第7話 居場所を作るということ
焚き火の音が、山の静けさに溶けていた。
夜が来る前に、最低限の準備は整えた。
倒木を利用した簡単な風除け。
地面には、俺が選んだ“地脈の落ち着いた場所”。
昨日までの夜とは、空気がまるで違う。
「……本当に、ここは楽だな」
大男が、火に手をかざしながら言った。
「胸が焼ける感じがしねえ」
「一時的だけどな」
俺は答える。
「地脈を無理やり抑えてるわけじゃない。ただ、流れを整えてるだけだ」
「それで十分だ」
大男は短く頷いた。
ミリアは、少し離れた場所で、落ち葉を集めていた。
ぎこちない手つきだが、真剣だ。
「……何か、手伝えることありますか?」
控えめな声。
「無理しなくていい」
「でも……何もしないで守られるだけは、嫌です」
その言葉に、思わずミリアを見る。
逃げてきた。
追われてきた。
それでも、“役に立ちたい”と言う。
「じゃあ……それ、焚き火にくべてくれ」
「はい!」
彼女は、少し嬉しそうに頷いた。
火が安定し、湯を沸かす。
乾燥肉を炙り、分け合う。
豪華とは程遠いが、不思議と満たされていた。
「……名前、まだ聞いてなかったな」
大男が言った。
「俺はグラン。元は……まあ、いい」
「俺は――」
名乗ろうとして、一瞬、迷った。
王都で呼ばれていた名前を、ここで使う必要があるのか。
「……レイでいい」
即席の名だ。
だが、不思議としっくりきた。
「レイさん……」
ミリアが、静かに繰り返す。
その呼び方に、胸の奥が少しだけ温かくなる。
「ミリア」
俺は言った。
「追われてる理由、話せるか?」
「……少しだけ」
彼女は、焚き火を見つめながら口を開いた。
「私、魔力が……変なんです」
「変?」
「流れが、見えるんです。ぼんやりですけど」
その言葉に、俺の心臓が跳ねた。
「……地脈じゃなく?」
「はい。人とか、魔物とか……」
グランが低く唸る。
「それ、教会案件じゃねえか」
「……だから、追われました」
ミリアは、ぎゅっと膝を抱えた。
「“危険だから保護する”って言われて。でも……」
「実態は、管理だ」
俺は、はっきり言った。
王国は、制御できないものを嫌う。
理解できない力は、囲い込むか、切り捨てるか。
「ここなら……大丈夫、でしょうか」
ミリアの問いは、弱々しい。
だが、俺は迷わなかった。
「ああ」
地面に手を当てる。
ここは、穏やかだ。
強すぎるが、正直だ。
「この山は、嘘をつかない」
「……?」
「無理なことは、無理だって返してくる。だから、生き方を選べる」
ミリアは、ゆっくり頷いた。
「……私、ここにいていいですか」
「いる場所がないなら、作ればいい」
それは、誰に向けた言葉だったのか。
彼女か。
それとも、かつての自分か。
グランが、立ち上がる。
「なら決まりだな」
「何がだ」
「ここを拠点にする」
断言だった。
「移動し続けるのは、もう終わりだ」
「……そうだな」
夜が、静かに更けていく。
魔物の気配は、遠い。
地脈は、穏やかだ。
王国が“価値がない”と切り捨てた場所で、
俺たちは、初めて腰を下ろした。
居場所は、与えられるものじゃない。
――作るものだ。
焚き火の向こうで、ミリアが小さく笑った。
その笑顔を見て、俺は思う。
ここから、何かが始まる。
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