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追放された地脈調律士の山奥スローライフ 〜戦わずに魔境を安全地帯にしていたら、王国が慌てて探しに来ました〜  作者: 山奥たける


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第12話 小さなルール

 朝の焚き火は、いつもより大きかった。


 人数が増えた。それだけのことだ。

 だが、それだけで空気は変わる。


 火を囲むのは、レイ、グラン、ミリア、そして昨夜辿り着いた四人。

 簡素な朝食――乾燥肉と湯で戻した木の実粥を分け合う。


 誰も文句は言わない。

 それだけで、ここに来た理由が分かる。


「……まず、話しておく」


 レイが口を開くと、全員が背筋を伸ばした。

 命を預ける場所では、声の重さが違う。


「ここは、王国の村じゃない」

「……はい」


 元農夫の男が、真剣な顔で頷く。


「だから、王国のやり方も通らない」

「……税も、徴兵も、ない?」

「ない」


 その言葉に、誰かが小さく息を呑んだ。


「その代わり」


 レイは、少しだけ間を置く。


「ここでは、守るべきものがある」

「守る……?」


「秩序だ」


 堅苦しい言葉だが、必要だった。


「まず一つ目。暴力は禁止だ」

「……自衛も?」

「自衛は別だ。だが――」

「力で黙らせるのは、違う」


 全員が頷く。


「二つ目。情報は、勝手に外へ流さない」

「噂も、ですか」

「“助かった”程度ならいい。でも――」

「場所や仕組みは、話すな」


 それは、この拠点を守るための線引きだった。


「三つ目」


 レイは、少しだけ視線を落とす。


「出ていくのは、自由だ」

「……え?」


 意外そうな声が上がる。


「縛らない。閉じ込めない」

「でも……」


「その代わり」


 レイは、はっきり言った。


「戻ってくるなら、ルールは守れ」

「……分かりました」


 それでいい。


 ミリアが、控えめに手を挙げる。


「……一つ、いいですか」

「どうした」


「子どもと、体調が悪い人は……」

「働かなくていい」


 即答だった。


「できることを、できる範囲でやればいい」

「……はい」


 ミリアは、ほっとしたように微笑んだ。


 グランが腕を組み、口を開く。


「俺からも一つ」

「何だ」


「見張りと狩りは、俺がまとめる」

「……助かる」


「武器は最低限、共同管理だ」

「争い防止ですね」

「そうだ」


 自然と役割が決まっていく。

 誰かが命令したわけじゃない。


 必要だから、そうなった。


 昼前、作業が始まる。


 倒木を整理し、簡易的な畑の区画を作る。

 地脈が安定している場所だけを、レイが選ぶ。


「ここは、芽が出る」

「ここは?」

「……駄目だ。根腐れする」


 誰も疑わない。

 すでに、実績がある。


 ミリアは、子どもたちのそばで魔力の流れを感じ取り、

 疲れが出そうな時は、そっと知らせる。


「……この人、少し休ませた方が」

「分かった」


 夕方。


 焚き火の周りに、自然と人が集まった。


 誰かが笑い、

 誰かがため息をつき、

 誰かが子どもに毛布をかける。


 レイは、その光景を少し離れた場所から見ていた。


「……村みたいだな」


 グランが、隣に立つ。


「まだ“みたい”だ」

「だな」


 レイは、静かに言う。


「でも、ここは“居場所”になり始めてる」

「責任、重くなるぞ」

「……ああ」


 それでも、不思議と嫌じゃなかった。


 王都では、責任を押し付けられた。

 ここでは――引き受けている。


 夜。


 焚き火が落ち着き、皆が寝静まる。


 ミリアが、そっとレイの隣に座った。


「……怖くないですか」

「何がだ」

「人が増えること」


 正直な問いだった。


「怖いさ」


 レイは、隠さなかった。


「でも……」


 地面に手を当てる。


「この場所は、嘘をつかない」

「……はい」


「壊れるなら、無理をした時だ」

「……じゃあ」

「無理をしなければいい」


 ミリアは、小さく笑った。


「簡単ですね」

「簡単だ」


 簡単で、難しい。


 だが――


 その夜、誰も去らなかった。


 それが、答えだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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