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天の邪鬼と猫かぶり  作者: 陸一じゅん
三章:語り部の日常を盗撮
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懐かしの復興版ブルーレイ


『朝は空気が水色だから』なるほど、言われてみればそうかもしれない。子供の発想というのは、凄いものである。それとも、あの少年が特別、感受性というものが豊かなのだろうか。




『藍ちゃん朝早いねぇ、いつもこんななの?』

「・・・・今日は特別ですよ。起こされたんです、山崎さんは寝てましたけどね。あと藍ちゃんはやめてください」

『じゃあ呼び捨てにする。いい?』

「お好きにどうぞ・・・・」



 右手にチリトリ、左手に竹箒を引き摺って藍は境内を歩いていた。

 夜のうちに雨は降り切ったのか、地面に水たまりを残し空は晴れ渡っている。しかし雨は、水たまり以外にも多大な被害を残していた。


「くそ・・・・もう少し降ってくれてればよかったのに」

 境内――――つまり藍の実家、坂城家の家長が住職を務める寺院内だ。早朝から藍が駆り出されたのは、昨夜の雨で落ち葉が一気に落ち、境内を雨にもまれた落ち葉でいっぱいにしてしまったためだった。

 とりあえず、寺の玄関と言える境内の正面から石段までを一掃してくれればいいとの母のお達しだ。寺営業はまず、境内の清潔感からだというのは坂城家の家訓である。


 かくして藍は、登校前の早朝から庭掃除に繰り出したのだったが。

『これは酷い』

 状況は予想以上。高台にあるこの寺は、街のはずれなのでぐるりと木に囲まれている。すこし降りれば、ちょっとした林だ。

 椿などの常緑樹もあるが、基本的に正面は花と紅葉が綺麗な落葉樹が植えられている。父いわく。『その時の姿の移り変わりを楽しむのが日本のいいところ』。(栗毛で瞳がへーゼルの袈裟姿の男が言うと、とってもシュールだと息子は思う)



 ・・・・・まぁつまり。

 ここはとくに落ち葉が多い場所なのである。

 さらに雨の水分を纏った落ち葉は、糊にまみれた紙屑の様な始末で、べっとりと地面に貼り付いている。なぜ朝からこんなに憂鬱にならねばならない。まだ朝食も食べていないのだ。しかも今日は特に寒い。



『アイ、寒くないの?』

「山崎さんを見てるだけで寒いです」

『えっ?何?原因ボクかい?理不尽だねぇキミ。女子高生の生足なめんなよ。ハートが熱いから皮膚が麻痺するんだ。凄いだろ』

「それもう危険じゃないですか・・・・」

 呆れた風に半眼でねめつける藍に、梓は得意げに続ける。

『男にも言えることだよ。ほら、クラスに一人は居るだろ。一年中半袖短パンで頑張るやつが』

「絶滅危惧種です」

『えっ!ボクの時は大山くんと大沢くんっていうアホ二人が居たよ!?・・・・まずいな。数年の間に時代は動いてる・・・・。まさかそんな小中学生にまで草食男児化が進むなんて・・・・!』

「ああ、小学生だから、草食男『児』・・・・」

『そうそう・・・・っていうか、今日はなんでかよく話してくれるね。いつも無視してるのに』


 大袈裟に驚いてみせる梓に背を向け、箒を手に取り藍は言った。

「別に・・・・・今誰も居ないから」

『はぁ、なるほど。誰も居ないところに話しかけて、気味悪がられる主人公はセオリーだよね。実によくあることだ』


 藍は今まで頭の中だけだった言葉を口に出しただけである。

 まだ梓を成仏させようとしていた二日までは会話もあったが、三日目には早々藍は諦めてしまったのだ。

 二日間。その時は知らない女の子と共に居ると言う緊張と、遠慮言えなかったことも上乗せして口に出した。



 なんと言ってもまだ四日目。藍にしてみれば、これは精一杯の譲歩である。【被害者】と【目撃者】ではなく、友人という関係に繰り上げしなければいけないという思いを、藍は感じていた。

『・・・・耳赤くない?』

「別に寒いからですよ」

『アイは即答する癖あるよね』

 そんなことはない。とは言い切れない。何せ昨日、酒氏ミヅキに同じようなことを言われたばかりだ



『妖しいなぁ』とのニヤニヤ笑いを思い出し、むっとする。いやなものを思い出してしまった。





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