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天の邪鬼と猫かぶり  作者: 陸一じゅん
四章:村娘の証言
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願い



「二年前、わたしは凛に会いに行った」

 年賀状の住所を片手に『小嶋凛』の名前を探し、彼の居る街に来た。彼の通っている中学校を見つけて、門のところで兄を待ち伏せた。家に行くほど、わたしに勇気はなかった。母には会いたくなかったのだ。会いたいのは凛だけだった。

 でも、凛はいくら待っても現れない。当然だ。その時彼は、青島先生とのことで学校に来ていなかった。だからわたしは、一度家に帰ろうとした。

 魔法使いに会ったのはその帰り道だ。〟それ“はわたしに夢を見せた。


「夢?」

「ああ、そう。気付いたら夢を見てた」


 必ずしも、寝ている時だけ見るものではない。最初のそれは、まさに白昼夢そのものだった。わたしは確かに、その時魔法使いと会話したはずである。よくは覚えていない。

 夢の世界については、わたし達だけのものだから何とも言えない。わたしはその夢で凛に会った。それが魔法使いの魔法だった。それから、凛にはいつでも夢で会えるようになった。

 実際に電話とかでもこっそりと連絡をとるようにもなったけど、でも夢で逢えば姿も表情もわかるから、そつちのほうがずっと多かった。

 凛はあのことがあって、あまり家から出られなかったし、距離の問題もあった。夢で会うのは、たった一つといってもいい手段だった。

 凛はもう自分の力のことは認識していて、『セイレーン』と名付けた。海で船人を誘い、溺れさせる西洋の妖怪の名前。

 人魚とも言われるそれになぞらえて、彼はその夢で逢うことを『人魚姫が足を手に入れた』と言った。


「凛は、童話オタクなんだ」

「童話オタク?」

「ほら、白雪姫の第一版は継母じゃなくて実の母だったとか、ヘンゼルとグレーテルは子捨ての話だとか、そういう裏側の話が好きなんだ」

 人魚姫は一つの悲劇の形である。人魚というものは、昔から報われることは無いのだ。八百比丘尼では娘が洞窟の奥に消え、ろうそく屋の人魚は売られていった。

「山崎さんと気が合いそうですね」

『いや、むしろ同族嫌悪だったよ』

「・・・・・・」


 呪いに気付いたのは、まずわたしだった。気が付いたらそうなっていた、としか言いようがない。

 人が人に見えない。全ての人間は、動き回って言葉を話す、別の違う何かだった。気がつけばそうなっていて、わたしは気が狂いそうになった。大好きだった部活を初めてサボって、学校から逃げるように家に帰った途端、電話が鳴った。     凛からだった。

 偶然だったのか、何かを感じたのか。初めて繋がりをはっきりと感じて、ずいぶんと安心した。

 それからは対人関係が、ぐるっと一回転した気分だった。

 表情が見えないから苦手だった電話が、好ましいと感じるようになり、逆に顔を合わせて何かを話すのが苦手になった。部活も、『受験のため』と言い訳してやめた。

 支えは凛だった。彼は渋るわたしを進学させるために説得して、わたしはせめての対処として、一番近所の女子高を受験した。


「そこでなっちゃんとミヅキに出会って・・・・」

「ちょっとまってください。魔法使いは、どうなったんですか?」

「いつのまにか消えてた。魔法使いは、わたしにもよくわからないんだ」


 凛とは違うけれど、わたしにも力の様な物はあった。凛と違い、わたしはその力を大分小さなころから自覚していて、たまに使う程度だった。

 小さな予知能力のようなものだ。少し先だったり、数年単位先だったり、いつ起こることか分からないから、見えても大したことは出来ない。ただ、良い結果が見えれば、それを目指して頑張る、程度のものだった。

 見えるのは、何かに集中しているとき。気持ちが昂ぶっているとき。眠っている時に夢として見ることも多い。ただ、その場合夢なのか予知なのか、その時にならないとわからないから、あまり活用は出来ない。

 見えるのはだいたい数秒から、長くても一分から二分。

「わたしがさっき見えたのは、凛が全てをわたしに告白する瞬間だった」

 未来のわたしは戦慄する。そして何も知らずにいた自分を責め、兄を責めた。

 それだけの映像だったけれど、十分だった。凛がやること、そしてその結果。


「わたしは・・・・兄が、傷つくのは見たくない」

 足を進めながら、爛は自分の手を睨みつけた。

「元凶は、やっぱり魔法使いですか」

「魔法使いがどんなものかは、わたしにはわからない。凛もそうだったはずだけど、もしかしたら凛は、何かに気付いたのかもしれない」


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