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追放された地脈調律士の山奥スローライフ 〜戦わずに魔境を安全地帯にしていたら、王国が慌てて探しに来ました〜  作者: 山奥たける


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第14話 境界を越える者たち

 風が、逆向きに吹いていた。


 山の麓から奥へ進むにつれ、空気が澄み、魔力の圧が和らいでいく。

 それに気づいたのは、調査団の先頭を歩く神官だった。


「……おかしいな」


 白い外套を揺らしながら、彼は立ち止まる。


「地図では、この辺りから魔力濃度が急上昇するはずだが」

「観測値が、下がっています」


 同行する魔術師が、魔導具を覗き込んで答える。


「安定……していますね。異常なほど」


 後方で、護衛兵が小さく舌打ちした。


「魔境だって聞いてたんだがな」

「静かすぎる」


 調査団は、計七名。

 神官二名、魔術師二名、護衛兵三名。


 重武装ではない。

 だが、“保護”という名目の裏にある警戒は、誰もが理解していた。


「……痕跡があります」


 魔術師の一人が、地面を指差す。


「焚き火の跡。新しい」

「人の足跡も……複数だ」


 神官が、眉をひそめる。


「この山域で、人が定住している?」

「……理屈に合いません」


 さらに奥へ進むと、決定的な光景が現れた。


 畑。


 小規模だが、明らかに人の手が入っている。

 作物は、異様なほど瑞々しい。


「……冗談だろ」


 護衛兵が、思わず呟く。


「ここ、廃棄境界だぞ」

「地脈の上だ……」


 魔術師の声が、わずかに震える。


「それも、最も不安定な交差点のはず」


 神官の一人が、唾を飲み込む。


「……誰が、こんなことを」


 その答えは、すぐに現れた。


「そこまでだ」


 低く、落ち着いた声。


 一同が、はっと振り向く。


 木々の間から現れたのは、斧を肩に担いだ大男――グランだった。


「これ以上入るなら、理由を言え」

「……我々は」


 神官が、一歩前に出る。


「王国教会・聖務院の調査団だ。争う意思はない」

「争うかどうかは、お前ら次第だ」


 張り詰めた空気。


 だが、剣は抜かれない。


 やがて、別の人物が姿を見せた。


 ――レイ。


 飾り気のない服装。

 武器らしい武器も持たず、ただ静かに立っている。


「何の用だ」


 神官は、内心で首を傾げた。


(この男……魔力反応が、ほとんどない?)


 ありえない。

 この場所を制御している存在が、無反応なはずがない。


「我々は、この山域で発生している地脈の安定化現象について――」

「自然だ」


 レイは、即答した。


「……自然、だと?」


「流れを整えただけだ。壊していない」


 魔術師が、思わず声を荒げる。


「それが、どれほど高度なことか分かって――」

「分かってる」


 レイは、静かに遮った。


「だから、やっている」


 言葉が、噛み合わない。


 神官は、視線を巡らせる。


 畑。

 水場。

 焚き火跡。

 人の気配。


「……ここに、何人いる」

「必要なだけだ」


 答えになっていない。


 だが、不思議と威圧感はなかった。


「我々は、保護を――」

「要らない」


 今度は、グランが言い切った。


「誰も、困ってない」

「……しかし」


「困ってるのは、お前らだろ」


 その一言で、空気が凍る。


 神官は、反論しようとして――止めた。


 確かにそうだ。

 この場所は、安定している。

 被害も、異常も、ない。


 管理する理由が、存在しない。


 その時。


「……あの」


 控えめな声が、場に差し込んだ。


 ミリアだった。


 彼女は、レイの少し後ろに立ち、調査団を見ている。


 魔術師の一人が、はっと息を呑んだ。


「……あの少女……」

「気づくな」


 神官が、低く制する。


 だが、遅かった。


 ミリアの存在は、

 この場の“答え”として、あまりにも明確だった。


(この少女と、この男……)

(力の相性が、異常だ)


 神官は、確信する。


 ここは、力で奪える場所ではない。


「……本日の調査は、ここまでとする」


 神官は、そう宣言した。


「改めて、正式な使者を送ろう」

「必要ない」


 レイは、ただ言った。


「用がないなら、帰れ」


 強くも、荒くもない。

 だが、拒絶としては十分だった。


 調査団は、静かに撤退を始める。


 山を下りながら、誰かが呟いた。


「……化け物じゃなかったな」

「いや」


 神官が答える。


「我々の方が、異物だった」


 山奥の居場所では、

 焚き火の煙が、変わらず立ち上っていた。


 嵐は、まだ来ない。


 だが――

 境界は、越えられた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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