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追放された地脈調律士の山奥スローライフ 〜戦わずに魔境を安全地帯にしていたら、王国が慌てて探しに来ました〜  作者: 山奥たける


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第6話 山奥で出会った少女

 朝の山は、静かだった。


 夜の狂気が嘘のように、澄んだ空気が肺に満ちる。

 大男と俺は、老人を岩陰に弔い、短く祈りを捧げた。


「……名前、聞いてなかったな」

「だな」


 それでよかったのかもしれない。

 この山では、名前よりも“生きた事実”の方が重い。


 俺たちは再び歩き出した。


 地脈は、さらに濃くなっている。

 だが昨夜ほど荒れてはいない。むしろ――整っている。


 「……この辺りか」


 俺は足を止めた。


 水の気配。

 大地の奥で、冷たい流れが安定して循環している。


「水場だな」

「分かるのか?」


「なんとなく、だ」


 誤魔化したが、実際ははっきり分かる。

 地脈が“ここだ”と教えてくれている。


 拠点にするなら、悪くない。


 そう思った、その時だった。


 ――がさり。


 森の奥で、枝が折れる音。


 大男が即座に前に出る。


「魔物か?」

「……違う」


 音が、軽い。


 次の瞬間、木々を突き破るようにして、少女が飛び出してきた。


「はぁ……はぁ……!」


 年は、十五、六だろうか。

 薄汚れたマント、擦り切れた靴。

 だが、その目は――必死だった。


 彼女は俺たちを見て、一瞬だけ安堵の色を浮かべ、次の瞬間、振り返る。


「来ないで……!」


 直後、地面が揺れた。


 低い咆哮。

 魔物だ。それも、かなり大きい。


 森の奥から現れたのは、岩のような外皮を持つ獣。

 魔力をまとい、赤い目でこちらを睨んでいる。


「チッ……」


 大男が歯噛みする。


「戦えば勝てるか?」

「無理だ」


 正直に言った。


「この濃度じゃ、あれは地脈の影響を受けすぎてる」


 強すぎる。


 少女は、震えながらも俺たちの前に立とうとした。


「私が……囮になります」

「やめろ!」


 思わず、声を荒げた。


 俺は、一歩前に出る。


 剣はない。

 魔法も、撃てない。


 だが――やることは決まっている。


 俺は、地面に手を当てた。


 深く、息を吸う。


 ――流れろ。

 ――ここは、通る場所じゃない。


 地脈に、静かに“お願い”する感覚。


 魔物が、一瞬、足を止めた。


「……?」


 次の瞬間、獣は低く唸り、方向を変える。

 俺たちを避けるように、森の奥へと消えていった。


 完全に、気配が消える。


 沈黙。


「……今の、何だ?」


 大男が、呆然と呟く。


 少女は、目を見開いたまま俺を見ていた。


「……行った?」

「ああ」


 そう答えると、彼女はその場にへたり込んだ。


「……生きてる……」


 しばらくして、彼女は顔を上げ、深く頭を下げた。


「ありがとうございます! 本当に……!」


「礼はいらない」


 俺は首を振った。


「ここは、危険だ。どうして一人で?」


 少女は、少し迷ってから答えた。


「……追われて、逃げてきました」

「誰に?」

「人、です」


 その一言で、察しはついた。


 王国だ。

 もしくは、それに連なる何か。


「名前は?」

「……ミリア」


 小さく、だがはっきり言った。


「行く場所は?」

「……ありません」


 その言葉は、俺の胸に静かに刺さった。


 俺も、同じだ。


 山奥に捨てられ、

 価値がないと切り捨てられ、

 それでも、生きている。


 俺は、地脈の穏やかな流れを感じながら、言った。


「ここに、しばらくいるといい」

「え……?」


「安全とは言えない。でも――」

「……でも?」


 俺は、少しだけ言葉を選んでから、続けた。


「少なくとも、追い出しはしない」


 ミリアの目が、揺れた。


「……本当に?」


「ああ」


 彼女は、泣きそうな顔で、笑った。


 こうして、

 山奥での最初の“出会い”が、生まれた。


 価値を測られなかった者同士の、

 小さな、だが確かな出会いだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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