第13話 異変報告
王都・聖務院。
白い石で造られた円形の会議室は、昼なお薄暗い。
天井の採光窓から差し込む光が、床に描かれた魔法陣を淡く照らしている。
「――再度、報告を」
穏やかな声だった。
だが、その場にいる者たちは、誰一人として気を抜いていない。
声の主は、教会聖務院第三席、カール=エディクト。
魔力観測と異端対策を統括する男だ。
「北東山域、通称“廃棄境界”にて、地脈の安定化を確認しました」
報告役の神官が、一歩前に出る。
「安定化?」
「はい。通常であれば、あの山域は周期的に魔力暴走を起こします」
「……それが?」
「三十日前から、乱れが急激に減少しています」
室内が、わずかにざわつく。
「自然回復、ではないな」
「ええ。人為的です」
カールは、指を組んだ。
「規模は?」
「局所的ですが……精度が高すぎます」
「精度?」
「地脈を“抑えている”のではなく、“流している”形跡です」
その言葉に、年配の神官が眉をひそめた。
「そんな芸当、王都でも数名しか……」
「……いえ」
報告役は、言葉を選ぶ。
「王都式とは、違います」
「何が違う」
「魔力に逆らっていない」
沈黙。
それは、教会の理論と正反対だった。
「……現地に、術者は確認できたか」
「直接は、まだ」
「だが?」
「周辺で、生存者の目撃情報が増えています」
「生存者?」
「追放者、流民、行き場を失った者たちです」
カールの目が、細くなる。
「集落ができている可能性は?」
「……否定できません」
別の神官が、書類を差し出した。
「さらに、問題があります」
カールは受け取り、目を通す。
「……“魔力感知能力を持つ少女”?」
「はい。数年前、教会が保護対象とした個体に、特徴が一致します」
「逃亡した、あの子か」
カールは、静かに息を吐いた。
「まだ生きていたか」
「それだけではありません」
神官は続ける。
「彼女の能力は、周囲の魔力に“同調”するタイプ」
「……地脈安定化との相性が、良すぎるな」
会議室の空気が、冷える。
「結論を言え」
カールは、はっきりと言った。
「その山域には――」
「制御されていない力が存在します」
誰も、否定しなかった。
カールは、椅子から立ち上がる。
「直ちに調査団を編成する」
「武装は?」
「最低限でいい」
少し、考えてから付け加える。
「――“保護”を名目にな」
「……はい」
神官たちは、一斉に頭を下げた。
会議室を出たあと、カールは廊下の窓から王都を見下ろす。
「……まただ」
かつて、王国は同じ過ちを繰り返した。
理解できない力を、管理し、囲い込み、壊した。
「今回は……」
彼は、呟く。
「こちらが、試される番か」
山奥の小さな居場所では、
まだ誰も、この動きを知らない。
だが――
外の世界は、もう気づいている。
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