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追放された地脈調律士の山奥スローライフ 〜戦わずに魔境を安全地帯にしていたら、王国が慌てて探しに来ました〜  作者: 山奥たける


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第2話 失敗の責任

 王都の宿に戻っても、眠りは浅かった。

 天井の染みを見つめながら、何度も同じ考えが頭を巡る。


 ――もし、あの時。


 もし、もっと強く主張していれば。

 もし、戦える職能だったなら。


 答えは、どれも同じだ。


 意味はない。


 朝、扉を叩く音で現実に引き戻された。


「ギルドからだ。すぐ来い」


 扉越しの兵士の声は、事務的だった。

 猶予は与えられない。俺は最低限の荷をまとめ、宿を出た。


 再び足を踏み入れたギルド本部は、昨日と同じようでいて、決定的に違って見えた。

 視線が、露骨だ。


 同情ではない。

 好奇でもない。


 確認――

 「あいつが、切られたやつか」


 そんな目だった。


 会議室には、昨日よりも人が多かった。

 ギルド長、貴族役人、書記官、そして見慣れた顔が一人。


 ――討伐隊の隊長。


 鉱山案件で、強引な突撃を命じた男だ。


「さて、最終確認だ」


 ギルド長が口を開く。


「今回の鉱山調査失敗について、責任の所在を明確にする」


 書記官が書類を読み上げる。


「地脈調査担当である《地脈調律士》が、安定化可能と誤った判断を提出。これにより――」


「違う」


 思わず声が出た。


「俺は、安定化には時間と準備が必要だと――」


「結果がすべてだ」


 昨日と同じ言葉。

 同じ温度。

 同じ結論。


 討伐隊長が肩をすくめる。


「俺たちは報告を信じた。それだけだ」

「信じた? 地脈の暴走を無視したのは――」


「証拠は?」


 貴族役人が冷たく言い放つ。


 証拠。

 改ざんされた報告書が、ここでは“正式文書”だ。


 部屋は静まり返っていた。

 誰も、俺の味方ではない。


 ――いや、一人だけ、目を逸らしている。


 書記官席の端に座る、元同僚。

 以前、俺の調査に助けられた男だ。


 だが彼は、何も言わない。


 沈黙は、同意と同じだ。


「結論として」


 ギルド長が宣告する。


「君は王都ギルドにおいて不要な人材と判断された」

「……そうか」


 声は、驚くほど落ち着いていた。


「処分は昨日伝えた通りだ。山域への移送は明朝」

「質問は?」


「ない」


 本当は、山ほどある。

 だが、聞く価値がないと分かっていた。


 会議は、数分で終わった。

 俺の人生が、紙切れ一枚で決まるには十分な時間だった。


 廊下に出ると、討伐隊長が後ろから声をかけてきた。


「恨むなよ」

「恨んでない」


 事実だ。


「お前の職能は、王都向きじゃなかった。それだけだ」


 それだけ。

 便利な言葉だ。


「そうだな」


 俺は、それ以上何も言わずに歩き出した。


 私物の引き取りを終え、ギルドを出る。

 昨日と同じ道。だが、もう戻ることはない。


 街の喧騒が、遠く感じられた。


 剣を誇る者。

 魔法を誇る者。

 数値で測れる力を持つ者。


 この街は、そういう人間のためにある。


 ――地を支える力など、誰も見ようとしない。


 宿に戻る途中、細い路地でリナに呼び止められた。


「……やっぱり、追放なんですね」

「ああ」


 彼女は唇を噛み、しばらく黙っていたが、やがて小さく頭を下げた。


「ごめんなさい。私、何もできなくて」

「謝ることじゃない」


「でも……」


 彼女は小さな声で続ける。


「あなたがいなかったら、あの地下街区、三年前に崩れてました」

「覚えてないな」

「私は覚えてます」


 その言葉だけで、十分だった。


 王都に、俺を覚えている人間が一人でもいる。

 それだけで、少しだけ救われる。


「生きてください」


 彼女は、真っ直ぐに言った。


「どこに行っても。……生きて、ください」


 俺は一瞬、言葉に詰まり、そして頷いた。


「ああ。生きてみるよ」


 それが、王都で交わした最後の会話だった。


 翌朝、俺は他の追放者たちと共に、簡素な馬車に乗せられた。

 向かう先は、王国地図の端。


 山奥。


 そこが死地であろうと、楽園であろうと、関係ない。


 ここでは、もう何も始まらないのだから。


 馬車は、静かに王都を離れた。

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