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「ねえ西藤、それ、アンタの兄貴でしょ」

 そもそもわたしは興味が無い。興味が無ければ、それはわたしにとって不必要なものだ。しかし、そうも言っていられない事態が起きた。それが三日前のあの日のことである。

「ちょっと聞いたんだけど、青島ってまだ中学の先生してたころに生徒襲って首になったんだって」

「うっそまじで!」

 火に油、ならぬ灯油、否、ガソリンだ。そこにさらに薪を投げ込んだのが大野さんだった。

「知ってるそれ」わたしは自分の耳を疑った。




「ねえ西藤、それ、アンタの兄貴でしょ」





「アタシ、見たよ。昨日、青島と歩いてたでしょ?」・・・・わたしじゃない。

「じゃぁアンタの兄貴?双子なんでしょ?そっくりね~」

「男の売春は罪にならないって言うから、安心なんじゃないの?」

「ちょっと大野ッ!」声をあげたのはなっちゃんだった。

「兄貴に似てるその顔で誘ったんでしょ。やーね」そう言う、大野さんの顔は憤怒に燃えるように真っ赤だった。

 奥歯を噛みしめ、そう大きくない声で呟くように言葉が飛び出す。放課後の騒がしかった教室は、いつしか静まり返っていた。

 わたしはピンときた。どうやら、こんなわたしにも女の感というものは一端にあったらしい。

 大野さんはたぶん、恋をしている。それも青島先生に。


「いいかげんにしなさいよ・・・・大野」静かに、ミヅキが席を立った。

「最低よね。青島もさぁ・・・・まさか男相手とか、どんだけのことしたらそうなんのかしらね」



 謂れのない中傷に興味はなかった。想いなんて目の見えないフワフワしたものが原因なら、真相は本人しかわからない。もし、青島先生がわたしを好きだとしても、わたしにはその気はないのだから。

 告白でもして来ればまた違っただろうが、青島先生は何も言ってこないのだ。まだ、わたしは当事者と傍観者の間をうろうろしている。しかし、それに凛と、青島先生の過去という具体的なものが発生すればまた別だ。

 もう興味云々の問題ではない。わたしは事実に、ぽつねんと立ち尽くすことしか出来ない。

 ちょうどその瞬間、ミヅキの放った音が響いた。






 わたしは兄に会いに行ったあの日、人間を見る目を無くした。


 魔法使いは確かにわたしと兄と引き合わせてくれた。しかし、その対価というようにわたし達兄妹は、人を人と認識できなくなった。

 これは呪いだろう。あまりのことに、わたしは大好きだったスポーツもやめてしまった。チームプレーがで居ないわたしが、チームに居られるはずがなかった。

 だけれど、容姿が分からない分、より対人関係には内面の相性が現れた気がする。短気で男前なミヅキと、明るいなっちゃんは、そうして出来た親友だ。


 凛はわたしが唯一視覚的に『人間』に見える人で、たった一人の大切な兄だ。魔法使いのことは憎んでいるといってもいい。しかし自業自得といえばそれまでなのだ。


 凛に会いたいと願ったのはわたし自信。兄に会いたかった。この気持ちを共有できる、同じ立場の誰かが欲しかった。見たことも会ったこともない兄だから、愛していたかと言われると、何も言えない。

 ただ双子という繋がりには、他には無い何かがあるんじゃないかと思った。

 わたしは興味のないものはどうでもいい、という性質である。わたしはまだ見ぬ兄に、多大な興味があった。



 今ならそれ以上のものも有ると、胸を張れるだろう。

 兄の特異体質も、それによって、かつてそういうことがあったことも知ってはいた。それが青島先生相手だったというのは初耳だったけれど。

 どんな偶然なのだろう。兄を辱めた人が、わたしの近くに居た。そしてその兄は、その男と歩いていたという。ついでにその男は、わたしに好意を抱いているらしい。

 なんだそれは。偶然なんてもんじゃない。そもそも兄は、県を隔てた遠く向こうに居たはずだ。それがなんで、この街に居る。そしてなんでわたしはそれを知らない。

 連絡なんて簡単に取れるのだ。


 凛に、わたしに隠さなければならない何かがある。それをしている。そうとしか思えなかった。

 じゃぁそれは何だ?と、考えたときに、浮かんだ人物。

 たぶんきっと、パスケースに入っていた写真は、わたしによく似ている誰か。






 ――――青島先生。





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