ビデオテープを巻き戻せ
藍は横目で梓を見た。
梓は相変わらずだ。先ほどから、藍のベットの上で背を向けて寝息を立てている。
(よくもまぁ、他人の部屋で・・・・)
呆れつつ、ふと、幽霊に睡眠は必要なのだろうかと思った。いや、ただの幽体離脱とわかったから生き霊か。
睡眠は脳内でその日にあったことを整理するため、必要だという。夢を見るのは、その日に会ったことを再生していくためだと。
梓は意識も蓄積する記憶もあるのだから、当然、睡眠も必要なのだろうか。いやでも、肝心の脳の詰まった体は数キロ先の病院だ。
「・・・・・・」
今、時刻は夜の十一時。当たり前だが、外は真っ暗、夜だ。窓には数多の雫が貼り付いては落ちていき、何も見えやしない。
あの後、病院から帰ったすぐ後に雨が降り出したのだ。しとしとどころではなく、風も相まってザァザァと屋根まで突破し窓に討ってくる。
(・・・・そろそろ寝ようかな)
明日の朝は早いだろう。この雨では登校前にもたつくかもしれない。
どうやら、梓の体はこちらが視覚的に認識してやり、触ろうとしなければ触れられないものらしい。意識の落ちた梓の肩を軽く揺らしてみたが、彼女はまるで死体のように―――この表現は悪いか。
まるで泥のように眠っていて、ピクリともしなかった。
仕方ないので、梓と背を合わせる様にして横になった。電気を消す。
(明日、山崎さんと話してみよう。うん)
少しの譲歩。こういったことは苦手だけれど、誰でもやっていることだ。自分にも出来ないわけがない。
彼女はきっと、訊かなければ言わないのだ。