なんて端から持ってない。ボクを求める人が居なければ、何もできないのさ。山崎梓さん、その体を望んだのは君自身だよ。君の体のこの状態を望んだのも、他の誰かでボクじゃない。ボクの意志なんて無いんだ。今のボクは君なんだよ」


 魔法使いは言った。

「今の“魔法使い”は君さ」





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