第11話 辿り着く者
朝、空気がわずかにざわついていた。
嫌な感じではない。
ただ、誰かが近づいている――そんな予感。
「……来るな」
レイが呟くと、ミリアがすぐに反応した。
「はい。三人……いえ、四人です」
「魔物じゃないな?」
「人です。……疲れてます」
グランが立ち上がり、斧を肩に担ぐ。
「追放者か?」
「多分な」
レイは、地面に軽く手を当てる。
地脈は、乱れていない。
敵意も、ない。
だから――追い返す理由も、ない。
しばらくして、森の向こうから人影が現れた。
男が二人、女が一人、そして――子どもが一人。
全員、服は汚れ、足取りは重い。
先頭の男が、レイたちを見るなり、膝をついた。
「……ここは……」
「座れ」
レイは短く言う。
「話は、そのあとだ」
焚き火のそばに案内し、水を渡す。
女が、涙ぐみながら何度も頭を下げた。
「……助かりました……」
「まだ助けてはいない」
レイは、はっきり言った。
「ここは、安全だが、楽園じゃない」
男は、水を飲み干し、深く息を吐いた。
「それで、十分です」
彼は名を名乗った。
元は王都近郊の農村出身。
凶作と重税で村を捨て、流れ流れてここまで来たという。
「……噂を、聞きました」
レイの眉が、わずかに動く。
「噂?」
「山奥に……魔物が寄りつかない場所がある、と」
グランが低く唸る。
「もう広まってるか」
「まだ、半信半疑の噂です」
男は正直だった。
「でも……子どもが、限界で」
女が、腕の中の子を抱き寄せる。
熱はないが、ひどく衰弱している。
ミリアが、一歩前に出た。
「……少し、診ていいですか」
「お願いします……!」
彼女は、そっと子どものそばに座り、目を閉じる。
「……魔力酔いですね。長く濃い場所を歩きすぎた」
「助かるのか」
レイが問う。
「ここなら……流せます」
ミリアの声は、もう震えていなかった。
レイは頷く。
「やってみろ」
地脈を、軽く整える。
ミリアは、その流れに“合わせる”。
しばらくして、子どもの呼吸が落ち着いた。
「……楽になった」
か細い声。
女が、声を殺して泣いた。
沈黙が落ちる。
レイは、全員を見回した。
「ここに残るなら、条件がある」
「……何でもします」
男は即答した。
「まず一つ」
レイは、指を一本立てる。
「ここでは、力で他人を支配しない」
「……はい」
「二つ目。働ける者は、働く」
「当然です」
「三つ目」
少し、間を置く。
「ここを、外に売らない」
「……売らない?」
「噂を広めるな、とは言わない。でも――」
「無理に人を呼ぶな、ということですね」
理解が早い。
「ああ」
男は、深く頭を下げた。
「……守ります」
それを見て、レイは一つ、息を吐いた。
「なら、今日からここは――」
「……?」
「居場所だ」
グランが、にやりと笑う。
「増えたな」
「……責任も、な」
ミリアは、子どもに微笑みかけながら言った。
「大丈夫。ここ、静かですから」
夕方、焚き火の周りに人が増えた。
笑い声が、少しだけ混じる。
まだ小さい。
まだ脆い。
だが――
レイは、確信していた。
この場所は、もう“偶然の拠点”じゃない。
選ばれた居場所になり始めている。
そして同時に。
いつか必ず、
外の世界が、気づく。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




