第19話 選ばれなかった世界
王都は、以前よりも静かになっていた。
喧騒が消えたわけではない。
ただ、人々の顔から、余裕が消えている。
「……結局、原因は何だったんだ」
酒場の片隅で、男たちが小声で話していた。
「地脈だろ?」
「いや、管理の失敗だって話だ」
「調律士がいなくなってから、おかしくなったらしい」
その名は、誰も口にしない。
だが、皆が同じ人物を思い浮かべている。
ギルド本部では、重苦しい空気が漂っていた。
かつてのギルド長は、今や地方支部への左遷を命じられている。
理由は「判断ミス」。
誰も“追放”という言葉を使わない。
だが、事実は消えなかった。
「……彼が提出していた報告書」
書記官が、古い資料を机に置く。
「今になって、整合性が取れてきました」
「……なぜ、もっと早く」
問いに、答えはない。
あの時、
数字にならないから切り捨てた。
それだけだ。
教会でも、静かな変化が起きていた。
「未登録能力者の“一律保護”方針は、見直す」
公式には、そう発表された。
だが実態は、完全な後退だった。
管理できない力を、
管理しようとしたこと自体が、誤りだったと気づいたのだ。
その報告書の末尾に、こう記されている。
「力は、支配するものではなく、共に在るべきもの」
誰が書いたかは、明記されていない。
一方、山奥の居場所では。
朝の光が、畑を照らしていた。
作物は順調だ。
「……芽、増えましたね」
ミリアが、屈んで言う。
「ああ。土が落ち着いてきてる」
「王都の方は?」
「……少しずつ、だ」
急げば壊れる。
それを、向こうも理解し始めている。
グランが、木材を担ぎながら言った。
「噂は、もう来てる」
「どんなだ」
「王国は、間違えたって話だ」
「……そうか」
レイは、興味なさそうに返す。
もう、関係ない。
「……後悔、してませんか」
ミリアが、ふと尋ねる。
「何をだ」
「王都を、捨てたこと」
レイは、少しだけ考えた。
そして、首を振る。
「後悔しているのは、向こうだ」
「……」
「俺は、選んだ」
「……はい」
「選ばれなかっただけだ」
それだけの違いだ。
夕方、焚き火の前。
レイは、一人で地面に手を当てる。
大地は、穏やかだった。
誰かに評価されなくても、
誰かに管理されなくても。
ここは、ちゃんと応えている。
「……これで、よかった」
それは、誰に聞かせるでもない独白だった。
世界は、彼を選ばなかった。
だが――
彼は、世界を選び直した。
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